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7:奴隷制度とかないわーマジないわー

あらすじ

モンスター服従Lv10の恐ろしさを知りました


※本日2回目の投下です。

今回、次回と少々ゲスい話ですのでご留意下さい。

【エメフラの町・郊外】



 グレイ・ランドは冒険者だ。

 一匹狼の冒険者をもう20年も続けている。

 小柄ながらがっしりとした体格、手入れされていないボサボサの髪と無精髭、そして常にニヤついたような、薄い目をした男である。

 グレイ自身は戦闘より採取や探索で成果をあげる事が多く、過去に受諾した最高難度の依頼はBランク。

 戦闘の依頼の受注こそ少ないが、PTも組まない一匹狼の冒険者としてはかなり優秀な実績を持つ、B級上位の冒険者である。


 しかし彼は中級以上の実績があり、一定の敬意を払われる存在であるはずなのだが、他の冒険者達からこう呼ばれている。

「ドブネズミのグレイ」

 彼の依頼成功率は高い。

 しかしそれ以上に忌避されがちな、冒険者ギルドを介さない「裏」の仕事の請負を隠そうともせず、おおっぴらにするその姿勢が、多くの冒険者……特に若手の冒険者達に嫌われる原因となっているのだ。


 そしてそんな彼が今から行おうとしているのが「奴隷」狩り。もちろん裏の仕事だ。

 聖王国の貴族が「若く、いつまでの美しいエルフの娘の奴隷が欲しい」と依頼してきたのだ。


 こういう仕事はグレイの最も得意とするところだった。

 彼はプライドの高いエルフの思考を熟知しており、暴力振るうことに抵抗が全くない為、「逆らうことなく従順」な奴隷を提供することに長けているのだ。

 そして聖王国では、エルフやドワーフを含む亜人(デミ)の人権保護を行っていない、人間族至上主義の国。

つまりはそういう事(・・・・・)だった。


 奴隷にするエルフの目星はもう付けてある。


 エメフラの町から北に2,000エーカーほど入ったところに住むはぐれエルフ(・・・・・・)

