6.武闘会 後半
本日三話目です。
イリーナの出番になり、戦いが始まった。槍を使う同士の戦いになり、騎士は槍を構えるが、イリーナは肩に槍を掛けたままで構えない。
「イリーナ殿?貴女が守護七騎王の1人だとしても、舐めすぎでは?」
「いいから来いよ。数分は遊んでやるからよ」
イリーナの言葉に憤慨する騎士だが、実力はイリーナの方が上だと理解しているので、冷静に息を整える。
「ーーはぁっ!」
槍でイリーナを貫こうと仕掛ける。ただの突きだが、イクスが戦ったリエルよりも速い突きだった。
「甘い!始めから本気で来な!!」
「ぐっ!?」
簡単に払われて、弾かれた時の一撃が重かったのか、僅かに手が痺れていた。それでも、突きの連撃を繰り出す。
イリーナはそれをさっきのように弾いていくだけで、反撃はしない。イリーナを知らない人は防戦一方に見えるだろうが、実際はまだまだ余裕そうだった。そしてーーーー
「っちぃ……」
騎士の人は、槍を取り落としていた。手がブルブルてしていて、痺れていたから槍を持てなくなったのだ。観客には、どうしてそうなったのか理解していないようで、首を傾ける者もいた。王族がいる観客席では、
「うげっ、あれはキツイよな」
「しばらく武器を持てなくなるからくらいたくはないですね」
イリーナと戦ったことがあるイクスとレクアは前のことを思い出して、苦そうな顔になっていた。
イリーナが騎士にやったことは、ただ武器を弾いていた、それだけなのだ。だが、イリーナは弾く時の衝撃が全て武器を持つ手に流し込むように、持ち手の近くを力強く弾いたのだ。そうすると、近くにある手に大きな衝撃が響いて、それを何度かやると手を痺れさせることができる。
故に、騎士の手に限界が来て、槍を取り落としたのだ。
「もう終わりかぃ?」
「ーーま、まだだ!!」
騎士は槍が使えなくなっても、まだ魔法が残っている。魔法を放とうとする騎士だったが、イリーナの姿が消えたことに驚いた瞬間に、顎から痛みを感じて地から浮いていた。
「コバぁっ!?」
「もう面倒になったから、終わりにしてやるよ」
イリーナは騎士の懐まで”縮地”で一瞬に入り込み、顎を殴ったのだ。これで終わらず、槍の石突で腹を突き刺して五メートルぐらい吹き飛ばしていた。
「つまんねぇ、次は強い人だったらいいな」
知的そうなお姉さんの口から出た言葉は戦闘狂のそれだった……
「やっぱり、イリーナの圧勝か」
「仕方が無いと思うよ。イリーナはライゼオクス王国の最高戦力の1人なんだから」
「やっぱり、イリーナは凄いねっ!」
結果が見えていた戦いだったが、見る側は少し楽しめたと思う。次はまた騎士同士の戦いで、特に珍しいものではなかった。
しばらく試合を消化していき…………
「お、次はダリウスと……クーン大将?まさか、大将同士の戦いが見れるとは」
レクアはニヤッと二人の戦いに目を向ける。大将同士の戦いなんて、なかなか見れない余興で、レクアもイクスも楽しみにしていた。
イクスは自分より確実に格上である2人の戦いに興味があった。おそらく、2人は本気で戦わないと思うが、どちらが勝つのかーーーー
戦いの始まりに、剣の打ち合いが始まった。どちらも高等な技術を使った剣術、足を使った体術。体力はまだ若いダリウス皇子の方に分があるとイクスは思っていた。
だが、少し少しとダリウス皇子がクーン大将の攻撃を防げなくなっていったのだ。
やはり、まだ遠征での疲れが?と思っていたが、ダリウス皇子とクーン大将の様子を見るには疲れで押されているというより、技術や経験の差でクーン大将が勝っているのがわかった。
「ほへー、クーン大将もやるじゃないか。あのダリウスが押されているぞ?」
「ダリウス皇子は本気でやっているかわからないが、今はクーン大将に押されているな」
「あ、ダリウスの奴が降参したぞ」
レクアに言われて、2人を見てみるとダリウス皇子が剣を置いて手を上げて降参しているのが見えた。
観客席からまだらな拍手が聞こえることから、この戦いは高等な剣の技術が伺えて楽しめたということだろう。
「あとは、知っている奴は父上だけか?」
「確かに。他は名前を知らない騎士ばかりだったな」
「それでも、帝国は高い技術を持った騎士も多数はいますので、戦いを見逃さないように」
ミジェルが注意を言ってくる。レクアは仕方がなく、返事をするのだった。
「へいよ、ちゃんと見とくよ~」
「そうだな。まだ見ぬ強きの者がいるかもしれないからね」
その後も試合が続き、ようやく父親であるシュヒットの出番が来た。相手はイリーナと同様に騎士だった。もし、クーン大将のような強者だったら戦いの場では自軍の教官でしかないシュヒットでは勝てなかっただろう。
