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4:よし分かった、とりあえず尻を揉むな

あらすじ

この世界で初めてのPTを組みました。

【クルワットの森】



「んー、装備するのはどこでもいいの?カバンに入れてても有効かな?」

 クスクスから受け取った指輪を手のひらで転がす。

『あ、左手の薬指に入れるのが決まりらしいからよろしく!』

「ほーほー、左手の薬指に何か意味あるんだわ?」

『昔面倒見てあげた冒険者に聞いたんだけど、プレゼントされた指輪は左手の薬指に付けるものらしいわ』


 うん、それ多分結婚を控えた冒険者だったんだね。

 というか、こんな所で微妙な文化の類似点を見付けてしまった。

「よし、じゃあそろそろ町に向かいましょうか!」

 クスクスの提案を華麗に無視をして適当な指に指輪を装備し、私は手を叩いて出発を促した。


 クスクスの広場から街道に出た私達だが、喋るのはもっぱらアルザとクスクスだ。

「うにゃ! だからアルザは凄いんだわ! なんといっても戦士長だからな!」

 なんでも集落にいた前任の戦士長(男)と副戦士長を、全員タイマンでぶっ飛ばし、満場一致で戦士長に推薦されたらしい。

 身長は私より少し高く、浅黒く健康的な肌に、癖っ毛気味の長く赤い髪の毛を無理矢理まとめたポニーテール、シベリアンハスキーのようにピンと立った耳は、狼人族という名前に相応しい雄雄しさを感じるが、それほど強そうには見えない。


 鋼鉄製らしきガントレッドとレッグガードをしていて、ホットパンツのような股上の浅いパンツと、(主に胸元の)布面積の少ないタンクトップに半袖のレザージャケットという服装だ。

 申し訳程度にハードレザー製の防具が縫い付けられているだけの装備は戦うには薄着すぎやしないだろうか。

「うん? ホントだぞ?」

 私からの視線に気付いて、アルザが犬歯の長い白い歯を見せて笑う。


『まー酔っ払ってなかったら、ラナもあんなに避けれなかったかもねー』

 うんうんと私の肩の上で頷くかなり縮んでしまったクスクス。

 15cmほどに縮んでしまった体は、本来の木目調の色から人肌に近い薄めの色合いになっており、さながら緑の髪をした妖精(フェアリー)である。

「なんというかちびっちゃくなったけど、元々の……ほら、森の長の仕事とか大丈夫なの?」

『んー、元々は森での争いを止めるくらいの役割しかないからねー。ここ1年くらいは暇してたし、出たとしてもちょっとしたモンスターくらいのものじゃないかなー?』

 クスクスの使う幻術「迷いの魔法」は、精神力の低い……ゲーム的に言うとレベルの低い相手には不可避の術で、希少な植物を乱獲する悪質な冒険者や、クルワットの森に現れる野盗などを追い払っていたらしい。

 クスクスによると「余計な争いごとで、森の木を燃やされたくないもの!」ということらしい。


「よし、ラナ! 折角だし腕組むんだわ!」

 私からの視線を意識したからか、すんすんと鼻を鳴らすアルザ。

「……動きにくいから遠慮します」

 慌てて意識を耳裏に集中する。

「いいじゃん! 街道沿いなんて安全なんだし、親睦を深める方が道中楽しいと思うんだわー」

 アルザがにじり寄ってくるが、軽く手を上げて「NO!」の意思表示をする。


 確かに現時点では女の子ですが、心の中にはまだいるんですから、「心の友」もしくは「息子(マイサン)」が……未使用なんですけど。


 否! 未使用であったからこそ女体という神秘に触れると、平静を保てないんです! 腕なんて組んでしまった日には、二の腕あたりを刺激する柔らかくも魅惑的な果実が、私の理性を奪いかねないんです!