 母子家庭で、母親が1人に子供が3人おり、子供の内訳は娘が1人に息子が2人。

 狙うのはもちろん年頃になった娘だ。

 エルフ達は、皆自分達が美しい容姿をしているのを自覚しており、過去の歴史から自分達が心ない人間にどういう扱いを受けるか知っている。

 しかし彼らは非常にプライドが高く、「一度でも人間に汚された」者の帰還を、たとえ無理矢理さらわれた者であっても極端に嫌がるのだ。


 つまり、一度連れ出してしまえば追っ手は来ない。


 なに、簡単な仕事だ。集落にいるヤツをさらうより100倍は楽だ。

 ニヤニヤと笑いながら、グレイは街道を逸れ、森の中へと入っていった。



【クルワットの森・街道】



「くそっ寄るなこのエロ魔法使い!」

「あら?貴女こそラナちゃんの柔肌に、硬ーい筋肉を押し付けるのは止めてはいかがかしら?」

 アルザとローザの会話なのだが、朝からずっとこの調子である。


 女の子に左右から腕を絡められているという夢のような状況なのだが、流石にこの言い合いにはうんざりする。

 というか、ローザに対抗してアルザからの絡みが、昨日の道中より強引かつ積極的になっている。


 若々しく弾力のあるアルザっぱいは嬉しいのだが、接触頻度があまり高いのは色々良くない。主にフェロモンの分泌的に。

 ローザはローザで、アルザの反応がサドッ気を刺激するのか、何度もからかっては楽しんでいる。


 ローザっぱいは素晴らしい柔らかさなのだが、こちらもあまり積極的に来られるマズイ。うん、気持ちが昂ぶるとフェロモンの分泌量増えるからね。

 正直クスクスに間に入って欲しいのだが『私知らないもーん』といった様子で、小ぶりな果実を齧っている。場所はもちろん定位置となった私の左肩。こいつ、使えねぇ……


 ひたすら生産性のない言い合いに居心地の悪さを感じている私は、気を紛らわすためにクスクスに話しかける。

「クスクスが今食べてるの何?広場でもらった果実にはなかった種類だよね」

『あーそうだね。ガッシュの実だよ』

 どこから出したのか、『よいしょー!』と、自分の顔ほどはあろう果実を口に押し込んでくる。

「ん、すっぱい」

 味は酸味の強いイチゴってところ。

「あら、言ってくれればラナちゃんに食べさせてあげたのに。口移しで」

「うんにゃ!エロ魔法使いは下がってろ」

 また始まった。

 こんな調子で町への進むペースも大して速くない。

『ふぅ、お腹いっぱい』

 三者三様のゴーイングマイウェイっぷりに、既に数える気も失せたため息をつく私なのであった。



【エメフラの町】



「……やっと着いた」

 あの後もアルザとローザの言い合いは続き、事あるごとにローザがアルザを挑発する為、本来昼前に町に入れる予定のはずが、既に昼食時を大幅に過ぎている。

 途中から腕を組むのを止めて貰ったので、多少ペースアップしたが、これがなかったら夕食の時間までずれこんだのではないだろうか?


