21:アガートラームさんマジチート
あらすじ
ダンジョンの奥にはアガートラームがいたよ
……ゲームのモンスターじゃなかったっけ?
【名前のないダンジョン・最深部】
◆
私は必死に「ティル・ナ・ノーグオンライン」でのアガートラームの攻撃パターンの記憶を辿る。
最後に狩りに行ったのが、こっちに来る1ヶ月くらい前なんだよね……
あーもう! ドロップがオリハルコン鉱石で、レアドロップが「フラガラッハ」と「クラウ・ソラス」だとか、今要らない情報がばっかり出てくる!
「どっせぇぇぇぇぇぇぇ!!」
悩む私を他所に突進していったアルザは、アガートラームの切り落としを回避しつつ、無防備になった頭部に向かって蹴りを叩き込む。アルザにかわされ、 地面に叩きつけられた大剣は石畳を割り砕き、破片が舞う。
「もう一丁!」
蹴り込んだ右脚を軸に体を回転させ、更にもう一発蹴りを入れると、
『…………!』
纏わり付かれては大剣を振るうのに邪魔だとばかりに、剣の柄から離した太い腕を振るってアルザに叩きつける。
アガートラームの、女性の胴体ほどはある太い腕に空中で払い除けられたアルザは、地面に叩きつけられながらも、横向きに回転して衝撃を逃し、再び戦闘態勢を取る。
「痛ぅ……!あんにゃろー、鎧のクセに物凄いパワーなんだわ!」
ガードした腕が痺れたらしく、左腕をあちこちに動かしながら、ダメージを確かめている。
両腕で大剣を腰溜めに持ち直し、こちらに踏み出したアガートラームの目、正確には兜のスリットが光る。
あの予備動作は範囲攻撃のっ……!
「アルザ! ローザ! 遠距離の範囲攻撃が来る!左右に散って!」
叫んで私がアガートラームの射線上から転がり出ると、ごうと強い音が鳴り、私達が先ほどまでいた背後の壁面に亀裂が走っていた。
「ぐぅ……あれは、マナを斬撃で飛ばしたの!? ありえないわっ!?」
斬撃の余波でバランスを崩し、倒れこんだローザが叫ぶ。
斬る、殴るの攻撃でローザにダメージを与えられないはずなのだが、立ち上がるローザの姿はどうも足元が覚束ない様子だ。
「ラナ! あの構えを取ったら、今の攻撃が来るんだな!?」
アルザは、私達が今まで見たこともないモンスターの攻撃方法を、私が知っていたことに対して追求などせず、戦いに必要な情報だけを取り込もうとする。
流石は人狼族の戦士長だ。
アガートラームの強力な攻撃をしのいで、しのいで、しのぎ切って、最後には勝つという強い意志を感じる。
「うん!他にも強力な攻撃をする時は動きに特徴が出る!」
アガートラームの特殊攻撃はいくつかあるが、モーションが大振りなものか、単体しか攻撃できないものばかりだった。
腰の辺りで大剣を溜めて斬撃を飛ばす「スラッシュ」
最上段に構えたところから、真下に振り下ろして大地を抉る範囲攻撃の「ラース」
肩に担いだ構えから大剣を振り回して、周囲を巻き込む多段ヒット技の「テンペスト」
正面に剣を突き出した構えから、正面のプレイヤーを斬りつける乱舞技「エンド」
私が「ティル・ナ・ノーグ」でよくパーティを組んでいた防御特化の騎士さんの「ししょーさん」でも、回復なしだと3回も食らえば支えきれない程の攻撃力だった。
どの攻撃であっても、正面から食らったりしたら私達は無事では済まないだろう。
それにアガートラームが厄介なのは、攻撃技だけではないのだ。
レベル90台の魔法使いが大魔法を叩き込み、神官が浄化結界で封じ込めて、やっとダメージを与えられるという、尋常でないタフネスさが最大の壁になる。
推奨パーティはメインのタンクとなる騎士1名、スイッチできる高耐久力のプレイヤー1名、メイン火力となる魔法使いが2名、回復役の神官1名に、結界を張りつつ回復にも参加できる神官が1名の計6名だ。
2つ目のパーティをサポートとして配置して、鎧の脚部や腕部の部位破壊を行うのも効果的だった。
私が参加していたのは主にサポートパーティの方だったんだよねぇ……
「ラナ! 左から回って牽制してくれ! アタシが足を止めるぞ!」
強い攻撃の予備動作があったら教えてくれ、と右側からアガートラームの懐に向かって回り込む。
左側に回りこみながら敵の兜を見るが、アルザの蹴り付けた痕は残っておらず、動きからもダメージを感じさせない。
正直手足が武器となるアルザの攻撃と、高防御の生きた鎧は如何せん相性が悪い。
「ローザ! 雷系以外の魔法で援護を! 威力を重視して!」
ダメージソースになりそうなのは、ローザの魔法と私の「フラガラッハ」だろう。
しかし、私がアガートラームの正面に立ったとしても、大剣をかいくぐって攻撃するなどという高度な戦闘は難しい。
大振りで、予備動作が見えはするが、一度動き出した大剣の剣速は異様に速く、私の反応速度では恐らく回避できないからだ。
ゲームの攻略よろしく死んで覚えることが出来ない以上、攻撃範囲の裏へと常に回りながら、アルザへ攻撃を放った時のみ攻撃を加えるしかない。
それを踏まえて見ると、改めてアルザの動きは凄まじい。
これまでのアルザと一緒に戦闘を行ったことは何度もあるが、これだけの速度で動き続け、予知能力じみた回避をし続けるのは初めて見る。
いつもの戦闘のように軽く笑みを浮かべた表情ではなく、全身を感覚器官にしたような鋭さと緊張感を発揮し、大剣での攻撃をことごとく避けてみせているだ。
しかも斬撃の軌道から巧みに体をずらしながら、打撃も加えている。
これ、「ティル・ナ・ノーグ」のトッププレイヤーより凄いんじゃない?
