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6:これが私の究極奥義

あらすじ

小屋で一泊することになりました

【クルワットの森小屋】



 太陽が完全に沈み、夜の帳が下りる。

 3人・・・いえ?2人と1匹かしら?は、2つのベッドに分かれて眠っている。

 ひとつのベッドには赤毛の人狼族が、もうひとつのベッドには華奢な体つきをした黒髪の少女と、緑の妖精(グリーンフェアリー)が静かな寝息を立てている。

 訂正、妖精の寝言とイビキが物凄いわ。


 ラナ達に「ローザ・エルネフラム」と名乗った女性は、黒髪の少女の眠るベッドの傍らに立っていた。

 夜の闇を溶かし込んだような漆黒の髪色は、小さな寝息を立てる少女の黒髪よりも更に濃く、さらに纏ったローブと、その下から伸びる豊満なボディラインを強調するタイトなドレスも黒に染められており、あちこちに黄金による意匠が見られる。

 ローザが、黄金の装飾を弾いて留め具を外すと、漆黒のローブは滑るように肩から床へと落ちる。

 現れたタイトなドレス姿は、胸元から肩にかけて大胆に開いている。両手に着用していた長手袋を脱ぎ捨てると、ベッドの縁に腰をかける。

 そして目の前で眠る少女の、リラックスするように開かれたクロークの襟元に、ゆっくりと手を伸ばしていった。



 僕、月原 哲人(つきはらてつと)こと、私、ラナ・クロガネはこの時大変気を抜いていた。

 いや、安心感で気が抜けていたというべきか。

 なにせ異世界に来て、初めてのまともな家屋、そしてまともな寝床=ベッドがあるのだ。


 昨日は気がついたら野宿だったし、アルザにじゃれ付かれてからこっち、ゴブリン、黒スライムとバトルの連続で、テンションはもう超速ジェットコースター状態。そりゃベッドに横になったら、もう寝る以外の選択肢はないでしょ?

 折角のベッド就寝ということもあり、できるだけリラックスして寝たかったので、ジャケットは脱ぎました。レギンズやブラも外して、今の私の装備はシャツと白のレースのアレだけです。スカートを脱ぐ時にちょっとドキドキしたのはきっと気のせいですよ?



『・・・イビキがうるさい』


 そして万全を期して臨んだ眠りは、無慈悲な森の女王によって妨げられる。

 いや、うるさいよクスクス! 森の精としてどうなのさ、そのオッサンぶり!しかも耳元だし。

半ば寝ぼけたような状態で、ちびっこ妖精を耳元からベッドの縁まで押しやる。


『……よし』

 騒音兵器を遠くに押しやった事に少し満足して、私が再び眠りというなの海に飛び込もうとした時、何者かの手が首筋に触れた。

 頚動脈のあるあたりを2度3度往復して撫でた後、両手で顔を固定される。

 薄く目を開いて様子を窺おうとした私を見ていたのは、妖しく光る紅い目だった。



「うふふ、寝たふりは結構よ」

 ローザがぐっと顔を近づけて、ラナに語りかける。見開かれたその瞳との距離は約10cm。

 人間の女性だからと油断していた。モンスターの野盗がいるなら、人間の野盗がいてもおかしくない。

 更に今の私に武器を装備していない為、この体勢のまま動脈を切られたりしたら、命はないだろう。


「……何か御用でしょうか?」

 警戒心が高まり、背を這うような緊張を感じつつ目を開く。

「何の用かしらね?」

 形の良い唇が動き、それに合わせて私の顔を挟んでいた女性の右手が、頬から鎖骨を撫で滑り、胸の中央からやや左で停止する。


 命の危機、自分の命運を握られる恐怖、その双方が背中を駆け上がり、心臓が一際強く高鳴るのを感じた瞬間。


「うふふ、やっぱり可愛いわね」


 キスされてました。


 最初は軽く唇を重ね、その後ローザの厚ぼったい唇が、私の上唇を優しく2度吸う。

 頬から首に回された左手は私の耳裏を優しく撫で・・・何かが口内に入り込んできた。


『――――――――――――――!』

 声にならない叫びが出る。いや、声になってないんですが。ちょっとこれディープなヤツですよね?私のファーストキスなんですがっ!

 それ以前になんですか!? 「可愛い」ってなんですか!? いや、確かに外見は美少女ですよ? そして中身は非モテなアラサーですよ?


 NOOOOO!ちょ、止めて!耳裏撫でないでっ!

「……んっ……ふっ」

 鼻息すっご……って、ローザさんすっごい目が蕩けてるんですけど!?超エロいんすけど!


 AHHHHH! ちょっと待って、いつの間にかシャツのボタン全部外されてるんですけど! これ以上は見えちゃいますよ!?


 MAAAAAM! 腰を撫でないで下さいぃ! おおぅ……ってぇ!ちょ、それ以上はR15の範囲超えちゃってマジでヤバいんで勘弁してくださいぃ!


