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「ところでお客様……この後どちらで命を絶つおつもりですか?」
帰りに何処の店で買い物をするのかと尋ねるような口調で誠一郎が言う。
驚いた女性が目を開くと誠一郎の整った顔が目の前にあった。
とても冷たい表情だったが美しかった。
心を見透かされた事に驚いたのか、その冷徹な瞳に囚われたのか、女性は何も話せず何も動けなかった。
数秒の沈黙の後、誠一郎は嘲笑のように鼻で笑うと優しい口調に侮蔑を込めて言った。
「死ぬ間際までお金が欲しいのですね」
女性の顔が紅潮する。
口惜しさに唇を噛み締めていた。
揺さぶられる感情に肩が小刻みに揺れた。
無意識に両手は固く握られて爪が掌に食い込んでいた。
痛みは感じなかった。
「そんなこと、貴方に関係無い」
ようやく声を絞り出した。
喉が渇いてひりついていた。
怒りも込み上げて来たが、その瞳を誠一郎に向ける事は出来なかった。
「命を捨てても恨まれようとも護りたい」
誠一郎は言った。
女性は驚いた顔で再び誠一郎を見た。
自分を真っ直ぐ見詰める誠一郎がそこに居た。
……この人は全てを分かっている。
そう思った刹那、誠一郎の姿が滲むように歪んだ。
何が起きたのか分からなかったのはほんの一瞬。
頬を伝う雫に自分が泣いていることを理解した。
「命を捨てて護られるのは自尊心だけ。愛しい者を護りたいのなら捨てるべきは自尊心でしょうね」
誠一郎は諭すようにも独り言にも聞こえるような呟きを残すと女性に背を向けて場を外した。
誠一郎の目配せを受けたユーナが入れ替わりに女性の傍らに立った。
彼女の嗚咽が止むまで無言で立っていた。
僅かに体温が伝わる距離でユーナはそこに居た。
それにしても酷い。
ユーナはそう思った。
人の体温は、その熱が自分より低くても直接触れない限りは暖かく感じるものだ。
この距離でユーナは女性の温もりを感じられずにいた。
もう心の芯まで冷え切っているのだろう。
ユーナは待った。
彼女自身が流す涙がその心を僅かでも暖めるのを。
今のままではどんな言葉も胸に届かない。
ユーナは嗚咽を沈黙で受け止め続けた。