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「誠一郎さん、何処かに行っちゃったよ」
「え?」
響香の言葉に席を外していたサーヤが店を覗くとそこには女性とその側に佇むユーナが居た。
耳をすますと小さく嗚咽が聞こえてくる。
「響香、アナタ見てたでしょ。何があったか分かる?」
「ううん。途中から何を言ってるのか聞こえなくなって……」
響香は首を振ってそう答えた。
「こんなこと、今まで記憶に無いわ」
サーヤの表情が曇る。
清水響香に抽出中止。
「偶然は重ならないもの……!」
サーヤは自分の呟きの終わりに朧げな何かを見た気がした。
「どうしたの、サーヤ」
突然押し黙ったサーヤを心配した響香がその顔を覗き込んだ。
「今ね、何かが見えかけたのよ」
「それってサーヤの特殊能力?」
「違う違う。考えがまとまりかけた感じ」
「あぁ、そっち」
なあんだといった様子で響香は再び店内の様子を窺い始めた。
動きは無かった。
女性は俯いたまま肩を震わせ、見守るようにユーナが傍に居る。
それにしても同じ顔。
そして綺麗よねぇ。
サーヤとユーナは可愛らしいという表現が相応しくない
純粋に美しい。
ラファエロの描く天使ではなくミケランジェロの彫刻のような造作の美を突き詰めた形。
先ほどのサーヤの思考を展開する険しい表情は背筋が寒くなるほどに美しく、今視線の先のユーナの表情は温もりを持った美を感じる。
月と太陽ね。
太陽がユーナさんで…
ふとそう思った。
刹那、背中を押された。
「月ぃぃぃ!」
叫んだつもりが声にはなからなかった。
四つん這いで店の床に倒れこんだ。
「あ……」
顔を上げた先には驚いた顔の女性とユーナが居た。
戻ろうと部屋を振り向くとサーヤが勢い良く戸を閉める瞬間が見えた。
アナタ何するんですか!?
心の中で絶叫する響香の背中に声が掛けられた。
「アナタ何してるんですか?」
「……はい」
絶対に怒られる。
サーヤと違って落ち着いた声だ。
それだけに怖い。
響香が精一杯困った顔で振り向こうとしたと同時にまた声をかけられた。
「大丈夫?怪我はしてない?」
柔らかくて優しい声だった。
きっとあの女性だ。
「ごめんなさい、大丈夫です」
振り向いた響香は目を疑った。
それは女性も同じだった。