 私から離れさせたことで口論も減り、仲良く……という程ではないものの、たまに相槌を打つ程度の会話はしてくれているので、時間が解決してくれれは良いのだが。


「んー宿はどこに取ろうかしら?ラナちゃんは2人で寝るのは平気? それとも1人で寝たい子?」

「黙れ色魔。お前だけシングル部屋で泊まれ」


 うんホント、時間さんお願いしますね。胃にダメージ喰らいそうです。



「あれ、なんだろう?」

 町の広場の辺りがなんだかざわついている。

 よく見ると、質素な服装をした少女を、引きずるようにして男が歩いている姿が見えた。


「あら?首輪に鎖ね。商人にしては身なりが悪いから、奴隷連れの底辺冒険者ね、きっと」

「……いるんだ、奴隷」

 正直あまりいい気はしない。見れば少女は、細身ながら非常に整った顔立ちをしている。

 首輪に鎖を付けるような扱いをしているところから見て、家政婦代わりに使う訳ではないだろう。

 18禁ゲーム等でよくある話だが、実際に見ると胸が悪くなる。


『この辺では少ないらしいんだけどねー。あ、あの娘エルフっぽいね』

 言われて見ると、私やローザより耳が少し長い。

 それを聞いたアルザは、吐き捨てるように言う。

「……人間族には、私らみたいな亜人(デミ)を下等生物として蔑むヤツもいるからな。鎖につないでるのもエルフだからだ」


「でもおかしいわね?この辺りの国は奴隷制はあっても、亜人だからといって人権を無視できるような制度ではないはずよ」

 首輪なんてナンセンスよ、とローザが言う。

「多分聖王国に買われるんだと思う。あそこは私らにとって悪い話しか聞かないからな」

 狼人族であるアルザは、そういった差別を受けかねない立場だ。

 それ故に特に嫌悪感は強いのだろう。威嚇するように唸る口元から、狼人族の特徴である長めの犬歯が覗いていた。


 そんな話を聞いて、私は奴隷を引きずるようにして歩く男を、無意識で睨んでいたんだろう。

 少女を連れた男と目が合った。

 私の視線に気付いた男は、チラリと少女を見やり、薄く笑うと私の方に向かってきた。

 近づいてくる男は、まるで親会社の人間が子会社に無理なオファーをぶつける時のような、酷薄で意地悪い、嫌な目をしていた。



 人通りの多い中で、奴隷として引きずり回す。プライドをへし折るにはまずはコレだ。

 グレイ・ランドはそう考える。「お前はもう人間じゃない。奴隷だ。モノ扱いされる存在だ」と、徹底的に刷り込み、反抗する気力を奪うのが彼のやり方である。

「おい、早く歩けこの愚図女」

 服装もあえて粗末なものを身に付けさせている。理由は首輪と同じだ。

 なぁに、貴族さまの屋敷に納品する時に着飾らせれば良い。

 それに……

『エルフってのは細っこいヤツが多いが、コイツはなかなかアタリじゃないか』

躾と称したつまみ食い(・・・・・)もできるしなと、エルフの少女を上から下まで見ながら、下卑た笑いを押し殺す。

 人間と比べればグラマーと言うほどのスタイルではないが、エルフという種族の中では肉付きが良い方だ。

 集落から外れて住んでいたから、ハーフエルフかもしれない。

『まぁ、どっちでもいいがな』

 彼にとっては、依頼主が満足して報酬がもらえるなら、エルフでもハーフエルフでも関係ないのだ。


グ レイはそんな彼を非難がましい目で見る視線があるのを知っている。いつもこうだ。

 どうせ口にも出せない癖に、そうやって自分の中の正義感を満足させる小心者。

 グレイはそんなつまらない倫理観の中で生きる人間を馬鹿にしていた。

『下らないルールなんぞ捨ててしまえば、毎日面白おかしく暮らせるのによ』

 いわばそれが、彼の人生哲学なのだ。


 そんな中、グレイは視線の中に一際強いものを感じた。視線が声を届けてくるような、そんな熱い非難の視線。

『ほぅ、可愛いお嬢さんじゃねぇか。若いクセにいい装備してやがる。どっかの貴族の、世間知らずなお嬢サマってところかね』

 グレイは鼻で笑う。


 プライドの高いエルフ共も鼻持ちならないが、ああいった世間知らずなお嬢サマもグレイは嫌いだった。「自分だけは綺麗に生きています」といった態度が気に食わない。

 少女はじっとこちらを睨んでいる。少女への強い哀れみと、彼に対する蔑むような意思を感じさせる目だ。


 折角だ。あのお嬢さんの純粋でございって顔を、ぐちゃっと潰してから帰ろう。そうすれば、このエルフへの躾が一層楽しくなるじゃないか!

 ドブネズミと呼ばれる男は、暗い感情を隠すつもりもない。いつもの薄ら笑いを浮かべながら、黒髪の少女に近づいていった。



「ようお嬢さんがた。俺に何か用かい?」

 ニヤニヤと下品に笑いながら男が話しかけてくる。

 こちらの目を見てはいるが、時折私達の胸やお尻をちらちらと見ているのが、なんとも怖気を感じさせる。

 というか見てるのって、案外バレバレなんですね。こう、胸とかに視線を感じるのがマジ不快です。リーマンに戻ったら気をつけよう、うん。


「……彼女をどうするんですか?」

 何か言ってやりたい。この不愉快な男に、何かをぶつけてやりたい。私の胸に湧き上がったその感情が、目の前の男への非難の言葉になる。


「どうするって?そりゃ奴隷契約を結んでますからねぇ。このまましつけ(・・・)をして、某国の貴族サマのお屋敷まで連れて行くんでさぁ」

 小ばかにしたような男の言葉に、私は衝撃を受ける。奴隷契約?

 ハッとして少女を見ると、努めて無表情であろうとしている様子だが、端々から悔しさを滲ませているように見える。


『ラナ、契約は多分本当だよ。契約の術式が2人の間にある』

 クスクスが小声で教えてくれる。

「ほぉ! 街中でフェアリーたぁ珍しいですなぁ。ま、契約の術式が見えるとは素晴らしい! そう、ちゃんと両者合意(・・・・)の契約済みなんでね。誰にも非難されるいわれはないって寸法だ」

