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2:私がぶっちゃけいい身体をしている件

あらすじ

ドライアードが能天気すぎて辛い。

これからどうすればいいか誰か教えて?

【クルワットの森】



 色々と悩んでいるうちに一晩明けてしまった。

 正確には色々と思い悩むうちに、気がついたら眠ってしまっていたのだが。


 森の中はまだほの暗く、冷え切った体を掌で触れることで暖める。

 昨日感じていた妙な違和感……昨日体を動かすたびに感じた元々の体とのギャップのようなもの……は消えていて、一つ一つの動作がしっかりと馴染む気がする。

 例えるなら、「仮の体に乗り移って操作している感覚」から、「魂が定着して完全に自分の体になった感覚」といったところか。


「んーっ!」

 両腕を思いっきり伸ばして伸びをし、振り下ろす反動で立ち上がる。

 体の違和感が消えたせいなのか、一つ一つの動作がとても軽い。

 この体になって身体能力はかなり上がっているのではないだろうか?

『どう考えても運動不足気味の僕の体じゃないよな』

 そのまま左右に腕を伸ばしてストレッチをする。


 ふよん


 えーと、柔らかい感覚は極力気にしないことにする。

 安いプライドと思われるかもしれないが、自分の体に欲情とか情けないじゃないか。



 続いて装備品の確認をする。

 1日経ったなら今日は月曜日にあたるわけで、「仕事に行かないといけない」という義務感もなくはないが、現状慌てて戻れるわけでもない。

 むしろ、ファンタジー色の強いこの状況で、仮にモンスターに襲われたりしたと仮定しよう。

 生きていけるだけの備えがあるかどうか確認する方が優先だと思うのは自然な発想ではないだろうか?


『装備はほぼ昨日のログアウトした時のままか』

 身に着けていた武器や防具は勿論、消費アイテムおよびその他は、アクセサリ枠で背負っていた革のバックに入っていた。

 バックを開いたときは四次元ポケットチックで驚いたが、自分の存在自体がチートになっている訳でもないようなので、これくらいはあってもいいだろうと、強引に納得する事にした。



 頭装備は「ブラッドライトサークレット」だ。

 魔法防御を高める魔法のサークレットで、魔術職およびシビリアン系以外は装備できないものだ。

 これは「ヴァンパイアロード」撃破時のレアドロップで、市場価格はおおよそ600万ゴールド。

 所持装備の中でも2番目に高いかなりのレア装備だ。


 シャツは「ショートミスリルクローク」だ。

 シャツ系の最上級品で、被服スキルで作成できる。ちなみに被服スキルはモンスターテイマーの転職条件だったので習得済みなのだ。

 先日作った「ライカンズローブ」も”私”の被服スキルによるものだったりする。

 女性向けはヘソ出しのショート仕様と、そうでないロング仕様があるが、個人的な好みとビジュアルを重視してショートクロークを選んでいる。


 ジャケットは「濃紺のシビリアンジャケット」となる。

 HPが低くなりがちなシビリアン職専用のHP底上げ装備だ。

 ゲーム内では防御力もそこそこ高いのだが、HP底上げ効果などがこの世界で通用するのかが分からないのは不安だ。


 下着は「ミスリルクロークレギンズ」を着用している。

 言い訳みたいだが「ティル・ナ・ノーグオンライン」には、ちゃんと「下着」カテゴリの装備があるんだよ? ちなみにレギンズの下はちゃんと履いていました。白のレースでした。ゲーム中では装備として意識してませんでしたが、ブラもちゃんと付けてました。ありがとうございます。


