1.開いた穴
初めてその人を見たとき、私は天使だと思った。
その数秒あと、彼から悪魔の尻尾が見えるまでは。
「はじめまして。テンドウリサさん?」
にっこり微笑んだ、彼はまさに絵本の中の天使だった。
眩しいぐらいのブロンドの髪に、海よりも深い綺麗なブルーの瞳。
透き通るような白い肌と、これ以上整い様のない顔。
私は思わず見惚れて数秒固まってしまった。
「……」
「……」
「……」
「……って、おいっ‼」
私が何も言わないでいると、彼はたえきれないように大声をあげた。
「人が折角優しく最上級の微笑みで話しかけてやってんだから返事くらいしろよっ!」
「え、あ、どどうもすみません」
わけがわからないまま反射的に謝った私に、彼はまだ少し不機嫌そうに鼻をならした。
「たくっ。何でこんなのろまなやつに…」
「あの…?」
私がビクビクしていると、彼はそれに苛立ったのかギロリと睨んで来た。
この人……怖い!
「おいおい、エド! 彼女は大切なお客人なんだから、紳士に接するように言っただろう。すみませんリサ様」
「特別に紳士に接したろうが! 俺が優しくてやってんのに無視するこいつに問題がある。」
「もうお前は静かにしていろ」
今度は青い髪の(青って…!染めてるのかな?)綺麗というよりかっこいいと言う言葉が当てはまる男の人が現れる。
どちらも、外人にしか見えないけど、日本語をペラペラと喋ってる。
「あの…? どなたでしょう? 私に、何か…?」
ここは路地裏。
兄の経営してる喫茶店の手伝いでしてるバイトのゴミ捨てで、裏口からでたところを、金髪の人に話しかけられた。
勿論だけど、知らない人だ。
「申し遅れました、私はセイ・アーデングリフです。突然ですが、貴女を、我が国へご招待いたします。」
「我が国? ご招待…?」
え、何この人たち?
と私が若干引き気味でいると、そんなこと気にしたふうも無い青い髪の彼、確かセイと言った、と何故か不機嫌そうな金髪の彼が急に地面に手をついた。
そして、「アーク・セルド」と同時に呟く。
え、何? もしかしてヤバイ人達?
何ていう私の失礼な考えを物ともせず、それは現れた。
そう言えば、お兄ちゃんが前に言ってたっけ。
世の中の人は二つに分けられる。
不思議な体験をする人と、しない人。
まぁ、しない人が殆どだがな、と笑っていたお兄ちゃん。
どうやら私は、する人、だったようです。
何てしょうもないことを考えている間に、コンクリートの地面に突如空いた真っ黒な穴の中に引きずり混まれた。
あ、沸かしたお湯、火止めとけばよかった。