「だぁー! 硬いな、この野郎ォ!」
この鎧はもぉー! アタシが殴っても蹴っても手応えが薄いっ!
連環気功を使えばダメージになるだろうけど、この戦闘スピードでは、気の練り込みも、相手の気との連環も難しい。
通常の打撃では、頭部に打撃を入れた時以外は、ぐらつきもしない。
いや、まぁ鎧相手に白打による攻撃が効果高いとは思わないけど、そこいらの鉄鎧なら半壊させられるくらいの威力はあるんだけどなー、アタシの蹴り。
『…………』
目の前の鎧、アガートラームだったか?の攻撃は、攻撃に入る動作は分かりやすいものの、剣速そのものは尋常でなく速い。
ほとんど声も発さない上に、アンデッドモンスターだけあって視線や筋肉といった部分から得られる情報もないぶん、全ての攻撃を動作が始まってから避けないといけないんだわ。
今のところは回避しながら攻撃できているけど、ちょっとでも反応が遅れたら大ダメージ間違いなしってとこ。
周りからどう見えてるかは分からないけど、かなりギリギリだ。
アガートラームによって左から右へ振るわれた剣が、ピタリと止まる。
この動きはさっきもやられたから覚えているぞ。
『返しの斬撃が来るっ!』
風切り音が聞こえたのが先か、それともアタシが動いたのが先なのか、攻撃の為に踏み出した足のをそのまま脱力し、地面に伏せるようにして横薙ぎの攻撃を回避する。
このまま踏み込んで一撃を……
「……がぁっ!」
弾き飛ばされたアタシは、空中で体勢を変える事も出来ずに壁に叩きつけられ、思わず声が出る。
「痛ってぇ!」
あの鎧野郎め!剣を両手で握ったのは最初だけで、片手で横に振り抜きやがった!
アタシが避けた後で空手になった拳で殴って来るなんて、全く予想をしていなかった。
無理のある避け方をしたせいで反応できなかったワケだ。
初手の回避で体勢を崩し、次の回避行動に移れなかった自分の判断の悪さが恨めしい。
「くそぉ、肩にダメージ貰っちゃったか」
幸い骨は折れてないっぽい。つーか、折れてたら動かせないんだが。
腕の動きが悪くなった程度で済んだ上、被害が右腕だけなのは、ラッキーなのかねー
しかし、あのモンスター相手に、ラナを前に立たせるのは危険すぎる。前に立たせるどころか、避け切れずに死んじゃう。
「アルザさんが気張るしかないんだわね」
ついこぼしてしまう。んーむ、ちょっとアタシ弱気になってる?
ダメだって! ヤバい時こそ開き直りが大事だって、ばっちゃも言ってた! かえって気が落ち着くってね。
まぁダメージがローザの魔法便りなのは癪だけど、実際打撃の効果が薄いんだから仕方ない!
まだまだ脚は動くし、上手く誘って避けに専念すれば、魔法の発動まで保たせられるっしょ。
「よーし! お前の相手はアタシだってね!」
半刻でも一刻でも、時間くらいなら稼いでやるさねっ!
