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18/24

17:王都に着いても尻なんですね

あらすじ

王都に向かって出発したよ


途中は解説状態です。さりげなく話に混ぜ込みたいのですが、難しいです・・・

【エメフラ東の街道】



「あれ、アンタら冒険者?」

 私達の胸のプレートを見たのだろう。馬車というより荷車に乗った、小柄な女性が声を掛けてくる。

 女ばっかのパーティってのは珍しいね、とラフな口調で言うのはドワーフのようだ。

 男性ドワーフの髭のように目立つ特徴はないが、ハンチング帽からはみ出た髪の毛が力強くはねており、耳が少し尖っている。


 ドワーフの年齢はエルフ以上に分かりにくい。彼らはエルフより早い10年程度で成人し、そこから背が伸びる事がないのだ。

 1人旅をしているところを見れば、子供ではないのだろうが年齢不詳ではある。


「とりあえず王都まで行こうかと思っています。」

 目的地はどこかと聞くドワーフの女性に答える。

「ふーん、ウチも王都まで行くんよ。王都じゃ親父が鍛冶屋をやっててね、ここには包丁とか武器を卸にね」

 荷台に入っているのは日持ちする野菜や、武器の柄などに使うための木材らしい。

「最近この辺で出てた盗賊団が潰れたらしいから、護衛の冒険者を頼まなかったんだけどねーやっぱりちょっと不安なんよ」


 ちらちらと視線をやりながら話すのは、護衛を頼みたいからなんだろう。

 アルザとローザを見ると、特に反対するつもりはなさそうだ。

「アカメシの町で一泊するつもりですけれど、良ければご一緒しますか?」

「いいのん?そしたらお願いするわ。大銀貨5くらいが相場と思うんけど、それでもええ?」

 護衛や警備はどちらかというと基本報酬は高めになっているらしい。

 護衛や警備の対象に怪我や損失が合った場合は、依頼主の裁量で報酬が下がるからだ。


「アルザ、ローザいいかな?」

「そうね、宿代はこの場合どうなるのかしら?えーと……」

「あぁ、ウチな。ライゼンの鍛冶屋の娘でネル・ライゼンで言うんよ。宿代は出すんけど、ウチが泊まる予定の宿は食事は出んのんよ」

 それでも良いかというネルの言葉を聞いて、ローザは私に視線で交渉を任せてくる。

「ではそれで契約させていただきますよ」

「商談成立やんね。ウチ契約の術式使えるから、右手出してくれる?」


 そう言ってネルは馬車を止める。


「依頼者ネル・ライゼン、受諾者……あぁごめん、名前何て言うのん? うん、うん。受諾者ラナ・クロガネにおいて契約する。依頼者を受諾者がオズワルド王都への護衛。報酬は大銀貨5枚とする」

 契約の術式は相手に触れた上で、発声しないとできないそうだ。

 契約を交わすと、お互いの右手に小さく魔法陣があらわれてすぐに消えた。

「そしたら、よろしくお願いやね」

 握った手でそのまま握手をすると、ネルは再び馬車を走らせた。



【エメフラの一番宿】



 少し遡って前日の夜。私達は次の目的地について話し合っていた。

 夕食として宿屋の親父が用意してくれたのは、大ぶりのパンにベーコン、そして根菜とボア肉のスープだ。


 肉が足りないんだわーと、名残惜しそうにベーコンを咀嚼し続けるアルザと、フォークで器用にスープから根菜だけを突き刺して食べるクスクスを横目に、私はローザに尋ねる。

「それで、次の目的地としてはどこがいいと思いますか?」

「そうね、目的によって変わるけれども、一番近い都市ならオズワルド王都が一番依頼が豊富ではないかしら?」


 エメフラの町のあるオズワルド王国は大陸北西部に位置しており、王都から見て北側は農耕や牧畜、林業を中心とした町が多く、海に面した南西部は漁村や交易都市、他国に隣接する南東部に行けば商業都市や城塞都市が多く分布しているのだという。