 こほん、気を取り直してスカート装備。

 「ブルートリコロールスカート」は、青というより濃紺を貴重としたプリーツスカートだ。

 白や赤のラインが縦横に走っていてとても可愛らしい。

 これもシビリアン専用装備で、速度および耐久ステータスの向上の効果があるはずなのだが、この世界で通用するのかはやはり分からない。


 ブーツは「ライトマジックブーツ」だ。

 速度強化と回避強化の効果のあるものだが、装備可能ジョブの多い一般的な装備になる。


 武器は2種類を持っている。

 攻撃属性「突」のパラメータの高いレイピア「ウルヴズレイン」と、「斬」パラメータの高いショートソード「フラガラッハ」だ。


 一つ目の「ウルヴズレイン」は、「人狼の牙」を500個と、「オリハルコン原石」2個を使用して練成できるもので、シビリアン系が装備できるレイピアの最高武装になる。

 これの武器は「人狼の牙」は「人狼の皮」を集めた時の副産物だ。

 獣系モンスターに特攻効果があり、クリティカル率も高い、非常に使いやすい装備で、ワーウルフ狩りのお供に最適だった。


 もう一つの武器「フラガラッハ」はケルト神話の武器を模した強力な装備で、アーマーアンデッド最強のモンスター「アガートラーム」の超レアドロップになる。

 市場価格はなんと5,000万ゴールドオーバーデ、私の持つ装備ではダントツの高額装備になる。

 鎧特攻、アンデッド特攻、対人特攻、ガードブレイク等等、非常に高い性能を誇るのだが、唯一の弱点が「隠しステータス「月の加護」を持つモンスターに対するダメージ無効」というペナルティ特性だ。


 このため、ワーウルフやヴァンパイア、サキュバスなどの夜魔タイプのモンスターには効果が薄く、ワーウルフ狩りではピンポイントに使えない装備だったのが残念である。


 これらの特製がどの程度効果があるかは分からないが、少なくとも店頭にあるような鉄や鋼鉄の武器と比べれば、十分役に立ってはくれるだろう。



 手に持った「ウルヴズレイン」を軽く振る。

 比較的重量の軽い装備しかできないシビリアンでも装備可能なだけあって非常に軽い。

 半身になって剣を引き、腰を回転させて突く。

 風切り音を聞き流してそのまま反転、今度は3度連続で突く。

 バックステップから軽く右腕を振り上げて、今度は突き下ろす。


 自分で驚くほどに運動能力が高い。

 これが中級レベルの前衛と同等の能力なんだろうか?

 ゲーム時のステータスがある程度反映されているという確信めいたものを得て、今度はどの程度まで激しく動く事ができるのかの確認を開始。


 軽く大地に触れた剣先を撥ね上げると、スローモーションのように小石が舞い上がる。小石の中で最も大きなものを空中で再び突く。

 剣速で小石が少しだけ浮き上がり、再び落ちてきた所を再び突く。

 目に見える物全てがスローモーションに見え、自分の体を完全にコントロールできているような感覚だ。


 意識的にギアを上げながら連続で突きを繰り出し、哀れな小石をが宙を舞う。かなり激しい無呼吸運動なのだがあまり苦しくない。

 あまりに自在に動く自分の身体に、なんだか楽しくなってきた。


 よし、何回までいけるかカウントしてみよう!


『1、2、3、4、5……』


『らなー!ごはんだよー!』

 53まで数えたところで、空気を読まないドライアードの声が割って来た。

 切り上げた剣を引き付けて鞘に戻すと、哀れな小石は藪の中に落ちていった。


 クスクスは器用に髪の毛? を籠状に編み上げている。

 私の近くまで来ると首を一振りして籠の中から大量の果実を落とした。

 昨日もらった「リリフの実」の他に、レモンっぽいものやマンゴーっぽいもの、オレンジっぽいものもある。


「ありがとう、でもこんなに持ってきて大丈夫?」

『だいじょーぶ! クスクスは守護者にして森の木々の長!私のお客さんなら森は歓迎するものだよ!』

 サラリと爆弾発言が来たヨ……森の長? 妖精女王?