『火蜥蜴の抱擁!』
アルザが吹き飛ばされたのを見てラナちゃんに向き直った鎧の巨体に、急遽魔法の術式を高位魔法から中位魔法に組み替えてぶつける。
骸骨兵士共を2発で灰に変えた強力な炎の魔法は、その威力の大半を抵抗されて鎧の表面を軽く焦がす程度で止まる。
マナの収束……というかコントロールが上手いのは分かっていたけれど、中位魔法をあそこまで減衰させられるモンスターなんて、この100年で見たことがない。
高位魔法は詠唱に時間がかかるせいで前衛への負担が大きく、さらに私が使える最高位魔法は異界魔法に類するため、使う際には体内のマナを大層な割合で消費する。
長時間を想定した戦闘で使うのは自殺行為だ。
しかも、敵の攻撃には魔力が篭っていた。
「いいのを貰うと、流石の私も無事じゃすまないかもしれないわね」
思わず語尾も弱くなる。
なぜなら、魔力を込めた攻撃となれば、気功を使用した攻撃と同義だからだ。
強制的に体内のエネルギーが乱されれば、スライムの核にも負担がかかるし、最悪破損してしまう。
そうなれば、不定形のスライムといえど死ぬしかない。
「まったく、なんて敵なのかしらね」
幸い吹き飛ばされてはいたが、アルザが前線に復帰している。普段はいがみ合う事も多いが、戦士としては超一流で、今のところ前衛として彼女以上の存在はいない。
「高位魔法の詠唱を開始するわ! アルザ、しっかり支えなさい!」
私の声に応えるように、アルザは強く吠えた。
◆
アルザが回避型の前衛としてアガートラームの攻撃を引き付け、ローザが高位魔法を詠唱し、敵の後ろに回りこんだ私が「フラガラッハ」を叩き込む。
この形で既に30分近い時間が経過している。
アガートラームの鎧は無傷ではないが、その立ち姿は一瞬のぐらつきすら許さない金城鉄壁。
不動の人型要塞といった威圧感を以って私達の前に立ち塞がる。
「ハァ……ハァ!いい加減っ!鎧の部品くらいは壊れても良い頃だと思うのだけれどね……!」
ローザは肩で息をしながら、荒い声で毒づく。
既に7回の高位魔法をアガートラームへ叩き付けていることもあり、魔力消費の激しさが垣間見える。
「剣を肩に担いだ! アルザ! 振り回して来るよ!」
「おうさっ!」
アガートーラームの攻撃動作を確認した私の警告に、アルザが後ろに飛ぶ。
自分を中心に大剣を何度も振り回す技だが、後ろに下がってしまえば回避は容易い……はずだった。
『……!』
大剣がこれまでとは違う動きを見せる。
低く唸ったアガートラームが、回転させた剣の軌道を途中で変化させ、回避したアルザの前方へ叩きつけたのだ。
これに、技の終わり際を叩こうと前掛かりになっていたアルザが、十分に反応しきれなかった。
「アルザッ!」
回転のエネルギーを利用して超重量で叩きつけられた大剣が石畳を叩き壊し、発生した衝撃波と飛び散った礫をまともに食らったのだ。
3、4エーカーも吹き飛ばされたアルザが、ふらふらと立ち上がる。
急激に動きを変えた事によってアガートラームも体勢を崩しており、追撃はなかったのだが、アルザの受けた被害はこれまでにない程大きい。
「っだぁ!痛ぇなこの野郎ぉ……!」
切り裂かれた頭皮から流れた血がアルザの顔の半分を赤く覆っている。
肩を抑えながら立つその全身には、細かな裂傷がそこかしこに浮かび、腹部と大腿部に大きく血が滲んでいた。
『…………』
アガートラームの目が光り、石畳にめり込んだ剣先がゆっくりと持ち上がる。
足元が覚束ないアルザはこのままだと避けられないだろう。
私が駆け寄ろうとした瞬間、ローザから静止の声が飛ぶ。
「ラナッ! 少し下がりなさいっ! 超重・・・磁場!」
『…………ッ!』
ローザによって作り出された魔法による圧力により、アガートラームの態勢が崩れ、構えた剣が抉れた石畳に落ちる。
「抵抗できるとはいえ、剣そのものにまで常時魔力を通しているわけではないでしょう?」
額に汗を浮かべながら、ローザが挑発する。
長時間の時間稼ぎにはならないだろうが、今なら私でも敵の正面に回れる。
ハイポーションをアルザに渡して回復させられれば、先ほどの陣形がまた取れる。
『賢しいぞ、魔法使いが……!』
アガートラームが叫んだ瞬間、彼を中心に風が走り、私とアルザを吹き飛ばす。
「なんですって!発動中の魔法を強制中断だなんて!?そんな馬鹿な!?」
ローザの驚きをよそに、大剣が再び持ち上がる。
