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第一章「14世王期」・序
リッチ王国は西南の島国であり、5世王ウィリアムの頃全島統一を果たした。子の8世王アルフレッドの頃に栄華を極めたが、王子たちの争いと、海を隔てた隣国であるゼントル王国の侵攻により王府は瓦解、以後空位時代が続いた。アルフレッドの王弟ヘンリーの孫リチアムが中興し、10世王に即いたあとはよくこれを治めた。
これから記すのは、14世王ワットの治世である。
ワット王と亡き14世王妃ジュエリアには、一粒種の王太子がいた。当記の語る主人公、ジェームス王子である。
ジェームス王子はリッチ暦229年、当時王太子のワットと、王太子妃ジュエリアの間に生誕。国民から大変な祝意を受け、将来を期待した祖父13世王エドワードに、幼少から王侯学の教育を受けた。
父が14世王に即位後、間もなく母妃が逝去し、ジェームスにとっては深い哀しみとなったが、その後伯爵令嬢で、王子付きの侍女となった8歳上のモロヘイヤが、母代わりとはいかないまでも、細かい養育に尽力したため、つつがなく成長していった。
そんなジェームスもリッチ暦245年花の月の5日に、めでたく16歳の生誕日を迎えた。