『女王っていうのかな? 森の守護者は1,000年以上生きた古木のうち1人が選ばれてなるものなの。私がもし殺されちゃったり寄り代になる木が折れたりしたら、次の守護者が選ばれるはずだよ?』


 アメリカの大統領みたいなもんか、ビバ民主主義。


 などと下らないツッコミを入れつつ、やわらかいマンゴーもどきを齧っていると

『それで、ラナはこれからどうするの?』

 昨日と同じような質問。しかし私の気持ちは少し変わっている。

「うん、東の町に向かってみようと思ってる」


 先ほど確認したが、私の身体性能はかなり高い。ぶっちゃけいい身体をしている。

 ゲームである「ティル・ナ・ノーグオンライン」では中の上程度の性能だが、この世界の冒険者やモンスターと比較しても中の上なら、普通に旅をする程度なら問題ないだろうという算段だ。


 クスクスの言う「強さ」の見立ても多少は考慮している。

 装備品の効果がこちらでも有効なのかどうかは不明だが、その辺はおいおい確認すれば良いだろう。

 昨日のクスクスとの会話から、「冒険者ギルド」的なものもあると分かったし、多少身元不明な人間が1人くらいいても、なんとか生活はできるだろう。

 運が良ければ元の世界に戻る手段も見つかるかもしれないし、それならば魔法や科学技術が発展している場所にいた方が、より近道できるはずだしね。


『そっか、ラナ行っちゃうんだ』

 寂しそうに頭の葉っぱを垂らすクスクス。

「うん?知らないんじゃなかったの?」

 意地悪く返す私に、クスクスは顔を寄せてくる。

『ラナ、いい匂いがするの。こんな素敵な匂いの人いないもの。ずっといて欲しいわ』

 クスクスはチョコレート色の瞳から伸びた睫毛を、切なげに伏せる。


 その可憐な仕草に思わず胸が高鳴ったのは、男として仕方ないのではなかろうか?

 戸惑う私に、クスクスはさらに追い討ち。


『私ね、ラナに受粉させてほしい!』

「ぶはっ!」


 マンゴー吹いた!

 いやいや人間と植物でどうやって受粉するんですか?

 ファンタジーだからこう、雄しべと雌しべ的な絡みがあるんでしょうか?

 身長1m以下でも条例に引っかかったりしないんでしょうか?



「あ……あと、あの……できるの?それ?」

 この返答で精一杯。


『分かんない、分かんないけど、いい匂いのラナの傍にずっといたいの……、もしダメなら……ラナの匂いのする種が欲しい』


 肝心なところはコイツらしくテキトーだが、そんな夢見る乙女みたいなポーズで言われると、人外とはいえ戸惑うじゃないか!?

 なんだか耳が熱くなってきた気がする。


 2人の間に、なんとも気まずい沈黙が流れる。


『――――――――――――――――!』


 鳴り響いた雄たけびが、場のやるせない空気を叩き壊す。

 体を動かしたのは、この身体になったことによって得られた、戦士の直感的なものかもしれない。

 雄たけびが聞こえた刹那、クスクスを突き飛ばし自分自身も後ろに飛ぶ。


 巨大な何かの塊が目の前を突き抜ける(・・・・・)

 私の視線の先で、四つ脚の何かが地面を抉って急停止するが、土埃で輪郭がはっきりしない。何だあれは?


『ラナ! あれ! 人狼族だよ!』

 シルエットしか見えないヤツ(・・)にクスクスが叫ぶ。


 人狼? ワーウルフか? でもドライアードは襲わないはずでは?

 唐突な事態の連続で考えがまとまらない私に、未だ晴れない土埃の先から人狼が唸る。


『ウゥ……オレサマ! オマエ! マルカジリ!』


 伝わってくる攻撃的な波動に膝が笑い、心音が大きくなる。この世界で初めての戦いの始まりは、私の中で死ぬ事に対する恐怖を掻き立てる。

 でも……


『不意打ちだって避けられた!剣だって扱える!多分なんとかなる!』


 震える手足を総動員して、私は腰に掛けた「ウルヴズレイン」の柄に手を伸ばした。



つづく

ブクマ及び評価ありがとうございます。

皆様のひと時の暇つぶしになれるよう頑張ります。

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