8.牢屋
次は牢屋での話になります!
捕まったイクスはどうなったのか?
「うっ……、いっ、ここは……?」
イクスは意識を取り戻したが、今どこにいるのかはすぐに理解することが出来なかった。ボヤけた視界がハッキリしてきて、周りを見ると鉄の棒が並んでいるのが見え、ようやくここが牢屋であることに気付いた。
「何故、ここに…………あ!ジルは!?」
鳩尾から痛みを感じたことで、ジルに殴られたのを思い出し、周りを見るが、ジルの姿は見えない。
「一体、何が起こっているんだ……?」
「ようやく起きたか?」
「っ!?お前は……、帝国の兵士!?な、何故、ここにいるんだ!?」
牢屋の反対側から声を掛けられて、いつも腰に下げている武器を取り出そうとしたが、腰に武器が刺さっていなかった。さらに、鎧を見ると帝国の兵士だとわかる紋章があったので、帝国の兵士だと判断したのだ。
だが、何故ここに帝国の兵士がいて、ジルは自分を殴って気絶させて牢屋に入れたのか理解出来なかった。
「お前はまる一日も気絶していたんだぞ?よほど、疲れていたみてぇだな」
牢屋の番をしていた帝国の兵士は呆れた顔をしながら話していた。
「一日も……?……まさか、あの敵襲は……」
「そうだ。俺達、帝国の敵襲だったわけだ」
「何故だっ!?」
ついさっきまで、同盟国として帝国との祭りを手伝い、仲は悪くはなかったはずなのだ。だが、実際に帝国は攻めてきた。疑問がいくつも浮かび上がる中、イクスはまさかと思いながらも口を開く。
「もしかして、ジルは……」
「ククッ、さっき伝令を出したからすぐに全てを話してくれる方が来るさ」
どうやら、牢屋の番はイクスの目が覚めるまで待っていたようだ。そして、その全てを話してくれる方という人が来た。その者とはーーーー
「ーーーーな、なんでだよ…………、ミジェル!?」
現れたのはイクスの護衛をしていたミジェルだった。もし、ミジェルが味方なら牢屋の番を倒して開けているはずだ。だが、牢屋の番は敬うように下がっていることから、ミジェルは帝国側だと物語っているということだ。イクスはまだ信じられない程に衝撃なことだったが、ミジェルの言葉でさらにイクスを追い詰める。
「おはようございます。ちなみに、帝国側にいるのは私やジルだけではなく、ケイル以外の守護七騎王全員が帝国側です」
ライゼオクス王国の最高戦力がケイル以外は帝国側だという情報には唖然とするイクス。
「ケイル以外が…………っ!母上達は!?」
家族であるフェアルーク、シュヒット、レクア、レミアードのことが心配だった。まさか、自分のように捕まっているのでは?と考えていたが、それも裏切られる。
「レミアード以外は死に……いえ、私達が殺しました」
「な…………」
声が出ない。ミジェルが言った私達のことは、守護七騎王のことを指しているのだ。ワザとイクスにわかるように教えてあげたのだ。
「う……、嘘だ!!母上が……お前達には……っ」
「これが証拠です」
後ろから現れた黒い装飾を着た男が板に何かを乗せて持ってきた。その何かとはーーーー
首だった。
フェアルーク、シュヒット、レクアの首だ。フェアルークはサリナが斬り落とし、シュヒットはミジェル、レクアはお留守番をしていた爽やかな青年のジラドがやった。
その首を見て、イクスは絶望した。まさか、最強だと信じていた母上が首を斬り落とされるとは思わなかったのだ。
「貴方には二つの道があります。一つ目は、私達の元へ来ること。つまり、帝国に降ることです」
「…………」
「二つ目は、三日後に民衆の前で処刑です。貴方に全ての罪を被せるシナリオも考えているようです。一つ目のを選ぶなら、この私がイクスの無事を保証してあげますので、そちらをオススメします。では、どちらを選びますか?」
どちらを選んでもイクスにとっては地獄だと予測出来る。もし、一つ目を選び、無事を保証されたとしても帝国がイクスをどう利用するかわからない。だが、ロクでもないことだけは予測出来る。二つ目は言わずもわかるだろう。
罪を被せるということは、フェアルーク、シュヒット、レクアを殺したことだろう。帝国は祭り中でイクスのそんな考えをしていたことを見抜き、助けに来ようと参ったヒーローとして行動したと民衆に説明するだろう。そのことを最高戦力である守護七騎王が保証すれば、民衆は信じる可能性が高い。
