5.武闘会 前半
本日二話目です。
ライカ参謀への挨拶も終わり、夜ご飯を食べ終わって、レミアードと部屋でゆっくりしていた。
ノックがあり、「入ってもいいかしら?」と声が聞こえた。その声は、母上であるフェアルークだった。
「あ、お母さん?」
「いいですよ」
「ありがとうね」
優しい笑みを浮かべて、部屋に入っていくフェアルーク。母親ならノックをした後、すぐに入ってもいいと思うが、ここは自分の家ではない。もし暗殺者でも来ていたら危ないので、必ず声を掛けて、返事を貰ってから入ることになっている。ノックさえもなく、入ってきたら昼のダリウスのように剣を向けられる。
「こんな時間に来るなんて、珍しいね。お父さんは?」
「ふふっ、いつも忙しいというわけでもないわよ。シュレットは、皇帝と飲んでいるわ」
「そうなんだ。仕事がない時は、いつもお父さんと一緒だものね!」
「レミアードも、いつもイクスと一緒じゃない。たまにはレクアと一緒にいては?」
「お断りさせて頂きます。私はイクスお兄様だけですわ!!」
堂々と母親の前でブラコンの宣言をするレミアード。イクスは呆れるが、いつものことなので、何も言わない。母親も知っていることなので、うふふっと微笑んでいるだけだ。
「イクスは愛されていますね」
「妹にですがね。それより、話があるのでは?」
「あら、母親が子供の部屋に来てはいけないのかしら?」
「いえ、それはいいのですが……、来たのが珍しくて」
フェアルークは、イクスとレミアードが一緒に寝る時は、一度も部屋に来たことはない。前にそのことを聞いたことがあるのだが、フェアルークは「2人の邪魔になっては、馬に蹴られちゃいますからね♪」ということらしい。
「今、来たということは、何か話が?」
「話が早くて、助かるわね。明日のことでの話があるの」
「明日?武闘会でのことですか?」
「ええ、レミアードの護衛であるイリーナは武闘会に出るでしょう?その時、レミアードの側にずっといて欲しいのよ」
「あー、成る程。護衛をする人が足りないからミジェルが二人分の護衛をするわけだな。あ、父上の護衛は?」
「いつでもシュヒットの側に行けるように、待機室で見ているの」
フェアルークとシュヒットにも、守護七騎王が1人ずつ付いている。シュヒットを守る者は手が空くかと思ったが、引き続きに護衛をするようで、レミアードの護衛がいないからミジェルがいるイクスに頼んだのだ。レクアとジルに頼むことも考えたが、レミアードに話したらイクスの方がいいと言うだろうと考えた。
「まぁ、明日もレミアードと一緒に見ると決めていたから、問題はありませんよ」
「イクスお兄様!!一緒に見ましょうね!!」
レミアードはイクスの腰に抱きついて、喜んでいる。
「今はいいけど、公では抱きつかないように」
「は~い」
しばらく話をして、フェアルークは自分の部屋に戻って行った。
明日は、武闘会になり、父親とイリーナが出る。イクスはどちらも無事に勝ち残れるように、祈ってからレミアードと寝るのだった。
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帝国武闘会場
ついに、武闘会が始まった。イクス達は王族専用の観客席から会場を見下ろしていた。
「この場所なら、護衛はいらないみたいだな」
ここは王族専用であり、入れるのは王族関係者と給仕の人だけだ。給仕と相手をするのは、守護七騎王の誰かである。
「いえ、それでも暗殺者の警戒だけは解けません」
「はい!イクス様は強いのですが、万の一もありますので、私達が守りますぅ!!」
ミジェルの横には、緊張していて、ガチガチになっている女性がいた。その者はガチガチで強そうなイメージを持てない細身の女性だが、フェアルークの護衛という名誉な仕事を承っていた。
名前はサリナと言い、守護七騎王になったばかりの新人なのだが、フェアルークの護衛を任せられる程の実力を持っており、守護七騎王の中で一番の実力を持つエースでもあるのだ。
「ミジェル先輩!私は何をしたらいいのでしょうか!?」
「貴女はまず、落ち着きなさい。敵が出てこない限りは出番はないので、黙ってフェアルーク様の側に立っていなさい。うろうろされては、ウザいですから」
