15:この世界ではじめてのアレ
あらすじ
わんわんの名前が決まったよ
【エメフラの町・冒険者ギルド】
◆
世界の女性冒険者の皆さん! お待たせしました、俺がエメフラ冒険者ギルドの知恵袋ことギネス・イッケネン、38歳独身です!
元Bランク冒険者として溢れる知識と経験から、日夜女性冒険者の為に奔走する、ギルドきっての伊達男ですよ!
この間初心者講習をした初心者パーティ……これがなんと美女と美少女の組み合わせ4人! 1人は妖精だったけど問題なし! いやぁ眼福でした、あはは。
そんで、この初心者パーティは、初任務をCランク相当の「イバの村の現地調査」を選んだんです。
まぁ実力は元々ありそうだったんで、心配はしてませんでしたが、折角忠告したのを聞いていただけなかったのが寂しいくらいですよ。
それが3日ほど前の話です、はい。
「ギネスさん、イバの調査任務の件で冒険者が報告に来てます。報告先としてギネスさんをご指名ですよ」
「……ご指名ですか?」
「ご指名ですね」
「マジですか?」
「早く行って下さい」
行きますとも!いやぁあの娘達可愛かったもんなぁ。
まぁ、一目惚れとか都合のいい事は考えてませんけど、目の保養ってものもあるじゃないですか?
「こんにちはギネスさん」
ギルドカウンターから出た俺を、レストスペースで待っていた美少女達が出迎えてくれた。
「村はギーガアントの大群に襲われて、完全に壊滅していました」
は? へ? そんな大きな案件でしたっけ? いやいや、こういう事態も含めての調査です。
思わず間の抜けた声が出そうになるのを堪えつつ、俺は質問を続ける。
うん、俺もある意味プロの冒険者だ。依頼内容に対して現実にズレがあるなんて日常茶飯事じゃないか!
「それでギーガアントの大群はどうなりました?」
村ひとつを潰すほどのモンスターの異常発生であれば、近隣の町村への被害も考慮に入れつつ、早い段階での災害駆除が必要になってくる。
腕の立つ冒険者を集めるか、王国の騎士団を派兵してもらうか、正直町の1ギルドの権限を越えた事態になりそうだ。
ぶっちゃけちょっと俺の権限越えてる気がするなぁ。
ギルド長にさっさと報告して、今後の対策について早く決めなければならない。
「あ、はい。それは全滅してるので周囲への被害は問題ないと思います」
「は?」
思わず声の出た俺を、ちょっと幼い感じの子、ラナちゃんが不思議そうに見てくる。いやいや、こっちが不思議な気分ですよ!
「えーと、もう少し詳細を教えてもらっても宜しいですかね?」
思わずよろけそうになったのを椅子に座る事で誤魔化して、新米パーティの面々に俺は話を促した。
◆
【グヤッカの滝・周辺】
◆
少し時間を遡って、グヤッカの滝周辺。
「だーかーらー、街中でイスマイールは目立つんですよ! 下手したら冒険者に袋叩きです!」
『イバの村ではそのような事もなかったのだがな……、それに人間族の兵といっても有象無象であれば1,000は屠れるぞ』
「屠んなっ!」
イスマイールの名付け会から一晩経ったが、この問題はまだ片付いていなかった。
付いて来ないように言っても聞かないし、適当なお願いすると『ふむ、それは汝の本意ではなかろう?』とか察しちゃうし、もう面倒くさいっ!
もう腹立った! 最終手段に訴えてやるっ!
「ん……イスマイールさ、私の願いが本気なら何でも聞いてくれるの?」
『うむ、身命を賭して汝の願いを聞こう』
イスマイールの返答を聞いたとき、私はちょっと悪い顔をしていたと思う。
「よし、じゃあ今日から私のペットね!」
私の発言に目を丸くするイスマイールの鼻先に、カバンから取り出したテイムクリスタルを突きつける。
「どうするの? 約束守るの? 守らないの? 身命を賭して願いを適えるって言うならできるよね?」
一呼吸おいて、イスマイールに顔をぐいっと寄せる。
「承諾するしかないよね?」
私が本気だと感じ取ったイスマイールが唸るが、言質を既に取っている。心も体も私の物=ペットだもんねー!