 自分の言葉に同意されたことでクスクスが嫌な顔をする。

 耳ざとくクスクスの言葉を聞きつけ、こちらが嫌がる事をケラケラと言ってのける。


 私がもう一度少女を見ると、無表情だった顔に一瞬だけ感情が浮かんだように見えた。

 ただ、悔しいと。

「何か無理な条件を突きつけて、強引に契約させたんじゃないですか?」

 エルフの少女の様子を見て、私が言ったのは完全に勘だった。

 勘ではあったが、目の前の不愉快な、うすら寒い目をした男なら、そういう事を平気でするだろうという確信もあった。


「どうですかねぇ」

 ニヤニヤと口元だけは笑っていた男の表情に変化はない。

な ので私は男から視線を外し、あえてエルフの少女に向かって言う。

「何かこの男に脅されたりしているんじゃないですか?」


 私の言葉に目を見開いたエルフの少女が、口を開こうとした。その時、

「奴隷が勝手に喋るんじゃねぇ!」

 叫ぶなり、男が強引に鎖を引っ張る。そしてその勢いで、両手を縛られていた少女はバランスを崩して倒れ込む。


「何をするんですかっ!」

「いやいやぁ、コイツは俺の所持品なんですよ、モノなんです。気軽に他人様とペラペラ喋らせたりしたら、俺の主人としての面子がたたねぇんですよ」

 口を大きく歪めて男が挑発するように言う。私の感じた印象は正しかった、この男はやはり最低だ。


 睨み付ける私と、ニヤニヤと笑いながらも目だけは笑っていない下卑た男の一瞬のにらみ合い。

 そこに、ローザが助け舟を出してくれた。

「ふーん。こんな雑な扱いをされている割に、傷が少ないわ。ラナちゃん、この男は放っておきましょう。冒険者ならギルドに行けば名前はすぐ分かるわ。それよりエメフラの町近郊で娘が行方不明になった(・・・・・・・・・・)家庭を探してご家族に事情を聞けば、詳細が分かるんじゃないかしら? エルフなら対象も少ないはずだし、仮にも冒険者が不当な手段で略取したなら、そんな冒険者はギルドから抹消されてしまうでしょうし」

 ローザがにこやかに言った一言は、先ほど私に対して表情を一切変えなかった男の笑いに、一瞬だがヒビを入れる。



 グレイは焦った。

 世間知らずのお嬢ちゃんは、正義感はあれどチョロいお嬢ちゃんでしかなかった。

 勘が良いみたいだがそれだけだ。

 だが、目の前の魔法使い風の女の一言は鋭過ぎた。

 エメフラ郊外に住むはぐれエルフの家は、グレイが娘を連れてきたあの家以外にはないのだ。

 しかも、母親がいなくなった隙に、弟2人を人質に取って無理やり契約させたのだ。

 あぁ? 取り返しに来ねぇかって? 無理無理! ガキのエルフ2匹にババァ1匹だ! 冒険者様に命懸けで挑むような根性はねぇよ!


 目の前の小生意気なクソ嬢ちゃんがこちらを睨んでくる。

 しかし、事なかれ主義ですませてくれない場合は、俺が裁きを受ける可能性があるのだ。


 なんてこった!折角のボーナスが台無しじゃねぇか! 心中に怒りの感情がドロドロと沸き立ってくるのを感じる。

『その正義感面した可愛い顔を、ぐちゃぐちゃに泣かせて、地べたをはいずらせてぇ!』

 そう考えた時、俺は素晴らしいアイデアを思いつた。

 こいつらに追及されず、エルフの奴隷を逃がさず、目の前の可愛らしいお嬢ちゃんをどん底に突き落とす最高のアイデアが!


「まぁ色々と邪推するのは自由ですがね。俺もいっぱしの「冒険者」として、そんな風に外道呼ばわりされちゃあ、腹の虫が収まらりませんぜ?」

 俺はあえて「冒険者」という言葉を強調して言う。

 すると、こちらを睨んでいた黒髪の嬢ちゃんは表情が変わった。そりゃもう鮮やかに。


『ビンゴ! こいつぁ冒険者に手前勝手なイメージを持ってるタイプだぜ!』


 得心したのを悟られないよう、努めて冷静な声で言う。

「お嬢さんは見る限り剣に自信がありそうじゃないですか? どうです? 剣士らしく剣の勝負で決着をつけましょうや」

 目の色が変わった! これならもう一押しでいける。


「どうやらこのエルフ女に思い入れを持っちまったみたいじゃねぇですか。アンタが勝てばコイツとの契約は破棄しましょう」

「本当ですかっ!?」

 OK,食いついてきたな……あとは釣り上げるだけだ!


「ラナちゃん! ちょっと待ち……」

 おっと魔法使い、お前が口を出されると困るんだよ。

「その代わりィ!」

 魔法使いの声を遮るように俺は言う。


「俺が勝ったら、なんでもひとつ。ひとつでいいんで、言う事を聞いてくださいよ?冒険者にとって面子ってのが大事なのは、アンタもわかるでしょう?」

「……分かりました。では剣の勝負で決着を付けましょう」


 思惑通り! 目の前の世間知らずの可愛いお嬢ちゃんが罠にかかったのを、俺は笑いがこみ上げるのを必死に耐えるのだった。

 腐っても20年荒事をこなして来たんだ! 初心な嬢ちゃんが逆立ちしたって勝てる訳はねぇんだよォ!



