第七話:第一歩
第七話
向こうの要求に応えるため、俺は生徒会で比較的体躯のよろしい面子をそろえた。足りない分は暇そうにしていたラグビー部員で補っている。
「まさか女子高に堂々と入れるなんて夢のようっす」
「これも生徒会長様のおかげっす」
千穂はすでに外で待っている為、俺たちもそろそろ行かなくてはいけない。だが、その前にやることがある。
「いいか、何かしら指示があったら絶対に従うように。たとえ自分の信念を曲げたとしてもだ。もし俺の言う事をちゃんと聞いたのなら俺からお前らに渡したいものがある」
「了解っす。期待しときますっす」
俺たちの心は一つにまとまった。そういうわけで出陣する事としよう。
現地解散になる為、鞄を持って二列横隊で廊下を歩く。すれ違う生徒たちからは特におかしい視線を受けることなく(ただ結構廊下を占有する為迷惑そうな顔はされた)、校舎の外に出ることができた。
「新戸先輩、そろそろ行かないと間に合いませんよ」
「わかってる。こっちもようやく準備が終わったころだ」
俺の隣に千穂がやってきたので歩を進める。当然後ろの連中も俺に続く。
町に出てからの反応は様々で、車からわき見する者、足を止める者、曲がり角で俺たちを見かけて回れ右する者といった感じだった。
十分程度で目的の場所へとたどり着く。千穂が連絡していたようで校門前には向こうの生徒会長さんが腕を組んで仁王立ちしていた。
「少し遅かったですわね」
「すみません。これからすぐに作業の方へ移りますので案内してもらえますか」
「ええ、そうですわね。湯河原っ案内しなさいっ」
「はいはい~」
ひょっこりと向こうの生徒会長の影から現れて小さな旗を持っていた。旗には『可哀想な蟻ツアー』と書かれている。
「では出発します」
「じゃあ君たちは湯河原さんの指示に従って行動してほしい。ぼくはちょっとあちらの生徒会長に提案する事があるから」
「了解っす」
「期待してるっすよ、新戸生徒会長」
「千穂はあいつらの監督をしてやってくれ」
「わかりました」
二列横隊と千穂を見送ると俺は腕組みしている生徒会長さんに笑顔で話しかける。
「大久保生徒会長」
「何ですの?」
「こっちの先生方にこの学校の事を説明したいので校内の写真撮ってもいいですか?」
デジカメを取り出して務めて真面目な生徒会長になる。
「いいですわよ」
「じゃあ行ってきます」
くくく、これから俺の『ちょっとやらしくも楽しい女の子たちの園侵入作戦』が始まるのである。まず攻めるとしたらプール(室内プールらしい)、体育館、運動場…はいいか。
父親のデジカメを撫でてそれに捉える獲物を想像する。
「さぁ、こちらですわ」
「?」
「初めて来た場所ですから案内するのは当然ですわ」
「あ、ああ…確かにそうですね」
まさかこの生徒会長が俺の事を案内してくれるなんてね。『ですわ』とか変な口調しているから常識外れの人かと思ったぜ。
大久保生徒会長の隣に肩を並べて歩くと視線を感じた。
「うわ…」
校舎の窓から沢山の女子生徒が俺に熱い視線を送ってくれていた。好きだから傷つけたい、思い切りぶん殴りたいそんな気迫がこもっているような視線だ。
あまり下手なことはしないほうがよさそうだ。
「大久保さんに校舎内の写真撮ってもらったほうがいい絵が撮れそうなのでお願いできますか?」
「…いいですわ」
デジカメを渡して運動場の隅をちらりと見やる。そこでは千穂がしっかりと男子生徒たちに命令を下しているようだ。あっちは千穂に任せておけばいいだろう。
「何をぼーっとしてますの?」
「え?いや何でもないです」
今日は大人しくしておいた方がよさそうである。いや、隙をついて何か出来るかもしれない。