『ぐぬぬ、分かった、自らの誓いを違えることはせん!』
「よしっ! じゃあハウスッ!」
クリスタルがイスマイールの従属を認める声に反応し青く大きく光ると、イスマイールの体が光の粒となって霧散し、クリスタルに吸い込まれた。
『ラナってば怖い子だったんだね』
クスクスがガタガタと震えながらこちらを見てくる。
そりゃ目の前からでっかい白狼族の巨体を消し去ったらびっくりするよね。
「ふんにゃ、イスマイールはどうなったんだ? 元には戻るのか?」
「どうにもなってないよ、放っておくと町の中まで付いて来かねないから、んーと……魔法のアイテムで捕獲したようなものだよ」
聞いてきたアルザに答えるが、まぁグレーターポーションといい、ライカンズローブといい、ゲームアイテムの効果はほとんど変わらないようだし、テイムモンスターの再召喚も同じだろう。
私は赤に色を変えたクリスタルを手の中で弄ぶ。
「ふぅん、空間魔法の一種かしら? でも、見た限り従属の言葉に反応するようだけど……」
「ん、正解」
元々のゲーム世界では、テイムアイテムに保存したモンスターには餌アイテムの供給は必要なかったし、イスマイールも多分大丈夫だろう。
『やれやれ、酷い目にあったわ・・・』
再召喚したイスマイールがぶるぶると首を振る。クリスタルの色は引き続き赤だから、テイムは継続中という事になる。
「文句言わないのっ! イスマイールが聞き分け悪いから、こんな手を使うしかなかったんだから!」
『ふむ、まぁ済んだ事は仕方あるまい。そう決まったのなら町まで急いで行くのが良かろう』
イスマイールは地面に頭を付け、私とローザに目線で乗れと促してくる。
『アルザよ、太陽がやや傾く程度の時間には到着する予定だが・・・』
そのペースで大丈夫かと問うイスマイールに、アルザはすらりとした脚を叩いて見せて承諾する。どうやら楽勝らしい。
「街道沿いは避けてね?」
『心得ておる』
しばらく川沿いに進み、最後はクルワットの森を抜けるルートが人目に付きにくく、短時間の行程になるようだ。
『よーし!それじゃ出発ぅー!』
私の肩の上に腰掛けたクスクスが手を叩くと、イスマイールは風を切って走り出す。
「あ、そうだイスマイールちょっといい?」
『どうした?』
「町に着いたら、またクリスタルに入ってもらうからね?」
少し抗議くさい視線を向けられたが、町で安全な生活を確保する為には、他に方法がない。
心の中で謝罪しつつ、私はイスマイールの毛皮に強く抱きつくのだった。
◆
【エメフラの町・冒険者ギルド】
◆
「なるほど、ギーガアントの群れを倒したのは、イバの村にいた白狼族だと言うんですね」
それなら納得ができるといった感じで、ギネスが何度も頷く。
ローザは白狼族について知らなかったが、白狼族がイバの村人と交流があるというのは、やはり一般にはあまり知られていないらしい。
アルザの狼人族は集落に伝わる話で知っていたが、王国やギルドの見做すところの魔獣がいち村落と懇意にしているなど、そうそう広められては困る話なのだそうだ。
ギネス自身も白狼族と村の関係とその強さをよく知っていたらしく、白狼族の名前を出す事で納得してくれたのだ。
ローザの最高位魔法や、ギーガアント無双をするアルザ、私のライカンズローブのアイテムの効果などはあえて伏せた。
数百単位でギーガアントクラスのモンスターを対処できる新人冒険者となれば、変な足かせをつけられかねないというローザの判断だ。
「しかし群れというのは妙ですね」
ギーガアントといえば、ギーガクイーンと呼ばれる女王蟻を中心とした群れを形成し、ギーガクイーンは世界に1匹しかいないとされる。
世界中に軍団を派遣し唯一の女王蟻に栄養を運ぶ為広く行動する、それがギーガアントの生態系で、これまで見つかった最大の群れでも10匹程度だ。
ラナ達が言ったように大群でひとつの村に襲い掛かるというのは、これまで明らかになっている事実からは考えられないのだとギネスは言う。
「ギーガクイーンの巣が近くにある可能性もあるので、別件で調査隊を送りましょう」
私達が見て来ようかと提案するが、ギネスが首を横に振る。
「ギーガクイーン討伐となればSランク級です。それこそギーガアントの万に近い大群を相手にしなければいけなくなります」
依頼を選ぶ権利は基本的には冒険者にあるが、Sランク級ともなると流石にギルドの権限で、受ける冒険者のランクに制限をかけられるらしい。
「……徴税に向かった役人の遺体らしきものも確認済み、ですか」
話を聞くだけで疲労困憊といった様相で、ギネスはかぶりを振っている。
「分かりました、伺った内容で上には報告しましょう」
こんな大層な依頼になるとは思いませんでしたよ、とギネスは苦笑する。