「は、はい……、すいません……」
サリナはミジェルの辛辣な言葉に落ち込んで、フェアルークの側へ戻っていく。これが守護七騎王のエースなのかと疑いそうだが、実力はミジェルやジルよりも上である。ミジェルから聞いただけで、イクスが見たわけでもないが、ミジェルが戦って負けたと聞いたし、現にフェアルークの護衛をやっていることから、強いのは本当のことだろう。
後、シュヒットを守護する者は、シュヒットが軍にいた頃からの仲間&親友であり、シュヒットと同じように平民から成り上がった実力者なのだ。
名はケイルと言い、鍛えられた筋肉を持った男で、シュヒットが一番信頼している仲間である。
イクスも手合わせをして貰ったことあるが、見た目と違って技巧派であったことに驚いたのをよく覚えている。
「ケイルも出れば、面白い戦いが見れそうだったんじゃないか?」
「そうだな。ケイルの技術は見た目を裏切って美しいもんな」
ケイルが使う武器は長剣で、どんな武器にも対応する実力を持っている。技巧派であり、力もあるので普通の兵士では勝負にならない。
「まぁ、父上とイリーナもいい所までは行けるんじゃないか?」
「2人共、調子にムラが大きいから調子が悪かったらダリウス皇子に負けてしまうかもしれないよ」
「あー、あいつも出るんだったな。昨日、帰ったばかりなのに、大丈夫なのか?」
ダリウス皇子は昨日、討伐のために遠征から帰ってきたばかりで、疲れも残っているはずなのだ。
「恐らく、魔獣は瞬殺で終わらせたのでは?ダリウス皇子とライカ参謀もいたのですから」
「あー、ライカは参謀のくせに強いんだよな。実力的には、ダリウスと同等かそれ以上じゃねぇ?」
「それが本当なら、ランク5の魔獣といえ、早く終わるかもな」
イクスはダリウス皇子の強さを見たことがあるが、ライカ参謀の実力は知らないのだ。ダリウス皇子と同等かそれ以上の実力なら、ランク5の魔獣なんぞ、瞬殺だろう。
「おっ、始まるぞ!えっと、初戦はどちらも知らない騎士だな」
レクアは顔を見てみるが、知らない顔なので、少し強いだけの騎士だろうと判断した。
「2人はいつ出るか聞いた?」
「確か、父上は最後の方で、イリーナはこれの次だったはず。掲示板に貼られていたトーナメント表を見ていなかったの?」
「ああ、組み合わせを知らない方が面白そうだったが、父上とイリーナのだけは確認すべきだったか」
あちゃーと額に手を付けるレクア。そのレクアを放って、イクスは騎士同士の戦いを見る。武闘会では魔法もありの戦いをやっているので、雷と風の魔法が吹き荒れていた。
魔法を使うと体力が減るので、魔法は隙を作り出すために使うか、隙が出来た時に魔法でトドメを刺すのどちらかになる。今は2人とも隙を作り出すために、魔法を多用していた。
「これではすぐに息切れすんだろ?トーナメント戦であることを忘れていねぇか?」
「いえ、この戦いは仕組まれていたのかもしれません」
「は?どういう意味だ」
ミジェルが気付いたことを話す。一回戦だけは観客を楽しませるように、わざと騎士同士にして、魔法戦で派手に武闘会の始まりを飾るのかもしれない。
仕組んだ者は勿論、ハザード皇帝のことである。
「成る程な。今回が初めてだから、なるべく派手にしたいのかもな」
「ふむ、それはありえるな……あ、終わったか」
たった今、戦いが終わり、勝ったのは雷を放っていた騎士の方だった。風使いの騎士は鎧から焦げた匂いがしそうな煙を出していた。手加減していたのか、すぐに立ち上がってヨロヨロと待機室へ戻っていく。
「今回のはワザとだとわかったし、次からが本番だなっ!!」
「イリーナの番ですわねっ!!」
レミアードは戦いに興味が無かったのか、今まで黙ってデザートを摘まんでいたが、イリーナの番になると、声を上げたのだった。
表に出てきたイリーナはレミアードの声に気付いたのか、こっちに手を振っていた。そのイリーナは槍を武器にしており、いつもなら銀製の槍だが、今は鉄の槍を持っていた。
イリーナは本気を見せるつもりはなかったので、銀製の槍を持って来なかったようだ。
そのイリーナが相手をするのは、帝国の騎士であり、同じ鉄の槍を持っていた。
審判である者の開始合図でイリーナの戦いが始まるのだった。
次は昼12時になります。