19.出会い
マンティアスを倒したイクスは少し疲れたので、頂上へ向かう前に少しだけ休むことにした。
「さっきのは、新しい魔法なんですか?」
「いや、初めから使えていたが、魂の消費が他のより多いから使いづらかったんだ」
三つ目の魔法、”滅びの喰翼”は他のと違って、遠距離攻撃が出来る魔法だが、弾一発だけで人間の魂を三人分も使ってしまうのが痛い。その分、威力はマンティアスの腹を抉り、絶命させる程の威力がある。
さっき一発撃ったおかげで、威力と魂の消費を調整出来るとわかったが、それでも最低で弾一発で魂一人分。
考えもせずに弾を撃ち続ければ、すぐに魂切れになるだろう。
「マンティアスの魂は人間の一人と半分ってとこか」
魔獣はランクが上がるつれに、魂の質が上がるようだ。コクウの魂だったら、どれくらいになるか考えを深めていた時、体力がもう回復したことに気付いた。
「エリザが回復魔法を掛けてくれたんだな。ありがとう」
「それぐらいしか出来ることはないからね。この回復魔法は傷だけではなく、体力も回復出来るわ。私自身には体力を回復させる魔法は使えないけどね」
エリザの回復魔法も、自分自身の体力を代替に魔法を扱うので、自分の傷は治せても、体力は回復出来ないのは当然のことだろう。
「体力も回復したし、すぐに行けるか?と言っても、もうすぐで着くがな」
「あと数分で行けそうだねぇ」
煙が上がっている先と距離はそれほどに離れていないから、すぐに着くだろう。
「だったら、着いてから休めば良かったのでは?」
「アホか、ゼアは軍師のことを知っていても、俺たちは知らないし、もしも襲ってきたらどうするんだ?」
「襲ってくるのは、多分ないと思いますが……」
「念のために体力を回復させてからでも遅くはないだろう?」
ノーラ軍師の元に着いたとしても、必ず味方だと言える保証がない。前にノーラ軍師は自分の元に着いたら主と認めて追従すると表明していたが、今は考えが変わっている可能性もあるのだ。
このぐらいの警戒をしても罰は当たらないだろうと思いながら煙が上がる元まで歩いていく。
そして、イクス達は一つの家が見える場所まで着いたのだった。その家の前に人の影が三人分はあるのが見えた。
その3人は全員が女性であり、刀を持っている女性が見えたが、敵意はないことはわかった。
「ようこそ、我の庭を乗り越えてここまでたどり着いた勇者達よ。我はノーラ・エジェル・クワラールと申します。しがない軍師に何か用でありましょうか?」
1番前にいて、丁寧に挨拶してきたのが目的であるノーラ・エジェル・クワラール軍師だった。
着物を着ており、右手には白扇を持っていた。歳は20代後半といったところだ。
「丁寧な挨拶で迎えられるのは嬉しく思う。俺はイクス・エリダス・ディマクと言う」
「イクス・エリダス・ディマク…………、もしかしてライゼオクス王国の王族でしょうか?」
「まぁな、前はそうだったがな……」
「……?何かありそうですね。長くなりそうであれば、中でお話を致しましょうか?あと、横にいる女性は我の仲間で、親友でもあります」
「私は罠師をやっているテディアと言うねっ!あれだけの罠を潜り抜けて、ここまで来るなんて凄いね!!」
「私はノーラ軍師の護衛をやっているエミーダと言う」
次に紹介されたのは、罠師と護衛をしている女性で、テディアは山に罠を仕掛けた本人であり、身長はイクスより小さかったが、これでも20代である。刀を腰に掛けているのがエミーダであり、キリッとした顔で侍風な服装を着ていた。ちなみに、2人とも可愛くて美人である。
イクス達を連れて、家の中に入っていく。そして、ノーラから直球に切り出してきた。
「我をライゼオクス王国の軍師に勧誘しに来たにしては、王族が危険な場所へ来るのはおかしいですね。普通なら軍を送って来ますからね。それに、さっきの言葉は……」
「ああ、これから説明をする」
イクスはここまで来るまでの経緯を全て説明した。ライゼオクス王国がダリアロス帝国に乗っ取られた、亜人を排除する思想を持つ帝国、イクスとケイルが指名手配されたこと、レミアードが操られている可能性などーーーー
「成る程、話はわかりました。ライゼオクス王国が乗っ取られたのはそれ程に驚きはありません。我は幾つかの街や国を乗っ取る手伝いをしてきた立場ですからね。我にしては、貴方がまだ14歳で魔法を習得したこと、しかも母親と同じレジェンドクラスを手に入れていたことの方が驚きましたよ?」
国を乗っ取るなどは何処でも起きていることで、それ程に驚きはなかった。
だが、魔法については、前例にない14歳で魔法を習得、さらにレジェンドクラスを持つ母親からレジェンドクラスを持つ息子が生まれたなんて今までの歴史では一度もなかったことだ。
「それはいい。仲間になってくれるか、どうか教えてくれ。俺たちは指名手配されているから、それ程に助けを得られない可能性は高い。もしかしたら、ノーラ軍師までも指名手配される可能性もある。それらを考えた上で、答えが欲しい」
人生を狂わせる可能性があるから、無理に勧誘などはしない。仲間にぬるとデメリットもあることを教えてから勧誘をした。のだが…………
「我は構いませんよ」
「…………は?」
あっさりとOKを貰ってしまい、しばらく惚けてしまうイクスだった。
「い、いいのか?」
「はい、そろそろ隠居にも飽きてきましたし、不利な状況から逆転したら楽しくはありませんか?」
ノーラは白扇で口元を隠しながら言ってくる。おそらく、口元は笑っているだろう。まるで、これからの戦争に楽しみをしているような答え方だった。ウェダとリエルとエリザは眉を潜めたが、何も言わない。
リーダーであるイクスが決めることなのだから。
「そうか……、正直に言うが、ノーラ軍師が戦争を楽しもうともどうでもいい」
「ほう?」
白扇で隠されているから見えないが、ノーラの口元がさらに鋭くなっていた。
「俺は帝国を潰し、ライゼオクス王国を取り返す。そのためにも戦争を楽しむ酔狂な奴でも、仲間に引き入れる。つまり、勝てばいいんだよ」
「ふふっ……、面白い王子……、いや、主殿になるな。これからも宜しく頼む」
「俺こそな」
こうして、イクスは軍師を仲間に引き入れることに成功したのだった…………