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深く下げた頭を上げると若い男性が立っていた。
細身で長身。
長い髪を後ろで束ねた姿は、街で見かけるロングヘアーの男性とは少し違う雰囲気だった。
個性的な丸い眼鏡は顔立ちに良く似合っていたが印象は冷たい。
何よりこの男性の特徴は、そんな眼鏡や身体的なものではなく服装にあった。
白い丸襟のシャツの上にかすりの羽織。
下は袴に雪駄。
(コスプレ店員?)
疑問が声になる前にコスプレ店員は想定外の言葉を響香に掛けた。
「何しに来ました?」
「へ?」
目が点。
きっと今の自分を見たならそうなっているに違いないと思った。
「質問に質問を、しかも1文字で返さないで頂きたいですね」
半ば呆れ口調で話すこのコスプレ店員はきっと性格が悪いに違いない。
「か、買い物に決まってるじゃない」
冷やかしで覗いただけとは絶対に言えない。
「買い物ですか……貴女がねえ」
頭のてっぺんからつま先まで視線を動かす。
「ちょっと失礼じゃない、そんなジロジロと!」
先に頭のてっぺんから散々見た上にコスプレ店員という称号まで勝手に与えた失礼は棚の最上段に上げた。
「ありますかねぇ。貴女に買える物、今この店にありましたかねえ」
コスプレ店員はそう言って陳列棚のキャラメルの箱を手にした。
「それ、どういう意味?私にはキャラメルも買えないって言うの?それは100万円でもするの?」
売られたケンカを買うわけではないけれどさすがに腹が立つ。
「そうですねえ。このキャラメルの対価は……命でしょうか」
コスプレ店員の物騒な発言に響香は引きそうになった。
「意味わかんない。大体この店は何の店なのよ。『堂古懐』って名前もヘンだし!」
引きそうになったが悔しいので精一杯言い返した。
(後はこのま店を出て言い逃げをしよう)
そう思った。