11.帝国軍
村の入り口で爆発が起きたとわかり、ウェダが窓から覗いてみると、
「帝国軍です!!」
「ちっ!やはり一番近い村に逃げたのは不味かったか」
村の外には、帝国の兵隊が100人ぐらいいて、村はそんなに広くはないからすぐに見つかってしまうだろう。その前にここを出て身を隠さなければならない。ケイルがいても100人を超える兵に相手をすることは無理だ。ケイルは剣の技能が高いが、魔法はコモンクラスで10人程度なら相手になれても100人は流石に多すぎる。
「直ぐにここから出るぞ!!村は俺らがいないとわかれば、手を出さないはずだーーーー」
ケイルは忘れていた。爆発音がしたことを。
「なっ!?関係ない人を襲い始めやがった!!」
「な、なぜ……」
外を警戒していたウェダとリエルがそう言葉を漏らした。言っていた通りに、帝国軍は獣人の民を襲い始めたのだ。
「まさか、目的が本当のことだったとは……」
「エリザ?何か知っているのか?」
「えぇ、目的を知っていると言ったわよね。ハザード皇帝ついでに帝国は亜人を排除して、人間だけの世界を作ると……」
「そ、そんな……何を考えているんだ……」
イクスは血を吐きそうになりながらも立ち上がる。ケイルからビンタを貰ったおかげで力が少しだけ戻ったのだ。
帝国の目的を知った皆は声を失っていたが、早くここを出なければ危ない。
「詳しい話は後だ!早くここを出るぞ…………ちっ!もうここまで来やがったか!?」
宿の中に数人の兵が入ってきたことに気付いた。だが、数人だけなら突破出来るとケイルは判断し、裏口がある場所へ向かう。
「あ、見つけ……」
「邪魔をするな」
こっちを見つけた兵は仲間を呼ぼうと声を張り上げようとした時に、ケイルが一瞬で首を落として殺した。それを数回繰り返して、宿の裏口に着いた。
「はぁ、はぁはぁーーーー」
イクスは既に息切れをしていた。普通なら少し走っただけで息切れをすることはない。だが、イクスの身体は『神の盃』に蝕みばれており、死が近い。それでも倒れないのはイクスの高い精神力がそうさせているのだ。
「大丈夫ですか?」
「はぁはぁ、すまない……」
肩を貸して貰っているリエルに謝るイクス。自分のために巻き込まれていることを理解しているからだ。
「謝らないで下さい。私がそうしたいからそうしているだけで、イクス様が謝らないで」
「リエル……」
イクスはそう簡単に死んでたまるかと身体に力を入れて、周りを見る。ただの民でしかない獣人が帝国の剣によって殺されようとしていた。それを見ても、逃げることしかできないことに自分の不甲斐なさに怒り、帝国に対して黒い感情が湧き上がるのを感じられた。
今も逃げ続けている。帝国にイクスがいたことがばれており、70人程がこっちに向かっているからだ。残りの30人ぐらいは村に残って民を殺し回っている。
「ちっ、ばれたか」
「ど、どうするの!?」
戦えないエリザはイクスに回復魔法を掛けるしか出来なかった。戦えるのは3人だけで、70人相手に戦うのは自殺行為である。
「俺が囮になりますよ!!」
ウェダがそう発言する。ウェダが足止めをして、イクス達を出来るだけ遠くに逃がすと言っているのだ。だが、ケイルは却下した。
「駄目だ。数が違いすぎるから、稼げるのはたった数秒だけだろう。無駄死にをさせるぐらいならイクスの護衛をさせた方がマシだ」
ケイルは今の状況から判断して、無駄死になるだけで足止めをする必要を見出せない。ウェダもそれがわかっているのか、クソッ!と悔しがっていた。
「ヤバイな。しばらくすれば、追いつかれる。なら、自分たちに有利な場所を探して向かい打ったほうがいいな」
「数の利を潰せる狭い道、洞窟とか?」
「いや、それだと魔法に埋め尽くされて死ぬだけだ」
「なら、どんな場所に?」
魔法を防げて、数の利をなくせる場所。ケイルはその場所が近くにあるのを知っている。軍にいた頃にここら辺を歩き回ったことがあるからだ。そして、ケイルが選んだ場所は…………
「岩場に、両面は壁がある……」
「そうだ。ここなら障害物になる岩が魔法を防ぎ、人の進む道を狭くしてくれる」
「成る程ね」
ここで迎え撃つことに決め、イクスとエリザは後方に下がってケイルとウェダとリエルが前に出る。
「イクス様は私が守るから!」
「俺も通さねぇぞ」
「ここなら重い鎧に槍だと動きにくいはずだ。身軽の敵が現れたら気をつけろ」
重装兵が30人、軽装兵は40人もいる。こっちはケイルがいるといえ、油断はできない。
「見つけたぞ!!」「殺せ!」「ケイルとイクス王子を殺したら賞金が出るぞ!!」「死ねぇぇぇぇぇ!!」
帝国の兵からそんな声が聞こえ、ウェダとリエルは顔を歪める。今までそんな帝国にいたことに反吐を吐きそうな気分だった。やはり、イクスを助けたのは間違いではなかったと武器に力を入れて構える。
「クズは死ね」
ケイルは向かってくる重装兵を斬り倒す。僅かに生身が空いている首の辺りを狙って一人一人と殺して行く。
「はぁっ!!」
「えいっ!」
ウェダは炎を剣に宿らせ、リエルは雷を、槍に宿らせていた。2人が使える魔法は似たようなモノで、ウェダは『炎装魔法』、リエルは『雷装魔法』を使える。炎の剣は鎧を溶かして切り裂いて行き、雷の槍は貫通して、鎧の防御を意味なくしていた。どちらもコモンクラスだが、特性を良く知っていて、使いこなしていた。
