2.手合わせ
本日一話目
今日は挨拶が終わって、やることもなくなったので、訓練所を貸して貰って軽く運動をすることに。
兵士が訓練で汗を流している中、責任者である騎士に会い、訓練所を使えるか聞いていた。
「珍しく宮廷魔術師が来て、訓練所の使用許可を取りに来たのは驚きましたが、王子様が訓練をするのですね?」
「ああ、派手にするつもりはないし、イクスと軽く手合わせをするだけだ」
ミジェルとジルは参加せず、レクアは魔法を使うつもりはない。イクスはまだ『神の盃』を飲んでいないから、魔法に対する耐性もあまり高くはない。
「そうでしたら、訓練所の一部を貸しても問題はありません。レクア様が良かったらですが……」
騎士からの提案があり、新人である兵士に経験を積ませるために、レクアに手合わせの申し込みをしてきた。
「おっ、それはいいな。2対2も面白そうだな」
「え、イクス様はまだ『神の盃』を飲んではおられないですよね?なら、危険では……?」
『神の盃』は、魔法を手に入れるトリガーがあるだけではなく、隠された能力を引き出すように、身体能力も上がるのだ。飲んだ人と飲んでいない人では、身体能力の差が大きいため、飲んでいない者が勝つには、熟練者と呼ばれる程の実力がなければ勝てない程にだ。
力を誤って、新人である兵士がイクスに怪我をさせたら責任者である騎士の首が物理に飛んでしまう。
「大丈夫だ。ヤワな鍛え方をしてねぇからな。確かに、イクスはまだ飲んでいないが、俺と同等に戦える実力を持っているからな」
「なんとっ!?」
レクアの言葉に驚く騎士。まだ14歳なのに、熟練者の域に達していると言われているのと同じなのだからだ。
「でも、さすがに魔法を使った手合わせは無しな」
「わかっています。魔法を使うなら、ここではなくて魔訓場でやっていますので」
「それなら、安心だな」
「よし、新人の2人を呼んで来い」
近くにいた兵士を呼び、この間に入ってきた新人の兵士を呼ばせた。新人といえ、兵士訓練校を首席と次席で卒業した新人であり、期待されている。
2人の新人兵士が来て、王子がいることを教えられたのか、緊張しながら挨拶をしてきた。
「は、初めまして、兵士訓練校を首席で卒業したウェダと申します!!」
「私は次席のリエルと申します。お会い出来て、嬉しく思います!!」
敬礼をし、自己紹介はしてくる。2人共、17歳でキッチリと成績も含めているところから、顔を覚えて貰えるようにと、必死な所が伺える。
もし、王子に気に入られたら、出世道を歩むことが出来るのだから。
「訓練している所に呼び寄せてすまないな。知っていると思うが、王子様の二方がお手合わせをしてくれるそうだ」
「えっ!?俺達がですか!?」
「そうだ。魔法は無しの手合わせをやる。もし、怪我をさせても責任はなしだと言っているから、思いっきりとやるんだ。幸い、『回復魔法』を使えるエルザ殿もいるからな」
「任せて~」
エルザは『回復魔法』の使い手で、骨折ぐらいなら、すぐに完治させることも可能だ。
「思いっきりと言われても、イクス様は14歳だと記憶していますが……?」
「確かに、イクス様はまだ14歳だが、レクア様によると、同等の実力を持っていると聞く」
「えっ!?」
「そ、それなら問題はなさそうだな……」
2人はおっかなびっくりの顔を浮かべて、イクスを見ていた。イクス本人は使う武器を選んでいる所だった。
訓練所の端に置いてある木製の武器を見て、イクスは中で1番長い棒を選んでいた。
「レクア兄さんは、これでいいよね?」
レイピアのように細長い木刀はないので、軽い木刀を選んで渡した。
「よくわかっているな」
「昔から何万回も手合わせをしてきたんだから、わかっているよ」
選んだ長い棒を振り回して、使い具合を確かめていた。自分の持つ鉄で出来た棒よりも軽いが、手合わせをするには問題ないと判断する。
向こうも武器を選び終わっており、ウェダは普通の木刀を、リエルは先に綿や布が包まれている長い棒。ウェダは剣使い、リエルは槍使いだとわかる。
「武器を選び終わったな?では、2対2の手合わせを始める!スタート!!」
先程の騎士が審判を受け持ち、手合わせが始まった。
先に動いたのはイクスだった。ウェダとリエルはまず様子見で来るだろうと考えていたが、当てが外れた。お互いの実力を知らないのだから、動きの癖を読むことに集中するのだが、イクスはそんなことは必要ないと言うように、二人の間に突っ込んで、棒の長さを生かして二人同時に攻撃をする。