「魔法が盛んな都市や、学術が進んだ都市はないんですか?」

「それもオズワルド内なら王都が一番よ。魔法が盛んな都市ならカルナステラ魔法国があるけれど、少し遠いわね」


 カルナステラ魔法国は大陸東部に位置する魔法を中心として発展した国家で、名前の通り魔法によって大きく発展した国家らしい。

 国土の多くが砂漠である為、魔法結界による砂漠化の抑制を行っており、主産業は魔法具の製造輸出。

 魔法具は高級品で、国家資金のほぼ90%を此処から捻出しているため、知識流出に対する厳しい禁止措置を取っていて、個人レベルでの魔法具や魔法書などは持ち出し禁止なのだそうだ。


「ローザが魔法で進化の研究をしていたっていうのは、カルナステラなの?」

「いいえ、私はオズワルドの王都魔法学院の出身ね。カルナステラから教師を招いている所だったわ。卒業後はポーツにある学術都市で研究していたのだけれど、こちらの方がカルナステラよりは近いわね」


 都市国家群ポーツは正確には国家ではない。

 多くの国と隣接する立地を活かした商業都市が点在しており、それぞれの都市が独立して都市運営を行っている。

 商業都市であり、要塞都市でもあるポーツを中心に組織された傭兵団を以って中立を謳っているため、都市国家郡ポーツと呼ばれているのだ。

 都市ごとに独立した運営を行っていることもあって、中には学術に力を入れている都市もあって、これらは学術都市と呼ばれるるそうだ。

 ちなみに学術都市では魔法学、神聖学、歴史学等の研究がなされているそうだ。


 うーん、魔法技術や科学技術を知りたいというのは、元の世界に戻るためのヒントを知りたいからだ。歴史的な事案として、異世界召喚的な記録があれば、歴史を学ぶ事で帰る事ができる可能性もある。