『…………』
驚愕の表情を浮かべるローザに向けて一瞬頭部を向けた後、アガートラームは視線を再びアルザに戻した。
吹き飛ばされたせいで私とアルザとの間に、先ほどより距離が開いてしまってる。
ローザも魔法を強制中断された事でダメージを負ったらしく、頭を抑えながら魔法陣の再構成を行っているが、先ほどより随分時間がかかっているようだ。
このままでは、仮にポーションを手渡せたとしても、飲み切る前にアガートラームの攻撃がアルザに届くだろう。
だったら、私がどうにかして前衛をするしかない。アルザにポーションを手渡し、回復する時間を稼ぐのだ。
ポーションの効果が出るまでは私が最前線にならなければいけない。
私は意を決して「ライカンズローブ」を取り出して首に巻く。
これを装備すれば、猫人化によって身体能力は跳ね上がる。
とはいえ猫人化した私が戦える制限時間は1時間。時間制限つきのドーピングでしかなく、制限時間を過ぎれば打つ手はない。
黒い艶やかな耳が生え、体が創り変えられていく中で、私は「ライカンズローブ」のバーサクの呪いの効果を使って、迷いを闘争心で塗りつぶしていく
四肢に力が満ちていく感覚を捉えて、私は目の前の敵へと加速した。
「あぁぁぁぁぁぁ!」
アルザに向かって剣を構えたアガートラームの脚に、フラガラッハを叩きつける。
『……!』
これまで以上の手応えを感じ、アガートラームを見遣ると上半身の構えがやや崩れている。
猫人化で向上したパワーで叩けば、多少動きを抑える事も出来るようだ。
猫人化により、五感の能力も大きく向上している。
風切り音を聞きいてからでも、剣の初速を見てからでも、身体能力のゴリ押しでギリギリで回避はできる!
こちらへ向かって振られる剣を、横へ、後ろへと避ける。
バックステップで一旦距離を取った私は、そのまま真っ直ぐ突っ込んむ。
振り上げた大剣を、アガートラームが斜めに振り下ろすのをフラガラッハを逆手に構えて回避し、駆け抜けながら再び脚鎧に叩きつける。
『……!』
巨大な鎧の剣士は沈黙のままに剣を振るが、猫人化してからは剣を受けるたびに動きが一瞬止まるようになっている。
うん、なんとか攻撃にも繋げられてる! それにこれなら勢いを付けた斬撃なら、ダメージは前より通せる!
あと1時間以内で削り切れれば、3人での戦いでも勝機はあるはず!
アルザは私を敵の射程に入れないように、ひたすら相手の攻撃圏内で避けてくれていた。
逆に言うと、もっと距離を取る避け方をしていれば、今ほどのダメージや疲労はなかったはずだ。
それなら運動力の向上した私が、相手の剣の射程を出入りしながら攻撃を回避するのは、決して不可能な動きじゃない。
私は脚を斬り付けながら、ガートラームがアルザから背を向けるように誘導する。
よし、完全にこちらを向いた。それならっ!
私は再びアガートラームへと直進する。
凄まじい速度で横薙ぎに振られた剣を、スライディングで回避して、そのまま剣を振って開いた懐を痛撃、逆方向でなんとか立ち上がったアルザへと駆け寄った。
「アルザ!」
「けほ……すまん、やられちゃったんだわ」
鮮血で染まった顔でアルザが言う。
謝る必要なんてない。
むしろ謝らないといけないのは、弱いせいでアルザとローザに無理な戦いをさせていた私だ。
「ポーションを渡すから、しばらくは私に前衛はまかせておいて」
そう言ってハイポーションを2つ手渡す。
「即効とまではいかないけど、早めに効果が出ると思うから。後、もうひとつはローザに渡して!」
そこまで言った私は、アガートラームの動く気配を感じて再び向き直る。
「分かった。少しの間だけ頼んだ」
うん、頼まれた。
『……』
アガートラームは相変わらず無言で私に剣を向ける。
アルザとローザが回復すれば、前衛が相手の前後に1枚ずつ立てる。
そうなれば、先ほどやられたように、ローザの魔法もキャンセルされるような事はないだろう。
これまでの様子から、高位の魔法なら抵抗しきれていない。
ポーションもまだ残っているし、僅かではあるが勝ちの芽ある。
よぉし! それじゃあここから反撃開始といこうか!
私は逆手に持ったままの「フラガラッハ」を目の前に構え、動く鎧の王へ、正面から対峙した。
つづく
プロローグから21話まで少しずつ手を入れました。
主に改行や、文頭文末などです。
お気づきの点がございましたら、感想など頂ければ幸いです。