「……ぶはっ!」

 我に返った私が、肩を掴んでローザを引き離す。

「何やってんですか!?」

 急な抵抗に一瞬呆けたような表情をしたローザは、おどけた感じで笑う。

「ひ・み・つ♪」

 言いながら私の背後に手を回して引き寄せる。ダメだ!この溢れ出る色気からは逃げられる気がしねぇ……!

 いや、ちょっとイケない百合な関係みたいでリリー的なシチュ萌えな私としては、ちょっとドキドキしてはいますけど、自分妹にも姉にもなる気はありませんよ?


 混乱する私の腰から背中に、巻きつくように手が回されて抱きしめられ、柔らかく大きな胸が当たって形を変える。

 軽く息を乱しながら、ローザが私の耳元に口を寄せて囁く。

「女の人は、嫌い?」

 

むしろ大好きです! 母さん! 遂に僕も大人の階段をのぼる日が来ました……


「いや、そうじゃなく。なんでこんな事するんですかっ!?」

 心臓が痛いくらい鳴っているが、このまま流されるのは非常に危険な気がする。

 こういうのは健全な交際を経てからするものですよ? これ以上進むと18禁に指定されてしまいますよ?

 流されそうな精神力を総動員して、再びローザを引き離す。ふぅ、昼間にアルザっぱいに触れてなかったら、意識を取り戻せないところだったぜっ!


「あら、顔に似合って初心なのね」

 ローザが唇を尖らせる。あ、やっば、さっきキスされたの思い出してきた。

 下側に目を逸らすと、少し服が乱れたことでローザの豊かな胸が先ほどより露わにされている。


「そりゃ、まぁまだ未経験ごにょごにょ……じゃなくて! なんで私が襲われてるんですかっ!?」

「まぁ、初めてなの?じゃあ優しくするわね」

「いや、だから何で・・・」

「さっきも言ったでしょう?可愛いか・ら♪」

 紅い瞳がじっと見つめてくる。そこから漂う淫蕩な空気に再び体が硬直する。


「で?2人で何やってるんだわ?」

 森小屋内部に設置された魔法具に明かりが灯る。

 ちらりと横を見ると、引きつった顔で腕を組んだアルザとクスクスがいたのだった。

 まじすか……



 向かい合うアルザ&クスクスと私&ローザさん。

『さぁ!2人でこそこそ何をしていたのか白状しなさいっ』

「んー・・・ナニかしらね?」

 いやーそこちゃんと言ってくださいっ! 怖い怖い! ほら、アルザさんが青筋立ってますよっ?

「ラナッ!」

「はいぃっ!」

 静かな声に思わず正座する。昨日のゴブリンに対するマジギレより怖い。

「何か言うことは?」

 なんとも説明しづらい。

 気が付いたら脱がされてて、さらにキスされてて、色々されちゃって、ちょっと気持ちよくなっちゃいました、えへ♪……とか言えません、はい。

『な・に・か・い・う・こ・と・は?』

「……よく分からないうちにこうなってました。」

 正直に言った私に向けられたのは、完全に敵を見る目でした。君たちに慈悲はないのか。


「お2人はどうしてそんなに怒ってるのかしら?」

 ちょっ空気読めぇぇぇぇ!

 ローザは「うーん」と軽く鼻を鳴らしながら、唇に手を当てる。


『えっ!?それは、その・・・』

 クスクスが口ごもる。受粉相手ですと言うのはクスクスにしても恥ずかしいのだろう。

 つか、私も受諾した覚えはない。


「ラナはアルザの嫁だからだ!」

 流石は頑強を誇る人狼族の戦士、その戦士長殿である。高らかに放つ嫁発言に淀みがない。

「あら、じゃあ」

 ライバルね、と言いつつ私にしなだれかかる。この人も大概だなオイ! アルザの額に青筋が増えた。


 アルザから発する怒気により硬直していたクスクスと目が合う。怖いよ! 怖いよぉ!