 いつも遊んでいた「ティル・ナ・ノーグオンライン」上のフレンドも気になるし、一応サラリーマンとして仕事に対して最低限の責任感もあるのだ。

 ゲームアバターのままここにいるというのが謎だが、そもそも元の世界に戻れないと話にならないし。


「ラナちゃんは魔法に興味があるのかしら?」

「うん、まぁ……魔法でどれだけの事ができるのか、っていうのが知りたいと思ってるよ」


 以前ローザに少し聞いたところ、低位以下の生活に使われるような魔法や、奴隷や商売の契約を結ぶための制約の魔法を除くと、魔法の体系は4種類あるようだ。


 一つ目がゲームとかで見る攻撃魔法のような魔法だ。こちらでは「物理魔法」と言う。

 自然界に満ちるマナに対して干渉し、炎や氷を生み出したり、物体に干渉する事ができるのだ。

 カルナステラでは、これらを道具に封じる事で魔法具を作り出している。


 二つ目が「異界魔法」。以前イバの村でローザが使った雷帝の槌(ケラウノスアンガー)がこれに相当する。

 自分自身のマナを異界への門として作用させて、強力な精霊や悪魔の力を自然界に満ちるマナに干渉、変異させる事で、大災害クラスの破壊力を出す事ができるそうだ。

 最高位魔法は特に必要とされるマナが多く、「異界魔法」を使用しない場合は10名以上の高位魔法使いが協力しなければ使用できないらしい。

 エルフが得意とする精霊そのものを呼び出す「召喚」もこれに含まれる。


 三つ目が「神聖魔法」。僧侶や神官の神への祈りで実現する魔法で、回復や浄化の魔法となる。

 太陽の神(アグナ)派と月の女神(シーラ)派があり、それぞれ浄化、回復の魔法を行使する。

 つまりアグナ派は回復魔法を使えず、シーラ派は浄化魔法が使えない事になる。冒険者にはシーラ派の僧侶が人気があるそうだ。


 四つ目がもっとも研究が進んでいない魔法で「空間魔法」となる。

 異界魔法で言う異世界を繋ぐ門の方向を捻じ曲げて(・・・・・)、使用者のみ干渉できる空間を作り出す魔法とされている。

 明確な魔法陣や魔法式が存在しない為、使用者の才能に最も左右される魔法と言われている。

 稀に古い遺跡などから魔法具として発見されるケースもあり、非常に高価に取引される。


「そういえば、イスマイールを収納(・・)しているクリスタルは、空間魔法を使った魔法具みたいね」

 ローザは言いつつ唇に指をあてる。今更気付いたが、どうも彼女の癖のようだ。

「うん、後は私の持ってるカバンもそれっぽいですね」

 3人には記憶喪失っぽい……という説明を行っているが、今ある手持ちの物についての嘘は避けたい。

 少し気をつけた程度ではカバーしきれないような情報は、あえて隠さない方が良いと思うしね。


 ちなみにローザ曰く私に魔法の才能はないらしい。

 マナと気功は両立しないので、アルザがスキルを教えている段階で、下位魔法以上の所謂魔法使いとして使うような魔法を同時に教えるのは無駄になるそうだ。

「そうねぇ、空間魔法が封じられたような魔法具を複数持っているなんて、相当の道楽者か貴族ぐらいのものだと思うのだけれど」

 あれ? 私変人認定ですか?

「もしくはAやSランクの上位冒険者かしらね」

 不満が顔に出ていたようで、ローザは笑って言う。


『んー、それはら……もふ。そういうさ、めずらしいアイテム探してれば、ラナの事知ってる人にも会えるんじゃない?』

 あぁ、それは一理あるかもしれない。過去にも同じように迷い込んだ人がいれば、自分が戻るヒントになるかもしれない。

 となればま、ずはオズワルド王都に滞在して情報を集めるのが、元の世界に戻る為の第一歩になるだろう。


「じゃあ、一番最初に目指すのは王都になるのかな」

「王都はご飯美味しいのか?」

 このタイミングで、やっとベーコンを飲み込んだアルザが口を挟んでくる。

「そうね、エメフラとは比べ物にならないくらい人口があるから、食堂や酒場も多いわよ。オズワルド自体が農耕や牧畜が盛んだし、食材も豊富にあったはずよ」

 ローザの言葉にアルザとクスクスの顔が輝く。

「決定ね」

 目を合わせて笑った私とローザは、少し熱の引いたスープに手を伸ばした。



【エメフラ東の街道】



 ドワーフの鍛冶屋の娘、ネル・ライゼンはまだ36歳だそうだ。ドワーフの寿命はおおよそ人間族の倍なので、人間換算で18歳になるのか?

「エメフラに来る時は普通に冒険者雇ったんけどね、特に襲われたりはなかったんよ」

 ネル自身も長柄斧を扱って、少数のモンスターと戦う事くらいはできるらしい。基本護衛の依頼は、盗賊などの出現に対する予防なのだそうだ。

「まぁ護衛してくれるメンバーの中に人狼族がいてくれたら、不意打ちで襲われるような心配はないと思うんよ」


「おー、任せとくんだわー」

 のんびりと答えるアルザだが、盗賊退治の依頼の時も、物陰に隠れた盗賊を全て発見している。

 人狼族を含めたケモ系の亜人(デミ)は、運動能力は勿論五感も非常に優れているのだ。

「基本的に王都に近ければ近いほど治安は良くなるから、モンスター以外はそれほど気にする事もないわよ」


 というような話をしていたところ……

『出たね、モンスター』

 目の前には、既に事切れたインセクタとグリーンベアが転がっている。

 まぁ単発で出てきても知れてるんですけどね。

 グリーンベアは私が眉間と胸の辺りを素早く突いて倒したし、インセクタはアルザのひと蹴りで終わり。転がるインセクタの死体は、見た目巨大なカミキリムシといったところだ。


「ふはー、助かったわ。ウチ1人だとグリーンベア1匹ならどうにかなるけど、一緒に他のも出てきたら厳しいのんよ」

 うん、ネルの喋り方に妙な訛りがあるんだけれど、ドワーフ弁か何かだろうか。

「しっかし最近は王都の周りでもモンスターが結構出るから、他所の町への卸は親父に言って減らすか、護衛代を商品にちぃと上乗せせんといけんね」


 ネルからの話では、以前は王都の城壁付近までモンスターが来る事はあまりなかったそうだ。

 王都周辺は騎士団が定期的に野外訓練を行うため、その目標として設定されるモンスターの討伐数も自然に多くなり、比較的安全に周辺の町へ行き来できるのが当たり前だったのだが、此処数ヶ月でモンスターに襲われる商人や旅の人間が増えてるらしい。