「相手が名も知らない騎士だとしても、危ないかもな。父上は少し前は強かったみたいだが、今はどうだろうか?この前の俺と同じように書類の仕事ばかりしていたし」
「それに、兵士達の教官をしているけど、いつもじゃないから現役の時より実力が落ちているかもしれないね」
息子であろうが、自分の父上に厳しい評価を上げる。もしかしたら、騎士相手でも負けはあり得るだろうと2人は考えていた。後ろに立っている守護七騎王も同様だった。レミアードは戦いに詳しくないため、見ているしか出来ない。
「私はシュヒットが勝つのを信じているわ」
だが、ほぼ全員が負ける可能性を見出していた中、フェアルークだけは旦那であるシュヒットの勝ちを信じていた。この武闘会に参加出来ることを聞かされてから、影ながら努力をしてきたことを知っているのだから。
「おっ、始まった……むっ、前と動きが違うな?」
「調子がいいのか、動きが良い。今は父上が攻め勝っているみたいだな」
予想が外れ、シュヒットはいい動きをして、騎士を攻め立てていた。
「お父さん、頑張って!!」
レミアードは応援をして、ジッと戦いを見ていた。戦いに興味がないレミアードにしては、珍しいと皆は思っていた。
「こりゃ、父上の評価を変えないと駄目だな」
「そうだね。もしかしたら、見てない所で鍛えていたかもしれないな。ここは素直に息子らしく、応援でもした方がいいかな?」
「最後の言葉は言わずに、応援した方がよろしいかと」
後ろで立っていたミジェルからツッコミが入った。レクアも仕方が無いなと思いながら、2人は応援し始めた。
その声が聞こえたのか、さらに父上が優位に立ち始めた。そしてーーーー
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「イリーナが優勝したか」
「うん、決勝でのクーン大将と戦いは面白かったな」
「お父さんも頑張っていたねっ!」
武闘会の結果は、イリーナが優勝したのだ。決勝ではイリーナとクーン大将が戦い、お互いは魔法を使わなかったから本気とは言い難いが、ギリギリの戦いが観客達に熱を持たせたのだった。
父親であるシュヒットは残念ながら二回戦で負けた。歳に勝てなかったのか、息切れが早く、相手が防御重視の騎士だっただけに体力を削られて負けてしまったのだ。シュヒットは50代であり、クーン大将もそろそろ50代に入りそうだが、まだ現役でいるおかげか、決勝でイリーナといい勝負を見せてくれた。
「来年もやるなら、俺も出てみてぇな」
「ハザード皇帝にお願いすれば出れるんじゃない?」
イクスも出てみたいが、まだ歳が若いとかでフェアルークとシュヒット、さらにミジェルも認めないだろう。そう読めるので、来年は諦めていて、レクア兄さんを応援しようと考えていた。
「よし、来年ななったら頼んでみるか!!」
「ジルも出てみたら?」
「ん?俺か?面倒だし、連戦なんて、勘弁して貰いたいね」
イクスはジルに出たくないか?と聞いてみたが、予想通りに面倒だから出たいとは思わなかったようだ。
「来年も守護七騎王の誰かが出るならレクア兄さんが優勝するのは無理じゃない?」
「うっ、なら、今から鍛えればいいっ!!」
「無理だろ」
バッサリとジルが一言だけで切り裂いた。今でも、守護七騎王の誰にも傷一つも付けられないのに、たった一年だけで守護七騎王を超えるなんて不可能だろう。
乾いた笑いを浮かべて、レクアは落ち込んでいた。お前はずっと鍛錬をしても、守護七騎王の誰かを超えるなんて不可能と言われたようなもので、落ち込んだのだ。
こんな話があったが、無事に武闘会は終わり、泊まっている王城へ戻るのだった。
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さらに、四日経ち、一週間と長い祭りは終わった。イクスは母上や父上と他の皆と一緒にライゼオクス王国に帰ったーーーー
ここまでは平穏な日々だった(・・・)…………
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「……な、何故、……こんなこと、に…………」
そう呟いだイクスはシュヒットの護衛でありケイルに肩を貸して貰い、口に血を吐いたような後が残っていた。
ここは小さな舟の上であり、ライゼオクス王国の後ろにある湖を渡っていて、イクスは空を見上げて座り込んでいた。
側には、ケイル、帝国の兵士であるはずのウェダとリエルがいて、何故か護衛であるはずのミジェルの姿はなかった。
見上げているイクスの目にはある物が写っていた。
ライゼオクス王国の王城、そこには…………………………帝国の旗があったのだったーーーー
これで、1章 平穏の日々は終わりです。
次の章、奪われる王国をお楽しみください!