例えば、ケイルもイクスの仲間で三人をケイルが闇討ちし、レミアードも殺そうとしたが、帝国と守護七騎王が捕まえたというシナリオも出来るだろう。
イクスはどう考えても一つ目の道しかない。二つ目は罪を被せられて、歴史に殺戮の王子だと伝えられてしまうだろう。損得で考えれば、利用されようが、無事を保証されている一つ目がイクスにとってはメリットが高い。
イクスは生きたい故に、一つ目を選ぼうと口を開き掛けたがーーーー
三人の首が視界に入ると、イクスは口を閉じた。
「…………イクス?」
「…………帝国に降ら………………ないっ!!」
イクスは強い意思を持って、一つ目の道を拒絶した。家族である三人をそんな姿にした帝国と守護七騎王を許せそうはなかったのだ。力強い目でミジェルを睨む。
「…………そうですか」
ミジェルは眉をピクッと表情を動かしたが、短い言葉を残して牢屋前から消えたのだった。残ったのは、牢屋の番と伝令に向かっていた者にイクスの3人。
「ク、ククク、クハハハッ!!まさか、帝国に降るのを断るとはなっ!?」
牢屋の番をやっていた大笑いをしてくる。生きる道を自分から拒絶をしていたのだから。
「ククッ、このままならお前は三日後に処刑だな」
「その前に、ここから抜け出して仇を取る、絶対にだ……」
「おおっ、怖えなー」
牢屋の番は怖がったふりをして笑っていた。
「だが、それをやるための力はねぇだろ?」
「まだ14歳だから、魔法も使えないただのガキでもあるな」
「む、魔導の手錠を使わないのかと思ったら、まだ14歳だったのか?」
伝令の男も話に加わって、牢屋の番はイクスがまだ14歳であることを知った。
「いつになったら15歳になるか知っているか?」
「確か、まだ半年ぐらいは先だったはず」
そう、イクスの誕生日はまだ半年後である。それを聞いて、牢屋の番は面白そうなことを思いついたような顔をしていた。
「ククッ、おい、お前」
「……なんだよ」
「お前は力が欲しくないか?」
「お前!何を言っているんだ!?」
牢屋の番が変なことを言い出して、伝令の男は何をしようというのか、問いただしていた。
「まぁ、落ち着けよ。どうせ失敗することだ」
「どういうことだ?」
牢屋の番がポケットから何かを取り出して、伝令の男に見せている。それだけで、伝令の男は成る程と納得した。失敗するのは本当のことだと知っているからだ。
牢屋の番がポケットから取り出した物は『神の盃』で、魔法を使えるようになる紅い水なのだ。だが、15歳になってから飲まないと駄目な代物である。今のイクスはまだ14歳で、摂取すると血を吐いて苦しんで、三日後に死ぬことになる。
「さぁ、また二択だ。力が欲しいなら飲めばいいさ。飲まなくても、どっちでもいいがな」
「…………」
『神の盃』を放り寄越されたイクスは手の上に『神の盃』を呆然と見ていた。
「……どういうつもりだ?」
「あん?タダの暇つぶしだ。飲んで力を得るか賭けでもしようと思ってな。だが、100%不可能だと知っているがなっ!ハハハッ!!」
「それでは、賭けにもならないだろう?もしかして、お前が手に入れる方に賭けるなら、俺も賭けに加わってもいいぞ?」
「はっ!俺は不可能の一択だけだ」
「なら、賭けにならねぇな」
牢屋の番と伝令の男も2人は笑っていた。そんな2人を余所に、イクスは手にある『神の盃』を見ていた。
(魔法を手に入れたら牢屋程度なら簡単に出られるだろう。だが、俺はまだ14歳…………)
イクスは今、飲んだら確実に死ぬのを知っている。だが、先程の3人の首を思い出すと、黒い感情が湧き上がり、手に力が入る。
ーーーーどうせ、飲まなくても三日後に処刑されるんだ。
ーーーー奇跡を信じて、飲むしかない……
「ぐ、ぐがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーー!!」
「なっ、マジで飲みやがったぞ!?」
「だが、血を吐いて苦しんでいるなら、失敗したということだ。アハハハッ!!」
伝令の男は驚き、牢屋の番は笑っていた。2人の言う通りに、『神の盃』が入っていた瓶の中は空っぽで、飲んだイクスは血を吐いて苦しんでいた。体内が熱くなり、痛みが身体がを巡っていく。血が喉を逆流しており、床を血で染めていた。
失敗したのはイクスでもわかっているが、まだ意識を失うこともなく、耐えていた。黒い感情がイクスの意識を繋ぎとめて、力が欲しいと願い続けていたーーーー