3.祭りの始まり
本日二話目
イクスの戦いが終わり、レクアの方を見てみたら、ちょうどレクアがウェダの首に剣を置き、決着をつけていた。
「ん、イクスも終わったみたいだな」
「問題なく勝てたよ」
イクスはリエルに手を貸して、立ち上がらせている所だった。イクスは、女性と間違われることがある程に可愛いので、微笑みながら手を貸すと、リエルは顔を僅かに赤くしていた。
「王子様のお二方は強いですね。見ている側も刺激になったかと思います。手合わせをして頂き、ありがとうございます」
責任者の騎士が近づいて頭を下げて来た。
「構わない。やることがなくて、暇だったからな」
「俺が『神の盃』を飲んだら、魔法戦もやってみたいな。その時、また相手してくれるか?」
「は、はい!」
イクスとリエルは本気を出していなかった。リエルは魔法と槍を使った戦法が主体であり、イクスは棒術の技も使ってはいなかった。
イクスの棒術は我流であり、ミジェルはそれを直そうと基本を教えたのだが、イクスは基本はやりにくく、我流の方が動きやすいということで、我流のままになっている。
刃がついていない棒術ではなく、剣術や槍術も教えてもらったこともあったが、棒術の方が感覚的に馴染み、棒術で進むことに決めたのだ。刃がついていなくても、今の武器である鋼鉄で出来た棒、孤鉄なら打撃中心の攻撃で頭など弱点や当たりどころが悪ければ、一撃で叩き殺すことも可能だ。
「よし、次は俺達でやろうぜ!」
続けて、レクアとイクスが軽く運動をして、一日があっという間に過ぎたのだった。
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祭りの日、レクアとイクスはダリアロス帝国で一番高い塔にいた。
ここにいるのは、声を大きくする機械を使って、帝国中に挨拶を届けるためにだ。
「やっぱり高いな。毎年のことだが、慣れねぇな」
レクアは高い所が少し苦手で、窓には近付かない。イクスは高い所が苦手というのはなく、窓から見下ろして、祭りで騒いでいる民を見ている。
「去年より増えたような気がするなー?」
「今年は、武闘会の披露があるから、わざわざ遠くから見に来る者もいるからな」
イクスの疑問に答えたのは、一緒に塔へ上がったハザード皇帝だった。ハザード皇帝は、ライゼオクス王国だけではなく、遠くの国へも招待を出していたのだ。招待した国は、ここから一ヶ月の距離があり、いつもなら、遠いから断るのだったが、今年は帝国の武闘会で帝国兵士の強さを見れるのだから、見る価値があると判断して来たのだ。
だが、来たのは招待した王族ではなく、視察が目的だとわかりやすい貴族の集団だった。
皇帝は来たのが王族ではないことに残念だったが、来てくれたのだから、丁寧な扱っている。だが、王族であるイクス達が止まっている王城内ではなく、グレードが少し高いだけの屋敷に案内している。
「では、挨拶を頼む」
「はい。では…………」
王子の二人が挨拶をし、街の中から様々な拍手が起きた。ライゼオクス王国とダリアロス帝国の仲が良好であることに、酒で乾杯する者もいる。
挨拶が終わり、一週間の祭りが始まったのだったーーーー
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自分の部屋に戻ったイクスは、部屋で待っていたレミアードに抱き着かれた。
「イクスお兄様!これから祭りを見に行きませんか!?」
「俺はこれからの予定はないから大丈夫だけど、レミアードはない?」
「大丈夫!今日は何もないって!!」
「そうだな。2人にも伝えて置かないと駄目だね」
イクスはレミアードの頭を撫でながら、自分から離れるように促す。2人とは、護衛のミジェルとイリーナのことだ。