 心の中で必死に言い訳をする。

 確かに「ティル・ナ・ノーグオンライン」では抱きつかれたりしていたが、あくまで機械的な刺激があっただけなので、「ゲーム」として割り切って振舞えていただけだ。

 さすがに本物の女性……それも可愛い娘に抱きつかれたりするのは、女性経験が少なくて怖いのだ。


『らなー! 赤くなってるよー!』

ド ギマギする私が面白いのか、クスクスが笑いながら私の黒髪を引っ張る。

「なんだよー、確かに子供を作るのは難しいけど、女同士もいいもんだ(・・・・・・・・・)ってばっちゃが言ってたし、別に腕組むくらい別にいいじゃん!」

 と、アルザが上げられた私の右手を握る。顔も知らぬアルザのばっちゃよ、あんたなんて事を自分の孫に吹き込むんですか……

「なぁー腕組むくらいいいだろ?」

 アルザに握られたまま下ろされていく私の手に、更にもう片方の手を重ね、撫で付ける。

 その動きでアルザの豊かな双丘が、私の右腕を挟み込んだ。


『……うぅ、柔らかい』


二の腕を挟む未体験の感触に、思わず足が止まる私と、それに合わせたのか歩みを止めるアルザ。

「あの、アルザさん! こ、こういう事はもっとお互いの事を知ってからっ! えーと、ほら私達まだ出会って間もないですし、ちょっとこういうの恥ずかしいっていいますか・・・」


