20.敵襲
ノーラ軍師を仲間にしたイクス達は、ロナン村に向かっていた。ケイルは他の獣人を連れて、本拠地になる場所を探しに行っている。
出発してから一週間後にロナン村でケイルと待ち合わせをすると決めていたのだ。
だがーーーー
「何、煙が上がっている!?」
「もう奴らが来やがったか!?」
ロナン村がある方向に煙が上がっているのが見えた。獣人全員はケイルに着いて行ったから村には誰もいないが、火を付けたようだ。
「ち、このまま殲滅してやりたいが、おそらく動員されている数は前よりは多いだろうな」
「ええ、ジョイント中将が帰っていないのはもうばれているから100人程度の軍で行動しているとは思えないねぇ。ここはプラン2に移るべきよ」
プラン2とは、もしロナン村に帝国が現れていた場合は第二の待ち合わせ場所に向かうこと。第二の待ち合わせ場所はここから離れており、歩いて三日の先にある。
「確か、ラム村はロナン村の北にあったな?」
「はい。ライゼオクス王国はここから南に位置しており、反対側になるわ」
エリザもラム村に行ったことがあるので、方向もわかっていた。このまま戦えない人を数人連れて軍に挑むわけにはいかない。煙が上がる方向から目を背けて、この場所から去ろうとした時、ノーラ軍師が言葉を発していた。
「ふ~む、まだ帝国軍がいるみたいね。数は第一中隊クラスね」
第一中隊クラスとは、数に変えると1000人の軍隊になる。小隊が100人、大隊は10000人であり、第二中隊、第三中隊となれば2000、3000と分かりやすい言い方となる。
あっさりと一キロに近い距離からノーラ軍師はロナン村にいる帝国の数がわかったことにイクスは疑問を持った。
「ノーラ軍師?」
「主殿、我のことをノーラと呼び捨てでも良いのだよ?我の魔法、『遠見魔法』で半径一キロの先を見通すことが出来る。まぁ、ずっと見るのは無理だがな」
「凄い魔法だな。敵の居場所がバレバレじゃないか。それに、軍師は役職だからあった方が皆にもわかりやしいだろう」
そう、ノーラ軍師がいれば戦時で不意打ちを防ぐのは難しくはないのだ。さらに、戦況も見通せるなら地形を使った戦いなどをするために、引き込む策なども出せる。
「ふむ、まぁいいか。主殿がそう言うなら従おう。で、指揮をしている奴は黒い髪をした女性で、銀槍を持っているな。話しているみたいだが、はなしの内容まではわからんな」
「イリーナ……」
ロナン村に来ている指揮者は、守護七騎王の1人であるイリーナだった。これで戦いに行く選択は完璧になくなった。イリーナの実力はイクスもわかっており、今のイクスでもまだ勝てないのだ。
イクスは歯を噛み締めて、ここから離れると皆に言う。
「今はまだ戦うべきではない。行こう」
「はい、挑むのはまだ無茶です。いつか倒しましょう……」
「うん、強くなろうね!!」
「ケイルが待っていると思うから、行こう」
「我は主殿に着いて行くだけだのー」
「ラム村に行こう!」
「…………」
イクスと6人の仲間達はここから離れて、ラム村がある北に向かっていくーーーー
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ロナン村
ロナン村を占拠した指揮者であるイリーナはイライラしていた。何故、イライラしているのかは…………
「何故、誰もいないんだよ!?アタシは小せえ村を占拠する戦争をしたいんじゃねぇ!!血が流れる戦争の方をやりてぇんだよ!!」
「お、落ち着いて下さい。他の兵達が貴方の覇気に怯えていますので」
副隊長である男が隊長のイリーナを宥めるように言葉を選ぶ。イリーナは守護七騎王の中では馬鹿であるが、味方に武力での八つ当たりをする暴君でもない。証拠に、チッと舌打ちをしながらも、覇気を鎮めてくれている。
「ジョイン中将と小隊を潰したケイルと戦えるかと思ったが、期待外れだぜ」
「あれ、イクス王子は……?」
「あん?アタシは誰かに守られるような弱い奴には興味がないのは知っているよな。それに、『神の盃』を飲んだのも」
「はい、それは知っていますが……」
「あれから、もう一週間も経っているからとっくにくたばっているんだろ」
そう、普通ならまだ14歳であるイクスが『神の盃』を飲んだら三日後に死ぬのは周知である。まさか、奇跡を起こして、生きているどころか、レジェンドクラスの魔法を手に入れているとは、思わないだろう。
帰ってきた30人程度の兵はイクスの姿を見たが、それはまだ魔法を手に入れていなくて、苦しんでいる姿だったのだ。だから、帝国側はイクスがレジェンドクラスの魔法を手に入れたことを知らない。
「次の村に向かうぞ!」
「お待ちください!!こんなものを見つけました!!」
「破れた紙ぃ?」
家の中を捜索していた兵士が破れた紙を持ってくる。何故、破れた紙を?と思っていたが、中身が重要だったのだ。それをイリーナに見せると……………
「むっ?これはケイルの筆記じゃないか。なになに…………、はぁっ?『ホウダ村に待つ』って、一番目に潰された村に行ってどうすんだ?」
「もしかして、ケイルは誰かと待ち合わせをしているのでは?破けているが、証拠を消すまでには至っていないので、罠の可能性がありますが…………」
隣で読んでいた副隊長がそう進言してくる。この紙に書いていることが本当なら、ケイルは潰されたホウダ村に来ることになる。単純なイリーナが次に言う言葉を副隊長は読めていた。
「よし、行こう。罠があっても踏み潰せばいいだけだ」
「はぁ、わかりましたよ。隊を半分に分けますね。私はここでケイルが現れる可能性を考えて、しばらく待機しています」
結果、イリーナ隊は半分の兵をここで待機させ、イリーナはケイルが現れる可能性があるホウダ村に向かった。
さっきの破れた紙はケイルが作った偽物の手紙で、引っ掛かれば儲け物としか考えていなかったが、単純なイリーナは可能性があるだけで行ってくれた。
これによって、イクス達から離れることになって、後に騙されたと気付いたイリーナは怒り暴れてしまうのは愛嬌である…………