イリーナはレミアードの護衛で、守護七騎王の1人である。力強いクレイモアの使い手であり、三日目の武闘会に出るのも彼女である。
「フードでも着て行かないと駄目だね。バレたら囲まれそうだな」
「もう4人分のフードを準備してあるよ!!」
イクスに聞く前から彼女の中では祭りに行くのは決定事項だったようで、イクス、レミアード、ミジェル、イリーナのフードをすでに準備していた。
隣の部屋で休んでいる2人を呼びに行き、祭りを見回ることに。
「あっ、アレは雲のような飴、綿飴だっ!!」
「祭りは珍しい食べ物があるからな。しかし、綿飴という奴はどうやって作っているのか検討が付かないな」
屋台に出ている綿飴は、既に作られた後なので、どうやって作ったのかわからない。硬い飴玉ならわかるが糸より細く、フワフワしていて柔らかいとは硬い飴玉から想像出来ないことだ。
「うん、あま~い」
「イクス様にもどうぞ」
フードを着たミジェルが買って来て、イクスにも袋に入った綿飴を渡して来た。
「ありがとう。確か、手で触ると、べとべとになるんだよな……」
「大丈夫だ。水と手拭いも持って来ているからな」
イリーナは男っぽい喋り方で、水と手拭いを見せてくる。見た目は知的なお姉さんのような女性なのだが、中身は全く逆の性格である。
考えて戦うより、ジルと同じように正面突破が好みである。
「そうか、ならべとべとになっても問題はないな」
「う~、ベタついて気持ち悪い~」
「もう食べ終わったのかよ……」
イクスはまだ一口も食べていないのに、レミアードはとっくに食べ終わっていた。
「だって、甘いもん。つまり、甘かった綿飴が悪いのっ!!」
「無茶苦茶だな」
「そこが、レミアード様のいい所ですね」
「アタシとしたら、直してほしいんだがなぁ」
4人は笑いながら祭りを見回り、見世物をやっている広場に着いた。
「わぁっ、トラさんが人を乗せている!!」
「あれは、魔獣使いですね。その耳は……」
「猫耳だな。獣人がここに来ているとはな。近くには獣人の村は無かったはずだが、旅の者かな?」
「おそらく、そうだろうな。あの虎はランク7の魔獣でライドラと言って、放電が出来る虎だ。それを操るとはな」
ライドラはランク7の魔獣に分類されており、人も食う危険な魔獣である。だが、この世には少数だが、魔獣を使って戦う魔獣使いと言われる者もいる。
ライドラは人の敵なのだが、目の前にいるライドラは周りに人がいるのに、襲うこともなく、首輪をしているといえ、鎖などの拘束具はついていなかった。
「ライちゃん!この薪を、四つに切って、燃やしちゃって!!」
「がうっ!」
「そぉれっ!」
猫の獣人は、人がいない上に薪を投げて、手を叩く合図を出した。
ライちゃんと呼ばれた魔獣は、上に跳び上がり、鋭い爪で薪を四つに切り裂いて、そのまま放電して、薪だけを燃やして炭にしたのだった。その芸に、客はおおーっ!!と声を上げた。
「あのライドラは言葉を理解しているのか?細かい指示も理解出来ていたぞ」
「凄い!!」
「ああ、あのライドラを上手く操っているな。あの獣人の指示通りに戦えるとなると、ランク7ではなく、6になるだろうな。その獣人も主人と認めさせるだけの実力か、魅力があるのかもしれんな」
それだけの実力があるなら、冒険者でもしているかもしれない。イクスは冒険者に縁がなく、魔獣を倒す職業としか知らない。イクスは魔獣と戦う経験はしてあるが、冒険者に登録はしていない。
「拍手をありがとうございます!また明日もこの広場でやりますので、この『メイとライちゃんの芸技』を宜しくお願いします!!」
メイと名を乗った獣人の少女はペコっと頭を下げると、ライちゃんも頭を下げていた。まだ自分より小さいのに、凄い子だなと感心するイクスだった。
メイちゃんとライちゃんは一度きりではなく、その後に出てきます。いつ出るかわかりませんが…………