「受付の者には言付けておきます。このまま受付で報酬を受け取ってください」
そう言うと、ギネスは難しい顔で奥へと引っ込んでいった。
◆
【酒場兼食堂「エメフラ亭」】
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『それじゃあ初任務の成功を祝ってー』
「「「乾杯ーーー!!」」」
エメフラ亭に入ったのはタイミング良く酒類を扱い始めた時間だった。
『人間族には、乾杯っていう文化があるんだよね?ね?』
と、興奮するクスクスに押されて、乾杯する為に全員エールを頼んでいる。
『ラナ、ラナ私のも頂戴っ!』
妖精用のジョッキやコップがない為、クスクスは今回もつまみ飲みである。
『苦ぁ』
渋い顔をしているが、お子様味覚の妖精なら仕方ないだろう。エール=ビールだしね。
「はいはい、じゃあクスクスも飲めるように果実酒でも頼むね」
お゛ね゛がい゛ーと苦い顔をするクスクスを横目に、私達は注文をしていく。
「あ、ウェイトレスさん肉大盛り! あと、ボア肉の内臓スープある?」
昨日ボア肉を食べた時は、内臓も含めて全て焼き料理だった為今度はスープを食べたいみたいだ。
「私は魚料理にしようかしら。アラッフのソテーを頂戴」
「あ、ボア肉の内臓スープは私も! えーとウェイトレスさんスープは2つにして下さい。あとオーリンの果実酒と、フルーツの盛り合わせ下さい」
かしこまりましたーと、メモも取らずにウェイトレスは厨房へとオーダーを通しに行った。
注文もひと段落着いたところで、私は先ほどのギネスとのやり取りを思い出す。
「そういえば、ギーガクイーンの調査はやっぱり参加できないですよね?」
「あら、戦ってみたかったの?」
私の問いかけに、ローザが不思議そうに問い返す。
「うーん、なんだか途中から人任せにしてしまったみたいで、収まりが悪いんですよ」
「あのギルド員の言ってた事ではないけれど、見極めは大切よ? 特に冒険者ギルドの仕事なんて、分業だもの。最初から最後まで自分で携わるなんて無謀でしかないわ」
ポーションを作る為の薬草の収集が依頼として、ポーションを作って納品するわけではないでしょう、とそう言われるとその通りだという気がする。
「んーラナさ、あんまりなんでも自分でやろうとするな」
エールを飲み干したアルザが、穏やかな表情で気遣うように私の肩を叩く。
「まぁ、そうだよねぇ」
確かにアルザとローザの言う通りだ。
元の世界でもゲームの中なら兎も角、リーマンだった自分の仕事は確かに細分化されていたものだった。
ダメだなぁ私は。あれだけ色々な目にあっても、私はまだゲーム的な万能感を持っていたみたいだ。
忠告は金言というものだ。2人には感謝の言葉を述べておこう。
「お、肉が来たぞ!」
色とりどりの肉が大皿に乗ってやってくる。アルザにとってお馴染みの肉の山だ。
「へぇ、内臓スープって意外とクセがなくて味が濃いね」
ボア肉の内臓のスープは焼いて食べた時のようなクセがなく、ねっとりとした舌に絡みつくようなスープの触感と、濃く煮出された味わいが堪らない。
はぁ……染みるぅ。これはエールがすすむ味だわ。
「あら、いい顔ね。後で少し頂いていいかしら?」
うんうん。あ、ローザのソテーもちょっと頂戴。
『ラナ、果実酒ちょっと貰うねー』
んー前みたいに体ごと突っ込まないでね?
「あ、お姉さん肉おかわりー!」
「あら果実風味のエールなんてあったのね、私にはこれを頂けるかしら?」
次々と注文が通され、どんどん料理が届き、そして次々と平らげられていく。
女性といえど、冒険者の消費カロリーは一般男性より遥かに多い。その分沢山食べるのだ、もぐもぐ。
『ぬう、ラナよ。宴をするなら我も混ぜよ・・・!混ぜよっ!』
テイムクリスタルがぶるぶると震えて、イスマイールが参加を訴えるが、私は無視を決め込む事にした。
うん、クリスタルから出すのはいいけれど、ここじゃ一番出しちゃだめだよね、うん。
◆
【酒場兼食堂「エメフラ亭」・外】
◆
「ふぅ、それじゃ次は宿の確保かしらね」
ちらりとこちらを見たローザが耳元で手をひらひらさせている……ってまさか!?
「ローザさんもしかして?」
言いづらい気持ちを飲み込んで問い返すと、
「にゃん♪」
満面の笑みでローザが言う。これまで見た中でも最高の笑顔である。邪気を感じさせないあたり、筋金入りのドSさんだ。
アルザとクスクスが怪訝な表情で見ているが、多分彼女は止まらないだろう。
「……せめてクスクスとアルザは別室でお願いします」
「いいわよぉ」
指先をぺろりと舐めるローザの動きは、ギーガアントの大群よりも更に強いプレッシャーを私に与えてくるのだった。
つづく
初めてのアレ=テイムでした
ペットはもう少し増える予定です