 思わず声が上ずる私だが、スッと手を離したアルザが強い目線でこちらを見る。

「ラナ、ちょっとゴメン」

 アルザはそのまま眉根をキリリと上げて、街道の先に視線を移す。

「んー、ラナの匂いに夢中でここまで近づかれたのは、アタシの手落ちか」

 がりがりと頭を掻くアルザの視線を追いかけるが、街道の先には何も見えない。

『あーっ!森の中に……こらー!隠れてないで出てきなさーい!』

と、クスクスが声を張り上げる。



 120~130cm程度の大きさだろうか? 人型のモンスターがぞろぞろと森の中から湧き出てくる。

『グゥ……オンナドモ! イノチガオシカッタラ、モッテルモノゼンブオイテケ!』


 20匹はいるだろうか? クチバシのように突き出した鼻、緑色の体表に貧弱な体躯ひん曲げたようなのは……

「ゴブリン?」

『そうだよ! こらー小鬼族(ゴブリン)ども! 人を襲うんじゃないって言ってるでしょ!』

『ウグ、ウルサイゾフェアリー! モリノオサネテル! ヒトオソッテモキヅカナイ!』

『私が森の長だー! こらー!』


 ちびっこくなったクスクスが叫ぶが、小鬼たちが矛を収める様子はない……まぁサイズも半分以下だしなぁ。

『グゥ!オ マエラカネヨコセ! ヨコサナカッタラコロス!』

 所詮女2人……殺気に漲る声に合わせて、剣や斧、棍棒といった武器を振り上げたゴブリン達が雄たけびを上げる。


「んー……小鬼ども、アタシの事ナメてんの?」

 怒気を孕んだ、静かで冷たい声。

 意気逸るゴブリンたちにアルザが目を細める。

『ゲハッ! ジンロウツヨイ! ケドタカガムスメヒトリ! ニンズウガ……』

「ウザい、黙れ」

 凄まじい速度で移動したアルザは、リーダーらしきゴブリンの後ろに立っていた。

 そして、がなりたてていたゴブリンの頭を掴んで地面に押し込む。

「あんさ、弱いクセに群れただけで強気になっちゃうバカ、嫌いなんだ」

 気絶したであろうゴブリンリーダーを投げつけ、そのまま手近なゴブリンを蹴っ飛ばすと、サッカーボールのように吹き飛んでいき森の中に消える。

「あとさ、人狼族のさぁ、戦士長を捕まえてさぁ! たかが(・・・)って言ったか? お前ら。人狼の一族を舐めてんのか? あぁ!」

 語気を強めたアルザが前進して、左右にいたゴブリンを殴りつけると、吹き飛んだゴブリンは街道沿いの木に激突する。


『あー……あれは危ないわよー』

 アルザの発した怒声で気を抜かれたクスクスが、やれやれといった感じで呟く。

「え……助けに行った方がいいんじゃ?」

 腰から下げた「ウルヴズレイン」の柄に手を掛けて言う。

『あー死ぬのは小鬼どもよ。人狼族の戦士長は伊達じゃないから、小鬼の100や200なら楽勝でぶっ飛ばすよ』


『グギャ! オマエラ! デテコイ! ゼンインデカカレ!』

 クスクスの言葉がアルザに怖じ気づいた小鬼達の精神を逆なで、怒りが彼らを奮い立たせる。

 怒りに震えるゴブリンが号令をかけると、更に森からゴブリンの戦士達が現れ、アルザに襲い掛かる。


「うっさい……死ね」


 雑魚モンスターを一掃する事を、ゲームでは「草刈り」と表現する事があるが、まさに目の前で「草刈り」が行われていた。

 アルザが蹴り上げるたびに小鬼が吹き飛び、拳を薙ぎ払うごとにバタバタと倒れていく。ゲームと違うのは血反吐が飛び交っているくらいだ。


「う……」

 万が一の為剣を抜いてはいるが、目の前で繰り広げられるのは一方的な虐殺劇。

 血の匂いが風に乗って流れてきて、私は顔をしかめる。

 すり潰されるような叫び声と共に刈られていく(・・・・・・)ゴブリン達だが、その叫び声は私の胃の辺りを重くする。


 異形とはいえ相手が人型だからなのか、ゴブリンたちの生々しい声が私の痛覚をじくじくと侵し、あれだけ能天気だったアルザの見せた凶暴さが更に気持ちを重くするのだ。


 と、1匹のゴブリンが私とクスクスの近くまで弾き飛ばされて来る。

 吐瀉物を撒き散らしながら立ち上がろうとするゴブリンに大して、クスクスお説教じみた声で言う。

『もう諦めたら? 私の決めたルールを破ったの、今回だけは許してあげるから、アルザにちゃんと謝りなさい』

『エ゛ァァ……ア゛アァァァァ!!』

 クスクスの言った事は傷ついたゴブリンにとっては、傷口に塩を塗る効果しかなかった。


 防衛本能か偶然か、襲い掛かるゴブリンに対して私は無意識に剣を突き出していた。

『ギア゛ァァァァァ!!』

 突き出された「ウルヴズレイン」が棍棒を振り上げて殴りかかってきた小鬼の薄汚れた皮鎧を易々と貫き、手負いのゴブリンは濁った叫び声をあげる。

 永遠に続くようにも感じられたその叫び声が途切れ、長い舌をだらりと垂らして、長鼻の異形は貫かれた剣にぶら下がるようにしながら絶命した。


『ラナ?』

 ずるりと、垂らした剣からゴブリンの死体が抜け落ちるのを、筋張った肉の感触が私の意識を遠くする。

『おーい、どうしたのーラナ?』

 すごく気持ちがわるい。おかしいな? クスクスの声がなんだか遠いや。

 剣を持つ手が震えて、「ウルヴズレイン」を持っていられない。

 あ、今なんだか剣を取り落とした気がする。


「しっかりするんだわっ!」

「っ痛ぁ!」

 お尻を叩かれて、惚けていた意識が戻ってくる。

「アルザ……」

