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プロローグ

「誰か!」

「助け――!」

「嫌だあああ!!」


幾重にも重なる悲鳴は轟音と巨大な火柱によってかき消された。

爆炎が辺りを焦土に変える。

辺り一帯に連なるのは消し炭となった人間。

体の半分が消し飛び苦しみもがく者達。

衣服に燃え移った火を消そうと必死に手足をばたつかせ、転がり続ける者。

意志を持っているかのように自分たちに向かって迫り来る炎を前に絶叫する者。

恐怖のあまり気が狂い笑い続ける者。

目前に迫る死に誰も彼も怯えていた。


そして、再び爆炎が彼らを包み込む。

断末魔の声は轟音に飲み込まれ消えていった。


「クク、ククク……」


そんな地獄絵図の中心で黒髪な少年が炎の中に佇んでいた。


「ハハ、アハハハハハハ!」


持っていた巨大な刀を地面に突き刺し、掌で顔を覆いながら暗い愉悦を隠さずに狂った様に高笑いする。


「帝国の……ホムン、クルス……」

「なんだァ? まだ生き残りがいやがったのかァ?」


聖地を蹂躙され、大切なものを一瞬にして灰にされ、自身も爆発で大火傷を負った男は息を絶え絶えになりながらもその顔は憤怒と憎悪で朱に染まっていた。


「貴様等……、よくも……、私達の祖先が生み出した……偉大なる力で……魔導の聖地を……!」


「『偉大なる力』に『聖地』だァ!? ククッ、ハハハハハハ! こいつは傑作だッ!」


既に半死半生の男を嘲りながら笑う。


「コイツが、そんな大層なものかよ? 『源流魔導』ってのは戦争の為の道具。壊すための力。殺す為の手段。神聖化して気取ってんじゃねぇよクソムシが」

「キッサマァあああああああああああああ!!」


男は怒りのままに斬りかかる。黒髪の少年が地を踏みつけると同時に発生した爆炎が男を襲った。

吹き飛ばされる男に大太刀を投げつける。大太刀は腹を貫き身動きがとれない。狂気に満ちた表情で男の顔を覗き込んだ。


「さてェ、死に方くらいは選ばしてやるぜ? 焼死か刺殺か、どっちか選べよ」


黒髪の少年は尚も笑い続ける。

男は彼の見せた隙を見逃さなかった。

最早、魔導を行使する力も残っていない。

自分はもうすぐ死ぬ。それはわかっている。

たが、目の前のホムンクルスに一矢報いてやらねば怒りが収まらない。

最期の力を振り絞り、黒髪の少年の首筋をナイフで切り裂いた。


「……………………え?」


一拍置いて少年は信じられないものを見るように呆然としながら首筋を押さえた。


「うあ、ああああっ!! あああああっ!! よくも! よくもォッ!!!」


少年は恐怖と痛み、そして迫る恐怖のあまり崩れ落ち、のたうち回る。

自分たちの国を地獄絵図に変え、多くの同朋達を殺した悪鬼共に一矢報いる事が出来た。

それを見て男は「ざまぁみやがれ」と呟き、満足気な笑みを浮かべる。

やれる事はやった。安らかな顔で迫る死を享受しようとした。

だが、


「……なんてなァ」


少年は嘲笑を浮かべて再び男の顔を覗き込んだ。

男は驚愕のあまり目を見開いた。首の傷には光の粒子が纏わり付き、集束して元通りに戻っていく。


「知ってたか? オレ達ホムンクルスは体の半分を消し飛ばすくらいしねぇと殺せねぇんだぜ?」

「この……バケ、モノが……!」


黒髪の少年の表情に変化はない。

変わらず嘲笑が張り付いている。

罵倒や怨嗟の声やなどホムンクルスとなった時から――否。それ以前から有り触れたものでしかない。

今更そんなもので歪みきった心は動かない。だが、


「地獄に堕ちろバケモノ共が!! いずれ貴様等にもかつて我々が神の名の下に粛正した蛮族のように――!!」


黒髪の少年の眼つきが恐ろしく残忍なものに変わる。


「それが遺言でいいよなァ、エルニド人? ならよォ――」


体内に埋め込んである聖霊石に魔力を注ぎ込んでいく。


「消えちまえよッ!!」


巨大な火の玉が男の体に落ち、紅蓮の爆発が巻き起こる。

生きながら全身を焼かれた男はまともな者なら聞いただけで気が狂ってしまいそうな筆舌に尽くしがたい悲鳴を上げて絶命した。

炭屑になった人間だったモノを踏み潰し、黒髪の少年は口の端を吊り上げる。


「あは、ははは……。あははははははははははははははははははははははははははははははッ!」


《コルト、聞こえる?》

「レミンか。何の用だ?」

《たった今、本部から通信が入った。さっき最期のホルナ地区を制圧。エルニドは帝国軍の管理下に入った。この殲滅戦は終わりだよ》


コルトは忌々しそうに舌打ちした。


「暴れ足りねえな」

《コルト……、泣いてるの?》

「泣く? オレが? ンな訳ねぇだろうがよォ。むしろ今までで一番気分いいぜ」

《コルト……》

「ふ。ふふふ、ははははははははは……」


炎によって焦がされた慟哭の空から雨粒が落ちた。

彼の狂気に呼応するかのように雷鳴が響き渡る。

激しい雷雨の中でもコルトと呼ばれた黒髪の少年の掠れた笑い声は止む事は無かった。




ND.1059。

トラヴァス大陸の国家群の一つである帝国と魔導の都として栄華を極めた辺境国エルニドとの戦争が勃発。

圧倒的軍事力を有する帝国と人智を越えた異能の技術・魔導技術が栄え小国ながら高い国力を持つエルニド。

両国の戦力は拮抗していると思われた。

だが、帝国は新型戦術魔導兵器『人造人間ホムンクルス』の投入を機に戦況は一気に動いた。

エルニドが失伝した圧倒的魔導の力『源流魔導』を行使するホムンクルスの制圧力を前にエルニドは次第に劣勢をしいられていき、やがて滅ぼされた。


これが歴史上で『エルニド戦役』と呼ばれる事件である。




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