14.指名手配
「し、指名手配と言わなかったか!?早過ぎないか!!」
ウェダが言っていた通りに指名手配にするには、早すぎると感じていた。昨日はジョイン中将と戦ったばかりであり、もし村に残っていた兵が王国に帰っていたとしても、次の日にすぐ指名手配されるのはあり得ない。
「あー、やっぱりそういう計画だったか……」
「イクスが処刑になろうが、逃亡しようが罪を被せられる計画だったようだな」
「それって……」
「ああ、逃亡されたことに気付いた後にすぐ手配したみたいだな。あいつは、ここに着いてすぐに脚が早い獣人に依頼したんだ。ライゼオクス王国の様子を調べて欲しいとな」
ロナン村は、前からの友達もいて、村長はイクスのことをよく知っている。そこで、何があったのか説明をして匿ってもらい、ライゼオクス王国の様子を調べて欲しいと依頼をしておいたのだ。
その獣人が帰ってきて来たわけだ。
「発表したのは、ハザード皇帝……いや、守護七騎王の誰かだったか?」
ケイルは民衆に説明するなら、ハザード皇帝よりも信頼の厚い守護七騎王が説明し、指名手配をしたと考えていた。だがーーーー
「い、いえ!発表していたのが…………レミアードでした」
「何だと!?」
「レミアード……!」
まさか、イクスの妹であるレミアードが発表していたとは、考えてなかった。イクスもレミアードも帝国に……?と心に悲しみが広がるのを感じられた。
「はい、レミアードが新女王となり、王国を統治するそうです。そして、指名手配のことを『残念なお知らせがあります。現女王であったフェアルーク様とシュヒット様、レクア様がイクスとケイルによって暗殺されました。私としては、イクスは良きお兄さんでしたのに、何故こんなことになったのか…………。帝国が助けに来なければ私も危なかったです。私は悲しみを飲み込み、イクスとケイルを指名手配したいと思います。皆様もご協力を宜しくお願いします…………』と言っておりました」
「…………?」
見てきた獣人の言葉にイクス以外の皆が暗い表情になっていく。レミアードが発表しては、信憑性が高い話になり、他の国からも指名手配される可能性が高くなる。それでは、他の国に頼ることが出来なくなってしまうのだ。
それで、皆が暗くなっていたが、イクスには獣人が言っていた言葉に違和感を感じたのだ。
(お兄さん?レミアードは今までそんな言葉を使ったことがなかったんじゃないか?何かがおかしい!)
「さっきの、レミアードが言っていた言葉をそのまま話したよな?」
「は、はい。一句も間違えてはいません」
「……なら、そのレミアードは偽物か操られているのどちらかだな」
「イクス?何故、そんなことがわかる?」
「レミアードは、俺のことをお兄さんと呼んだことはない。いつもお兄様だったからな。いつも呼び慣れている言葉を急に変えれると思うか?」
「それは…………、確かに難しいかもね。なら、操って言わせている可能性が高いわね。脅されて言わされているなら、恐怖する顔を民衆達に見られているはずよ」
「そういえば、悲しいと言いながらも無表情に見えました。遠目だったから、民衆達にはよく見えなかったと思います」
依頼を受けたのは、猫の獣人であり、視力も良いから表情もよく見えたのだ。無表情で両親と兄が死んだことを話すなんて、レミアードから考えられないことだ。レミアードは優しい心を持った少女で、亜人を排除する帝国の目的を受け入れないはず。
「なら、操られている可能性が出たな。しかし、他の国を頼りに出来なくなったな……」
「他に頼りになれそうなのは……」
これから排除対象になってしまう亜人、その者達と協力していくしかない。というか、それしか思いつかない。
「やっぱり、獣人やエルフ、ドワーフなどに会いに行くしかないな」
「そういえば、村長と話をしたよな?俺からも話をしたいのだがーーーー」
「イクス様!!起きたでありますか!?」