 それもあって王都周辺では護衛の依頼が増えているようだ。



【オズワルド王都】



「ふぅ、アンタ方ありがとうな。お陰さまで助かったわー」

 アカメシの町で1泊を過ごした後、王都に着いたのは2日目の夕方ごろだった。

「結局あの後も結構モンスター出ましたね」

 ゴブリンやオーガといったさほど強くないモンスターではあるが、あの後も2,3度襲撃されている。

「いやー助かったわ。思ったよりモンスターも多く出たし、アンタらがいなかったら危ないところやったんよ。ありがとうな」

 報酬となる大銀貨を受け取ると、契約術式が契約の終了を示すように現れて消えた。

「ライゼンの鍛冶屋は武器防具から、調理器具に農具まで扱ってるんよ。入用の時は来て頂戴な」

 ライゼンの鍛冶屋は北側の大門から程近い位置にあるとの事なので、護衛は門をくぐった所までで良かったようだ。



「ふぁ、染みるわぁ……」

 王都に着いた後、宿に装備を預けた私達は先に湯屋に来ていた。湯屋というのは文字通り銭湯だ。

 湯船にゆっくりと浸かるとふくらはぎや二の腕あたりから、溜まった疲労が溶け出していくように気持ちが良い。

 え? 女風呂に入って大丈夫かって? 流石にローザやアルザで見慣れましたよ?

 さっきも初めて湯屋に入ったアルザが、テンション上がっちゃって洗ってやるよーとなったので、洗われちゃいましたよ?


「ほら、ラナ足上げろっ」

 アルザが足首のあたりを掴んで、石鹸をこすりつけた麻布でふくらはぎから太腿にかけて擦れば、

「ほら、そんなに硬くならないの」

 ローザは後ろから抱きつくように、私のわき腹からお腹周りにかけて麻布で擦る。

「はい次はお尻から背中を洗うから、少し浮かせて頂戴」

「むぅ、ずるいぞローザ、ちょっと替われっ!」

 ちょ! 周りの目線がっ! 目線がっ! 湯屋にいるはずなのに、生暖かいんですけどっ!

「2人とも自分でやれるから! 自分の体洗ってくれればいいからっ!」

 必死の抗議も空しく、返答は予想通りだった。

「とりあえずお尻周り洗ってからね(な)?」

 はぁ、もう好きにして下さい……


「むーちょっとお腹空いてきたな?」

 くぅ、と食欲魔人らしからぬ可愛らしいお腹の音を鳴らしながら、アルザが横にぴったりとくっついてくる。

「食べた後だと胃の辺りが膨れちゃって、お風呂に入った時に気になって、ゆっくりできないじゃない?」

「へーラナは物知りだなー」

 耳にかかった水滴を、ふるふると弾き飛ばしながら、アルザがこちらに目を向けてくる。

「まぁ今日の所は食事をしてゆっくり休んで、明日からの依頼に備えましょう」

 アルザとは逆側にローザがくっついてくる。何この両手に花。


 んーお風呂で体が温まったからか、2人ともなんだか顔とか目線が熱っぽい気が……あっ!

 私は慌てて耳裏の辺りを意識する。おおよそ2週間ぶりとなるお風呂のおかげで少々気が緩んでいたみたいだ。

 湯屋にいる亜人(デミ)系のお客さんもなんだかモジモジしているし、うーん、本当に気を抜くと危ないなこの体質・・・


「あら、気付いちゃった?」

 ローザが深く息を吐きながら、一層寄りかかってきた。

 流石にこんなところでフェロモンを全開にしちゃうと、ある意味テロみたいなものですよ!?

 最近のローザさんは、私がこの体質でおろおろするのを楽しんでいる様子で性質が悪い。


 とはいえ、やはり暖かいお湯というのは気持ちがいい。

 私は旅の垢と疲れを落とすために、ゆっくりとお湯に体を沈めた。



つづく

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