「・・・ちょっと外に出よっか?」

「うふふ、お断りするわ」

 更に冷える空気。勝ち誇ったようなローザの視線にアルザが沸点を超えた。

 予備動作なしに放たれた拳。その拳の先を見ると、ローザの頭が消失していた。



『ちょっと! 流石にやりすぎよアルザ!』

 あわあわとしてたクスクスが、なんとか声を上げる。

 咎められたアルザがハッとし、バツの悪そうな表情を浮かべるが、

「このくらい大したことないわ」

 消えたはずのローザの顔が復活していた。


 真横で見ていた事をありのままに言おう。

 ローザが首から上が吹っ飛ばされた後、少し時間をおいて、録画の早戻しのように顔が形成されていき、綺麗に元に戻ったのだ。

 目を丸くする私達に対して、ローザは悪戯っぽく笑って言った。


「だって私スライムですもの」



「えーと、じゃあローザさんは昼に会った黒いスライムで、命を助けた恩返しのために来たということですか?」

 着衣を整え、小屋の中央にあるテーブルセットに座りなおす。

「ええ、そうよ」

 一方的に戦闘を仕掛けて、最後に逃がしただけのような気がするんですが。

「あら、ちゃんと逃がした後のことも考えていてくれたでしょう?」

 そこに恩義を感じても不思議はないでしょう、というのがローザの言い分だ。


『怪しいわ』

「うん、その言い分は納得できないぞ」

 アルザとクスクスは釈然としない顔でローザを見ている。

 そもそも人型が取れるなら、なんで昼間はスライム型だったのか分からない。

「絶対ラナの匂いにアテられてるだろ、お前」

 アルザが唸る。


「それも否定はしないわ。あんな凄いの生まれて初めてですもの」

 ローザは、そう言うなり私を抱き寄せて、舌先で私の首筋を撫でる。

「ひゃめてくださいっ!」

 私の抗議の声を無視して、舌全体を使った愛撫に移行しつつ、そのまま胸を押し付けてくる。

 ちょ、それダメ! さっきの時はなんとか抑えてたけど、これ以上されると出しちゃいけないヤツが出ちゃいますから! フェロモンとかフェロモンとかフェロモンとか!


 森小屋内の空気が変わる。エロ……いや、悪い方に。

 アルザとクスクスの視線がこちらを向いた。その目からは、先ほどまでの怒気は薄まっている。

「あのーアルザさん?クスクスさん?」

『私達にも』

「やらせろー!」

 やっぱり! 目の色おかしくなっちゃってるじゃないですかー! やだー!

 そのままテーブルに乗り掛かり、2人が私に抱きついてきた。

「んんっ!」

 アルザが貪るように唇にキスしてくる。ローザは相変わらず首筋に舌を這わせ、クスクスはまた胸の辺りに抱きつく。


 ちょっと効果高すぎるだろ『モンスター服従Lv10』ゥゥ――――!


 我慢だ! 我慢しろ私! 毛穴を閉じるイメージでフェロモンを押さえるんだ……よしっ!


「どっせーーーー!!」

 そしてここで、完全に匂いに酔った3人に、私の必殺技が炸裂する。

 日本の親父の怒りの代名詞。これが出れば全ての混乱と事象がゼロに帰結するジャパニーズ究極奥義。


「ちゃぶ台返し」


 ……もとい「テーブル返し」

 盛大に音をたてて引っくり返るテーブル。吹き飛ぶアルザとクスクスに、慌てて手を離すローザ。

「落ち着いて話をしましょう、ね?」

「「『……はい』」」

 肩で息をしながら言う私に、目を点にして固まる3人。

 やはり日本の親父は偉大だった。ありがとうテーブル。君の犠牲は忘れない。



 落ち着いて話したことで分かったことがいくつかある。


 黒スライムこと「ローザ・エルネフラム」さんは元々人間の魔導師だったそうだ。

 無定形生物の研究をしていたところ、熱意が暴走。

 100年ほど前に行ったスライムの進化実験の際の事故により、アシッドスライムと同化し、世界で唯一の魔法が使えるスライム種『エルダーアシッドスライム』にジョブチェンジしてしまったとの事。


 当初は人間とのコミュニケーションの手段がとれなかったが、持ち前の根性と分析力でスライムの体を1から変性させて、人体を形成させられるようになったらしい。


「アシッドスライムで良かったわ。元々自分の性質を変性させて強酸性の成分を作るモンスターだから、体内の成分を変性させる素地が備わっていたもの。それがなかったらあと10年は人型になれなかったかもしれないわね」


 その上攻撃魔法は最上位魔法がいくつか使えるらしい。とんでもねえなこの人。

 とはいえ、人型を取ることによる消耗は少なからずあるので、人とコミュニケーションをとる必然がない時は、スライム型でいるらしい。

「スライムだからって舐めてかかってくる相手にちょっとオシオキするのも楽しいもの」

 確信犯じゃねえか! しかもSだこの人! いや、ちょっと体感したんで分かりますけど。


「じゃあ、ここで待ち伏せしていた理由を正直に言うわね。ラナちゃんが凄く気に入っちゃったの。だから一緒に連れて行って欲しいな」

 簡単に返事しづらい。クスクスはともかく、アルザがローザを見る目が大変厳しいのだ。


「ラナはエメフラに着いたら冒険者登録するんだ。旅をした経験のない魔法使いが付いて行けるワケないだろ?」

「うーん、確かに貴女の体術は凄いのかもしれないけれど、私みたいなのに遭遇した時にこの子守りきれないでしょう?冒険者のPTに魔法使いは必須じゃないかしら?」

 ローザの声に、反論の弁が浮かばずにアルザが口をつぐむ。

「じゃあ、決まりね♪」


 こうしてPTにエロい魔法使いのオネーサン……もとい、スライムのローザが加わった。

 前衛2人に後衛2人と見た目のバランスが良くなった気もしますが、PTとしての意思統一に大きな壁を感じるのは気のせいでしょうか?


 先の不安に鬱々とした気分となる私に、クスクスが軽く言う。

『まぁ、2人ともラナのこと好きみたいだし、なんとかなるんじゃない?』



つづく

ブクマ、評価ありがとうございます。

今後も少しでも楽しんでいただければ幸いです。

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