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第八話:大久保生徒会長の旗立て

第八話

 大久保生徒会長がまず俺を案内してくれ場所は室内プールだった。放課後と言う事もあって水泳部と思われる生徒たちが練習に励んでいる。

「ここが我が校自慢の一つである室内プールですわ」

「ほぉ~」

 一人がちょうど飛びこんであっという間に五十を泳ぎきる。

「速いですね」

「彼女は水泳部のエースですわ」

「あっちで膝を抱いて座っている生徒さんたちは?」

「あれはかなづちの方たちですの」

「泳げないのに水泳部ってことですか」

「いいえ、違いますわ。泳げない方たちを最低限泳げるよう指導するのも水泳部の活動ですの。溺れない様にすることで水の事故で危険を減らすようとしている我が校の方針ですわ」

 それは凄いな。結構いい眺めだし此処を優先的に撮ってもらおうかな。枚数多めでお願いしておこう。

「いち、に、さん、しっ」

 おっほ~…来てよかった。

「さ、次に行きますわよ」

「わかりました」

 名残惜しかったが次に行くとのことで大久保生徒会長の後に続く。移動中は特に会話することもない為に俺は思う存分よそ見してかわいい女の子を心の中に残しておくことにした。

「我が校自慢の体育館ですわ」

 広いのは当然ながら清潔である。そして女子生徒たちの熱い声が俺の耳朶を打つ。

「バスケ部とバレー部が使用しているんですね」

「ええ、どの方も優秀ですのよ。何せ入部するにあたってテストを受ける決まりになっていますわ」

「テストですか?」

「テストに合格した場合は二軍から、出来なければ三軍から始まって一軍を目指す方式なのですの」

 とても大変な道なんだろうな。どういったテストをするのか興味はあるが、それより女の子を眺めておくことを優先しておこう。

「あの隅っこで座り込んでいる生徒さんは何ですか?」

「あの方は一軍の秘密兵器ですの。現在のメンツでも十分やっていけますので未だ活躍した試合はありませんわ」

 ベンチ要員…。

「あ、ここも写真お願いします」

「わかりましたわ」

 記念として(可愛かったので)秘密兵器の方も写真に写ってもらって次の場所へ移動となった。

「この場所が最後ですの」

「え?もう最後なんですか?」

 時間的にまだ余裕があると思う。三十分も経ってはいない。

「ええ、また明日も案内しますわ」

「そうですか。ではこの部屋は何の部活ですか?」

「生徒会室ですわ」

 指を指される先にあるのは『生徒会室』と書かれた表札だったりする。気が付かなかったぜ。

「さ、どうぞ」

「失礼します」

 案内された生徒会室は俺達の割り当てられた場所とは違って広くて清潔だった。まるで応接間のような場所とその奥には仕切りがあって机が並べられている。歴代の生徒会長の写真が飾られていたり、液晶テレビも置かれているようだ。

「今生徒会に所属している生徒は文化祭に向けての準備で席を外していますの」

「そうですか。集合写真も欲しかったですけどしょうがないですね」

 きっと美人揃いなのだろう。ちなみにこっちの生徒会はイケメンがかなり少なかったりする。

「面白い映像がありますの。見て行かれるといいですわ」

「わかりました」

 指定された席に座り、面白い映像とやらを見ることにする。一体どんな映像を流してくれるのだろう。もしかしてこの学校のプロモーションビデオ的なものだろうか。俺らの高校もそういったものが入学式のときに流されたりするもんだ。入学した時見せられて俺は寝ちまったけどな。

「始まりますわよ」

「はい」

 意識をテレビの方へと向ける。秘密と文字が出てきて一瞬だけ俺の期待を高まらせたが……意外なものが映し出された。

『ふぁあ~……終わった終わった。中州、ノート貸してくれ』

『生徒会長ですから寝るのはまずいのではないですか?』

『ほら、あれだよ。俺は多忙だから寝ちゃったりするわけさ』

 隣に座っている大久保生徒会長へと視線を向けた。

「あの、なんでこれが写っているんですか」

「提供してもらったのですわ。実に奔放な生徒会長ですのね。授業中に居眠りするなんて信じられませんわ」

「あ、あははは……」

 普段は寝ていないんですよ。偶然、たまたま、ラッキーで寝ちゃったんですと言うのはさすがに憚られた。

「わたくしの周りにはいないタイプですわ」

「すみません」

 未だテレビには俺の醜態がこれでもかと映し出されている。しかし、いつ撮られていたのだろう。

「謝る必要はありませんの。これを機に友達になっていただけると嬉しいですわ」

「ぼく……いや、俺が大久保生徒会長の友達ですか?」

 てっきり逆に『こんな生徒会長とは手を組めませんの』って言われると思ったんだけどな。

「敬語も必要ありませんわ」

「でも三年生ですよね?」

「同じ生徒会長ですの」

「はぁ、わかりました。えーと、じゃあこれから敬語なしでしゃべります」

「お願いしますわ」

「なんで俺なんかを友達に?どう考えても似合わないと思うけど」

「友達にそう言った『似合わない』とか壁は必要ないとわたくしは思いますわ」

 うわ、正論言われた。

「わかった。詳しい事は聞かないようする」

「ええ、お願いしますわ。今後わたくしはあなたの事を呼び捨てにしますの。風太郎も紗枝とお呼びになると嬉しいですわ」

 差し出された右手を後頭部掻きつつ握り返す。

「お世話になりますわ」

「はぁ、こちらこそ…」

 その後何故かツーショットを撮って(どこからか執事がやってきて撮ってくれた)カメラが返される。

「明日もお待ちしていますわ」

「あ、ああ」

 運動場に続く下駄箱でさようならと手を振られて俺も手を振る。周りの女子生徒の視線が怖くて『何、なんで紗枝お姉さまとあんなに仲良くしている愚図がいるの?』とか『満月の夜に気を付けることね』なんて聞こえた気がした。気のせいであってほしい。


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