「……分かりました。では剣の勝負で決着を付けましょう」

 目の前にいるひたすら不快な男に、私はそう言った。仮に負けたとしても、ローザの言っていたように告発すれば良いのだ。


『ちょっとラナ本気?あんな腐ったゴブリンみたいな男、約束を守るか分からないよ!?』

「まぁそれは少なくないギャラリーがいたから、証人になってもらえば大丈夫だと思うんだけれど……」


 大声を出すドブネズミと呼ばれる冒険者と、首輪と鎖を付けられたエルフの2人組が、この辺りでは珍しい黒髪で可愛らしい少女に対して、横柄に振舞う様子は悪い意味で目立っていたのだ。


「それより」

 ローザが割ってくる。

「万が一あの男に不覚を取ったら、ラナちゃんが奴隷にされかねないわよ?」

「そんな……ひとつだけって言ってましたし、無茶なことは流石に言ってはこないんじゃ?」


「甘いわ。そのひとつが奴隷契約をしろ、とかだったらどうするの?騎士道精神とか博愛の精神なんかがあるような男に見えた?」

 うわぁ、その発想はなかった。確かに胸とかお尻をジロジロ見られた感じが不快だったけど、「そういうの」を要求されるとか、完全に考えたことなかった。いや、だって私元々男ですし、しかも非モテの。


「あのゴミ溜めみたいな汚らしい目線を見たでしょう?間違いなく貴女の体を要求するわよ、あのゴミ男」

 うげ、冗談キツいっす。なんか寒気がしてきたんですけど!

「……まぁラナが怪我させても気にしない程度の気持ちでやれば、負けないと思うけどな」

 おお、戦士長よ!アルザが心強いことを言ってくれる。


『確かに多少腕に自信があるみたいだけど、所詮腐ったゴブリンだもん。ちゃちゃっとやっつけちゃえば問題ないよねー』

 腐ったゴブリンにこだわるなオイ! まぁ相手の強さが分かるという人間に、こう言って貰えると心強い。


 3人の楽天的な反応に少しため息をついたローザは少し眉をひそめるが、結局諦めたように言った。

「……決めてしまったものは仕方ないわ。その代わり気をつけなさい。剣の勝負とは言ってきたけど、あの男は正々堂々勝負するタイプじゃないわよ」

なんらかの搦め手を使ってくるはずだから油断をするな、という事だった。



「さぁお嬢ちゃん! 早くやろうぜ!」

 私たちの会話を知ってか知らずか、上機嫌で男が言う。

既に小剣を抜いた男が、エルフの少女を引きずりながら広場の中央に立っていた。

 私は細剣「ウルヴズレイン」を抜き、ゆっくりと息を吐きながらそちらに向かう。


「俺はグレイだ。B級上位の冒険者として、ちったぁ名前通ってる。お嬢ちゃんも名前教えてくれよ」

 名乗りたくはないが、ギャラリーもいる中で、相手が名乗っているのに無視を決め込むのは無理だった。

「……ラナ」

 ぼそりと、それだけを言った。

「ラナちゃんねぇ。可愛らしい名前じゃねぇか! 嫁入り前か? くはは! できるだけ体に傷は付けないようにしてやるよ!」


 なんというか、名前を呼ばれただけでヘドロを投げつけられたような不快感を感じる。

 最早此処まで行くと才能だろう。おそらく「煽りLv10」とかのスキルでも持ってるんじゃないだろうか?


「始めの合図はいらねぇよな?」

 ニヤニヤと笑うこの男の声はもう聞きたくなかった。なので、さっさと始める事にする。

もう始まってる(・・・・・・・)で結構です。さっさと終わらせましょう」


 目の前の嫌な男=グレイは、軽く舌打ちをすると小剣をだらりと下げ、ゆっくりと前傾しながらこちらに向かってきた。



つづく

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