第九話:倉山千穂の旗立て
第九話
昼休みは飯食って昼寝したら無くなってしまう。今日も弁当食って寝ようとしたら中州が話しかけてきた。ああ、そういえば今日はジュディーがいないからか。いつもはいちゃいちゃしながら屋上へと行くんだけどな。
「新戸君」
「何だよ?今日はジュディーがいないから屋上でいちゃつけないから俺といちゃつこうってか?」
周りの空気がかなり白ける。一部女子が『やっぱり』とか何とか言っていた為に俺はため息をついた。
「で、用件は何だよ」
「倉山の事です」
「千穂の事でどうかしたのかよ。まさか…ジュディーから乗り換えようって言うのか?」
「いえ、そんな事はしませんよ。ジュディーがいいです」
「千穂が聞いたら怒るだろうな」
「僕はそう思いませんけど。話が進まないので大人しく聞いていてください」
「はいよ」
中州は眼鏡を上げて人差し指を立てた。
「実は倉山がクラスで孤立しているそうです」
「そうか、だから何だよ。たとえ知り合いと言えど友達が出来る出来ないとか関係ないだろ」
「新戸君は生徒会長ですから孤立している倉山をどうにかしてあげるのが筋と思います」
「はぁ?なんだそりゃ?生徒会長って言うのは何でも屋さんじゃないぞ」
「でも公言していたではないですか。『友達が出来やすいような学校を目指します』と」
「どうだったかなぁ」
「参考映像です」
携帯電話の画面を押しつけられる。確かにそこには俺が中州の言葉通り発言しているところだった。
「わかったよ」
「ではこれからどういった感じで孤立しているのか見に行きましょう」
やれやれ、お節介め。
一年達のクラスに上級生が行くのもちょっと変だろう。だけどまぁ、なじむって言うのかあまり関心を向けたりはしないもんだ。
ちょうど千穂のクラスから出てきた女子生徒を捕まえることにした。
「あの、ちょっといいかな?」
「はい?」
「生徒会の活動の一環として聞きたい事があるんだ。このクラスに転校してきた生徒がいるよね?」
まっさらな手帳をめくりながら中州が援護してくれる。
「名前は倉山千穂さんです」
「ああ、倉山さんですか」
「うん、そう、その倉山さんってクラスになじんでいるかな?」
「あまり馴染んでいない感じがします」
彼女のいい方からして『あまり』という言葉は正確じゃないだろうな。全然馴染んでいないに違いない。まぁ、勝手に判断するのはまずいから慎重に調査しないとな。
「そうか、調査に協力してくれてありがとう」
「どういたしまして」
女子生徒がいなくなったところで俺はため息をつくしかなかった。
「こりゃ本人呼んで話聞いたほうがよさそうだな」
「そうですね。これから僕が放送入れてきますので新戸君は生徒会室に行っていてください」
「あいよ」
千穂にどういった質問をすればいいのか適当に頭の中で整理してどういった反応が帰ってくるかもついでに想像しておいた。
「面倒です」
「友達なんて必要ないです」
「勉強に関しては先生に聞けば充分です」
もしもこんな回答だったなら冷めた高校生活を送っているんだろうな。
中州が放送を入れて一分もたたないうちに千穂が入ってきた。
「失礼します」
「早かったな」
「呼び出されましたから」
「そっか、じゃあ座ってくれ。用件を言うから」
中学の頃は体育会系の女子に引っ張られまくっていたからよかったんだけどきっとこの高校じゃあまり知り合いはいないのだろう。
「転校してきて学校に慣れたか?」
「多少は慣れました」
「クラスには?」
「……いまいち慣れていないと思います」
「友達は出来たか?」
「愛夏さんがいます」
「愛夏以外で」
「中州先輩やジュディー先輩がいます」
「そいつらも除外だ」
「生徒会の方とは友達になりました」
「同じクラスで頼むぜ」
俺の名前が出てこなかったのが地味に悲しい。
千穂はしばらくの間考えていたようだったが首を横に振った。
「いません」
「そうか」
「いまいち友達を作るのは苦手です」
「いたほうがいいよな?」
「それは当然です」
「そっか」
青春だねぇ。転校してきて友達も出来づらいと言うのなら何とかしてあげたいもんだ。
「とりあえずもし話しかけられたらいつもより少しだけでいいから話してみろ。自己紹介とかもしただろうし前の場所での生活を話したっていい」
「わかりました」
一生懸命メモしているところなんて可愛い後輩の姿じゃあないか。ま、俺の場合は頭の中のメモ帳にしっかりと書きこむからメモ帳なんて不要だけどな。たまに誰かが消していってしまうのが問題点だけど。
「じゃあこれから実践してくるといい。まだ昼休みはあるからな」
「頑張ります」
「いや、そんなに気張る必要もないけどな…」
両手を握りしめている千穂を見ると苦笑いしかできない。
「失礼しました」
「ああ、それなりに頑張れよ」
やれやれ、中州がこんなこと言って来なけりゃ今頃寝てたんだけどなぁ……。放課後はあっちの高校に行かなくてはいけないし寝ておきたいんだよなぁ。
「……新戸先輩」
「何か忘れ物か?」
いつの間にか出て行ったはずの千穂が戻ってきていた。
「いえ…いや、何でもありません」
そういってまた出て行ってしまった。一体何だったんだろうか。
その日の放課後、千穂は俺に『友達に誘われたので今日は参加できません』と言ってきた。友達出来るのすごく早いのね……俺なんて誘ったその日は断られたりしてたんだぜ。