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いつもの通り、いつもの街並み、 何年も見ていた景色。
ある日突然解体された更地を見て、昨日までそこに何が建っていたかなんて、貴方は思い出せるだろうか?
これからお話しするのは そんな通りすがりの店。
いつからあったのか、そんな店があったのか、誰も知らない古い店。
その日、清水響香は初めて学校をサボってみた。正確には早退だが、3時限目の解剖実験が嫌での仮病だからやっぱりサボりであるのは間違いない。
いつもと違う時間の通学路はなんとなく違って見えた。
登校中は急いでいるし、下校時も部活を終えると真っ暗だからとても新鮮な景色であった。
そんな中、一軒の建物が目に留まった。
両側を5階建てと6階建ての雑居ビルに挟まれて、その木造のあばら屋はあった。
あばら屋という表現が失礼であれば、バラックとでも言い替えようか?
まぁ、とにかくその廃屋はそこにあった。
全体的に傾いた、斜塔的感覚の歪んだたたずまい。
見るからに建て付けの悪そうな格子の引き戸。
大正時代のモノクロームの写真にあるような…
手入れが残念でなければお洒落だったかもしれない。
数枚失くなっている屋根瓦。
その日差し部分の上には【堂古懐】と看板が掲げられていた。
(こんなお店、あったかしら?)
入口で首を傾げていた響香だったが、今日はサボった勢いを借りて冷やしを決めた。
建て付けの悪そうな戸を力いっぱい引くと思いのほか軽くて大きな音が薄暗い店内に響き渡った。
「随分と騒がしいお客様ですね」
奥の方から物静かな、それでいてよく通る声が聞こえた。
そして少し引きずるような足音が近づく。
「ごっ、ごめんなさい」
響香は声の方へ向くと慌てて頭を下げた。