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第六話:来てほしい春

第六話

「いらっしゃいませ~」

 店員がマニュアル通りの声かけをする。ファミレスに入ってきたのは二人の少女と一人の老紳士。

 一人目、黒髪縦ロールでスタイル抜群の高飛車そうな女子生徒。二人目、少しトロンとした目つきで、ちょっとぽっちゃりした感じの女の子……こっちも結構胸があって見ていて和む。三人目はオールバックの銀髪に細面の初老の男性である。

 これで掴みはばっちりとか何とか話しながらこちらの方へと歩いてきた。

「羽津高校の生徒さんですわね?」

「ええ、そうです」

 否定するわけにもいかないので素直に頷いておいた。女子生徒二人が俺たちの席の前に座り、初老の男性は別の席で待機していたりする。

「はじめまして…わたくし、第一東羽津女子学園高校の生徒会長、大久保紗枝ですわ」

「東校の書記長である湯河原美穂です」

 俺は衝撃を受けた。『ですわ』口調とかこれまで生きてきた中で聞いた事のない語尾である。『っす』とか『でやんす』は中学校の頃マジでいたからな…まぁ、女子の知り合いがあまりいなかったから『ですわ』口調は聞けなかっただけかもしれない。

 衝撃を受けている俺の代わりに千穂が自己紹介をしていた。

「羽津高校生徒会の倉山千穂です……新戸先輩、自己紹介お願いします」

「え、ああ…。羽津高校生徒会長、二年A組新戸風太郎です」

 自己紹介を終えて俺は早速本題に入ることにした。さっさと終わらせることによってもしかしたらどっちかの女の子と仲良くなるチャンスがやってくるかもしれない。声を賭ければいいって?そんな恥ずかしい事出来るなら今頃俺の彼女は二桁を超えている事だろう。

「軽く読ませてもらいましたが具体的な説明をお願いできますか」

「湯河原さん、説明お願いしますわ」

 芝居かかったような指パッチンをやる。すると隣の少女がいつの間にか準備していた書類を読み上げ始めた。

「はい~、えーっと、こっちの羽津女子学園高校……面倒なので女子高はそちらの高校と将来的に合同で文化祭を取り行いと思っているのです。ただ、今年からそういった行事をやるのも早すぎるので今回は裏方に回ると言う提案をさせていただきました」

「裏方?」

 俺の疑問に生徒会長を名乗った大久保さんが口を開く。

「ええ、わたくしたちの文化祭は約二週間後、そちらの文化祭はさらにその後ですわ」

 確かに、予定としてはまだ準備期間がある。しょぼいところはしょぼいが、やるところは模擬店まで出すと言う頑張り具合……というのも、運動会がいいか、文化祭がいいかでもめることもあり、決定権は生徒会長が握る事となる。

 まぁ、運動に向かないようなおデブさん達からのお願いによって文化祭にさせてもらった。

「はぁ、なるほど」

「ですから、明日からこちらに生徒を派遣していただきたいのですわ」

「どういったことをする予定なのですか?」

 初めて首を突っ込んだ千穂はしっかりと話をまとめてくれていたりする。偉い後輩だ。でも、ノートの端に『新戸先輩が女子生徒に目を奪われていた』とか余計なことだぞ。

「主に肉体労働ですわ」

「肉体労働?」

「はい~グラウンドに屋外ステージを作ってもらいたいのです。一週間程度でお願いします」

「……素人の私達にそういったものは出来ないと思いますが?」

「わたくしはあなたのようなオチビさんに頼んでいませんわ」

 むっとした表情で俺の方を見る千穂。俺が言ったわけじゃないだろ。

 向こうの生徒会長さんはテーブルに肘を立てて指を組み、俺をの方を見てくる。

「で、返事はどうしますの?」

「わかりました、やりましょう」

 千穂が抗議の目で俺を見てくるが…後で説明する事としよう。

「そうですか、それは嬉しいですわ。そちらが文化祭になった時はこちらからも人数の足りないような場所に人を派遣でどうでしょう?」

「わかりました」

「交渉成立ですわね。湯河原、帰りますわよ」

「はい~失礼しますね」

 二人はファミレスから帰って行く。執事さんが俺たちの飲み物代まで払ってくれたようである。

 俺たち二人もファミレスを出て車に乗り込む二人を見送ることにした。

「新戸先輩、なんで出来もしないような事を承諾したのですか?」

「なーに、こっちにも考えがあるんだよ」

「考え?」

「そうだ」

 詳しく説明しようとしたところで、湯河原と呼ばれた女子生徒が車から出てきて走ってきた。うん、いい揺れだ。

「すみませーん」

「何ですか?」

「あの、携帯の番号とアドレス交換してもらいたいんですけど」

「ええ、いいですよ」

「ありがとうございます~」

 生徒会長をしていて一番嬉しい時である。よかった、生徒会長になって。

「ではまた、明日の放課後こっちの高校で会いましょう」

「はい」

 俺は黒い車を見送りつつ、何とか頬の緩みを耐え抜いた。

「新戸先輩、明日から大変ですね」

「そうだな。とりあえず体躯のよろしい連中を何人か集めとくとしよう……千穂はどうする?」

「もちろん一緒に行きます。新戸先輩のお目付け役として」

「……あいよ」

 そういえば朝、黒髪縦ロールのお嬢様を見かけた気がするな。意外と家が近いのだろうか……とりあえず、明日から忙しそうである。


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