 すぐ近くにアルザがいた。その背景は死屍累々といった感じだが、見る限り返り血を浴びた様子もない。

「何惚けてんの?冒険者なら襲ってきたモンスターやら野盗やら何回もブッ殺してるっしょ?」

「ううん、その話は今はいいよ、だから……」

「うんにゃ」

「……お尻揉むの止めてもらえるかな?」

 最初は惚けた私への活を入れるつもりで叩いてくれたようだが、そのままアルザが私のお尻を揉んでいるのだ。

「……にゃは」

「匂いを嗅ぐなぁぁぁぁ!」


 足元には私が殺したゴブリンの死体が、周辺にはアルザが蹴散らしたゴブリン達の死体が累々と倒れている。

 しかし、そんな凄惨な光景も、命を奪ってしまった罪悪感も、戦うアルザが見せた怖さも、なんというか全部吹っ飛んでしまった。



「んー、ラナってばあんだけ動けるのに、これまで殺し合いはやったことなかったのねー」

「うん、まぁ訓練だけというか・・・」

 確かに血の流れるような、命を奪い合うような事はこれまでした事はなかった。

 FPSだのRPGだの、どれだけリアルになっても所詮はゲームで、遊び(・・)だった。

 自分を害そうとするものとはいえ、縦横無尽に殴り飛ばしていったアルザのように、躊躇なく動ける自信は正直ない。

 戦いに迷いがあるという事は、自分の身体を危険に晒す事、そして危険な事だ。

 町に出て、帰る方法を探すとか、冒険者になるといったとりあえずの目標もなんだか霞んできた気がする。


『だ、大丈夫だって! ラナくらい動ける人なら、慣れたらゴブリンの100や200どうにかできちゃうよ!』

「あはは……なんかごめんね」


ゴブリン達との交戦場所からはもう1kmほどは歩いている。少し気だるさはあるが、ゴブリンの死体を見た時の嫌な感覚はずいぶんとマシになっている。

「まぁ気にすんな!慣れるまで手伝ってやるからっ」

アルザが歯を見せて笑う。


身元も不確かな自分がこの世界で生きていくなら、冒険者のような危険な仕事をするしかない。

いずれはアルザの言うとおり、いつかは「命を奪う」事にも慣れなければならないのだ。


『エメフラの町では冒険者の登録をするの?』

「ん……まぁそのつもり、やっぱりお金もいるしね」

 私の所持しているバックの中にアイテムは入っていたが、ゴールドは入っていなかったので、現在無一文というヤツなのだ。

「うーん、それじゃあ私も冒険者登録一緒にしよ」

「いいの?」

「大丈夫、大丈夫。嫁探しをしてたって言えば集落の皆も納得するっしょ!」

 アルザが目を細めて私を見る。

 うん、ちょっと今迫られたら色々逃げられる気がしないんですけど。純潔の危機を感じてますよ?


「改めて聞くけど結婚って、女でもいいわけ?」

「うんにゃ、分かんないけど、なんとかなるんじゃない?」

 アルザはあっけらかんと言う。

 なんだろう、さっきまでとは違う意味で不安になってくる。

『わ、私もついてるんだからね!』

 アルザに負けじとクスクスも力強く言う。


「あの、クスクスさん。勝ち負けはどうでも良いので、胸に抱きつくの止めてもらえませんか?」

『だって、アルザはお尻さわったじゃない? そしたら私は胸でしょ?』

 当然といった感じで言い放つ。いや、

 何故そうなる!?とにかく肩に戻れ!


『えへへ♪』

 だらしなく笑いながら肩までよじ登るクスクスに心の中で突っ込みを入れつつ、今度はアルザの手を掴む。

「アルザさん? 今、何をしようとしました?」

「にゃは♪」

 誤魔化すように笑うアルザの手を捕まえたのは、私のお尻のすぐ近く。

 なんというかクスクスとアルザのお陰で、私を中心にしてあった気まずい雰囲気が消え、逆に連帯感のようなモノを感じる。


『これがリアルにPTを組む感じなのかな……』

 そんな考えが頭をよぎる。

 まぁ繋がっているのが私のお尻とか胸というのが、少々納得いかないんですけどね。



『ん? なんだか変な魔力の反応があるよ?』

「うんにゃ?特別な匂いはしないけど?」

『う~ん・・・私もこんな反応初めて。この辺りの魔物にしては魔法の力が大きい気が・・・あ、あそこ!』

 クスクスが声のトーンを上げて指差した先にいたのは、黒くて大きな何か。

「なんか丸っこいのがいるね」

 いや、あのシルエットは見覚えがある。

 球体を上下に押しつぶしたようなシルエットに、ぷるぷるとしたあのボディー。

「スライム?」

「うんにゃ?黒いスライムなんて聞いたことないぞ」

 あ、やっぱり黒いのは珍しいんだ。

 まぁ普通青とか赤ですよねー。

 緊張感のない会話は、そこは現れたモンスターがスライムだからというか、この世界でもやはりスライムは初心者用のモンスターらしい。


 馬鹿にされたように感じたのだろうか? 私達に反応してスライムの体がぽよんと揺れ、不定型にそのシルエットを変え始める。

『2人とも油断しちゃダメだよ! あのスライムの魔力、魔族並に強いよ!』



 本日2度目の戦闘、胸に少しの不安を感じながら、今度は強く……戦う意思を込めて、私は剣を抜いた。



つづく

読み返してみたところ、クスクスのサイズがバラバラになっていたので1m未満で統一させて頂きました。

自分で考えておいて、申し訳ありません。以後気をつけます(反省)

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