どんどんと重装兵が倒れて行くのを見てからなのか、重装兵が下がり始め、1人の男が現れた。
「重装兵の奴らは情けないな。この俺様を前に出させるとは」
「ジョイン中将だと!?」
「そうだ。このジョイン様が、王子捜索だけのために駆り出されているんだぞ?黙って捕らわれるか、死ぬかのどちらかだろう?」
ジョイン中将は話の途中から手に雷を放出していた。
「まず、この障害物を消してやる。”迸る雷の龍”!!」
ジョイン中将の『雷遁魔法』で幾つかの雷の龍が障害物に向かって暴れ始める。
「っ、下がれ!!」
ケイルの言葉により、ウェダとリエルは後ろに下がって利用していた岩場から離れる。雷の龍は障害物のことをなんでもないように破壊して行った。
「くっ、まさかジョイン中将が出てくるとは!!」
「ジョイン中将……?」
「ああ、普段は前に出ないが、実力は大将と変わらない実力を持っている。あのクーン大将と同等かもしれない」
「そうよ、自分から動こうと思わないから中将止まりだけど、実力は間違いなく高いわ」
帝国は強いものが昇格する風流があり、ダリウス皇子やクーンなどは自分の力で大将になっているのだ。
大将クラスの実力を持っている敵がここにいるのだ。先程の雷の龍が証拠になる。
「これで障害物は消えたな。投降するなら今のうちだぞ?まぁ、連れて帰っても処刑されるだけだしな」
「元より、投降はする気はない!!」
「そうか、全員で攻めて押しつぶせ!!」
残った兵はまだ50ぐらいはいるからその数で攻めれば、ケイルでも防ぎきれないだろう。ここから退却しようとしても、開けた場所で背中を見せれば魔法の餌食になるだろう。今、魔法で攻めてこないのは、魔法が得意な魔術師が少ないか、魔法のコントロールに自信がなくて、側面の壁に当たって落石を喰らいたくはないのか、わからないが魔法を使う様子はなかった。
「死ねぇぇぇぇぇ!!」
「やられてたまるか!」
「そうよ、イクス様の元へ行かせない!!」
ケイルだけではなく、ウェダとリエルも健闘していた。だが、数が違いすぎて、3人に切り傷が増えていく。
そんな場面を見ているしか出来ないイクスは力無さに悔しい思いをしていた。
そして、3人を突破してこっちに向かってくる兵が何人かいた。このままでは、戦えないエリザとイクスは殺されてしまうだろう。
だが、イクスは帝国なんかに母上が作ってきたライゼオクス王国を渡したくはなかった。だから、まだ死ねない。
「がっ!?」
「まだ動けるのかよ!?」
イクスは手に鉄の棒を持って応戦していた。動く度に血を吐いてしまうが、倒れずに向かってくる敵を叩き殺して行く。
「はぁ、はぁはぁ、帝国に負けてたまるか……」
「ほぅ、まだ動けたとはな」
そんなイクスを見たジョイン中将は笑っていた。そして、雷を手に集めてウェダに向けて放っていた。
「ぐがあぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ウェダ!?」
混戦になっていたが、ジョイン中将はウェダだけに雷を当てていた。ウェダはまだ生きているが、周りの兵はその隙を見逃さなかった。
「させない!!」
リエルがウェダの側に行き、ウェダを殺そうとする剣や槍を防いで行く。だが、全てを防げるわけでもなく、リエルは肩を貫かれてしまった。
「ぐっ!?」
この時、均衡が崩れ始めた。ケイルはまだ健闘していたが、ウェダとリエルが戦えなくなってしまった。ケイルが2人を庇いながら戦っているが、それも時間の問題だろう。
「あ、あぁぁぁ……」
イクスは皆が死ぬ場を幻視してしまった。遠からずとも、皆は殺されてしまうだろう。
イクスは皆を殺させたくはなかった。だが、イクスには力がない。故に、願った。
力が欲しい、力が欲しい、力が欲しい、力が欲しい、力が欲しい、力が欲しい、力が欲しい、力が欲しい、力が欲しい、力が欲しい、力が欲しい、力が欲しい、力が欲しい、力が欲しい、力が欲しい、力が欲しい、力が欲しい、力が欲しい、力が欲しい、力が欲しい、力が欲しい、力が欲しい、力が欲しい、力が欲しい、力が欲しい、力が欲しい、力が欲しい、力が欲しい、力が欲しい、力が欲しい、力が欲しい、力が欲しい、力が欲しい、力が欲しい、力が欲しい、力が欲しい、力が欲しい、力が欲しい、力が欲しい、力が欲しい、力が欲しい、力が欲しい、力が欲しい、力が欲しい、力が欲しい、力が欲しい、力が欲しい、力が欲しい、力が欲しいーーーーーーーーーーーーーーーー
帝国の奴らを殺す力が欲しい!!
と願っていたら、その強い思いが奇跡が起き、左手に痛みが走ったのを感じられた。
そして、頭の中にある言葉が聞こえた。
『殺せ』と。
イクスは左手に棒を持ち、掲げていた。左手には黒い刺青のようなモノがあった。イクスはその刺青に力を感じられた。
そして、イクスは手に入れた力のことを理解して、発動した。
「現れたまえ、俺の力『魂魄魔法』、”死神の黒鎌”!!」
棒から黒い刃が現れた。皆は戦いの途中なのに、その鎌のようなモノに注目してしまう。何せ、まだ14歳であるイクスが魔法を使ったのだから…………
ついに、主人公が魔法を手に入れました!!