「噂をすればだ」
村長の話をしていたら、村長本人が宿まで来ていた。イクスも三年前に会ったことがあり、久しぶりだなと思うのだった。
「久しぶりだな。ニャン爺」
「ホホッ、その呼び名、懐かしいでありますな!!」
イクスはロナン村の村長をニャン爺と呼んだ。三年前にもそう呼んでおり、懐かしい気持ちになっていた。ここは猫人族が多く、村長も老人の猫人族である。
「あの悪ガキだったイクスが大きくなって、嬉しいものでありますな。勿論、イクスとケイルがフェアルーク様とシュヒット様を暗殺したと言う話は信じておらん。村にいる皆も同じであります」
「ニャン爺……」
ニャン爺と呼ばれる村長は、イクスが暗殺をしたなんて、信じていなかった。
「そして、帝国が目指す亜人排除、人間だけの世界のことをケイルから聞いております。村人全員がイクスに付くと決めているので、どうか宜しくお願いします!!」
「こっちが頼む立場なのだったから、助けてくれるのは嬉しい。こちらこそ、宜しくお願いをしたい!!」
お互いが頼み合うことになったが、ロナン村にいる獣人は帝国と戦うためにイクスに付くことになった。
「そういえば、イクスはニャン爺と呼んでいるけど、本当の名前は何かしら?」
イクスの後ろからヒョイっと現れたエリザがそんなことを言ってきた。イクスが何故、ニャン爺と呼ぶのかは村長の名前に理由があったからだ。
「あ、はい。私の名前は『ニャンテルドアミタロゼイクザルナイクダー』と言うのであります!」
「……えっ?ご、ゴメン。もう一回教えてくれる?」
「『ニャンテルドアミタロゼイクザルナイクダー』です」
「…………私もニャン爺と呼んでもいいかしら?」
「やっぱり、覚えられないでありますね。ニャン爺でいいでありますよ」
エリザは二回名前を聞いたが、長すぎて覚えられなかった。イクスがニャン爺と呼ぶ理由がわかり、エリザもニャン爺と呼ぶことに決めた。
後ろに立っていたウェダとリエルも眉を潜めて、名前を覚えようとしたが、最終的には諦めてニャン爺と呼ぶことに。
「さて、仲間が増えたのは喜ばしいことだが、問題は場所…………本拠地が必要だな」
「今後も仲間を集めるなら、そのような場所を見つけるしかないな。…………よし、ここで二つ手に別れるぞ」
ケイルは少し考える振りを見せると、そんなことを言ってきた。二つ手に別れる?
「どうして二つ手に?戦力を分断したら危なくないか?」
「大丈夫だ。さっきライゼオクス王国に大量の兵士が来たが、編成に時間がかかるだろうし、俺とイクスのチームにか別けて動いた方が早い。お前はエリザ、ウェダ、リエル、さっき依頼を受けてもらった猫の獣人であるゼアの少数精鋭である人を仲間に引き入れて欲しい。俺は仲間になった獣人達を引き連れて本拠地を探しに行く」
「ある人を?」
ケイルがイクスと別に行動することに驚いたが、仲間になってくれた者を護る人が必要だし、イクス側には回復魔法が使えるエリザに、実力が高いウェダとリエルもいて、イクス本人もレジェンドクラスの魔法を持っていて戦えるのだ。ゼアはある人がいる場所まで案内のためにイクスと行動するようだ。
「さて、準備を終わらせたら直ぐに出発してくれ。帝国側もあの人を放っておくとは思えん」
「あの人って、強いのか?」
ケイルが仲間に引き込めと言うぐらいなのだから、その人は強いだろうと思っていた。だがーーーー
「いや、弱いぞ?そもそも、戦う場所が違う」
弱いと言われて、ポカーンとするイクスだった。だが、ケイルは戦う所が違うといいながら、頭をトントンと叩いていた。
「俺が仲間にしたい奴は、頭脳戦で必要な仲間だ。つまり、軍師を仲間にしたいんだよ」
軍師。戦争などでは重要な立場にあり、心臓部となるリーダーと連なる存在である。
イクスはこれからゼアの案内でケイルが仲間に引き込んでおきたい人物を仲間にすべく、動くのだったーーーー