二人は反撃をせずに、イクスから離れるように左右へ避けた。
「レクア兄さんは、どっちとやる?」
「そうだな、長いのと短いの同士でいいだろう?」
長いのと短いのは、武器のことを言っている。周りは大雑把に決めていいのかよ?と思ったが、自信があるからどちらでもいいと言う意味で取った人が多かった。
「構わない。俺の相手はリエル殿ということだな」
「俺は首席のウェダという奴とやるか」
思ったより、簡単に分断出来たので、ここからは1対1になる。イクスはリエルを見る。
「……成る程、突っ込んできたのは、分断させるためでしたね?」
「まぁ、そうだな。俺達はコンビでやるよりも1人の方が戦いやすいからな」
イクスとレクアは、手合わせを沢山してきているが、コンビで一緒に戦うことは少なかった。日常では息が合うのに、何故か戦いになると駄目になるのだ。
イクスとレクアは1対1の方が得意なのは、お互いが知っていることで、チグハグなコンビネーションを見せるより分断させた方がいいと判断したのだ。
「王子様であろうが、思い切って行かせて貰います!」
「遠慮なく、来い」
まず、イクスの胸真ん中の少し下辺りを狙って突きを放つリエル。身体の中心を狙って素早しい突きを放たれたら、普通の兵士なら避ける暇もないだろう。人間の弱点である的の小さい頭や心臓がある左胸を狙うより身体の中心である場所を突けば、当たる確率が高くなる。
弱点を狙うのは、相手がバランスを崩して避けられない状態にしてから狙えばいい。
このスピードなら、まだ『神の盃』を飲んでいなくて、身体能力が上がっていないイクスには避けられないと思っていたのだがーーーー
「よっと」
「なっ!?」
リエルの槍は、イクスが放った突きによって、横に逸らされてしまっていた。
リエルが持つ槍は、綿を布で先を包んでおり、他の木刀よりも穂先の範囲が広い。そこをイクスに狙われて、棒の先で槍の穂先に斜め気味にぶつけたため、横に逸れたのだ。
「くっ!」
「動きが分かり易過ぎ」
再度、突きを繰り出すが、先程と同じように横へ逸らされていた。槍の穂先の範囲が広くなっているといえ、点の攻撃は剣で振るう線の攻撃より捌くのは、動体視力が良くて、それに反応できる実力がなければ、難しいことなのだ。普通なら点の攻撃は回避、線の攻撃は防御なのだが、イクスはどれとも違うやり方でリエルの槍を捌いて行く。
「ハァァァァァ!!」
リエルは真ん中だけ狙うのを止め、手や足、たまに顔を狙う乱打とも言える槍の捌きでイクスを倒そうとするが……
「ーーーーな、なんで!?」
ランダムに放った突きでさえも、イクスは捌きって、確実にリエルの距離を埋める。
イクスが何故、ランダムに放った突きでさえも捌けるのか?それは、槍だけを見ていたからではなく、リエルの全体を見て、動きを読んだのだ。リエルの初動が大きく、目線も攻撃する箇所を見ていたのだ。だから、分かり易過ぎと言ったのだ。
「ーーくっ!」
槍が当たらず、もう目の前まで近付かれたリエルは、あと一歩でイクスに届く距離になるタイミングに、膝蹴りで鳩尾を狙う。
だが、イクスはそれも読んでいた。というか、ここまで近付かれたら槍の意味がなくなり、隠し持っているナイフを抜くか、格闘技で反撃する術しかなくなる。今は手合わせで、ナイフを隠し持っているわけもなく、必然に格闘での対処しかなくなる。
イクスは槍では石突きと呼ぶ個所で、膝蹴りを防いだ。
「もっと対人戦を経験した方がいいぞーー」
「ーー消えた!?」
急に視界からイクスがいなくなり、長い棒だけが縦に立っていたと、リエルが認識出来たのはそこまでだった。足に鈍い痛みを訴え、空中に浮いている感覚を感じていた。
「ーーな」
「終わりだ」
イクスはリエルの視界から消えるように、下へ伏せ、膝蹴りをしていない残った足を足払いしたのだ。だから、バランスを崩して、一瞬だけ宙に浮いたというわけだ。
イクスはその隙を作り出し、立てていた棒を自分の体重を加算するように、振り下ろした。棒はリエルの腹に振り下ろされ、くの字に折れて地面に突撃した。
「ーーーーっ、があっ!?」
そのまま、棒の先を喉に突きつけて、
「俺の勝ちだ」
そう宣言したのだった。
昼12時にまた投稿します。