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第二十話:終わり

第二十話

(『このような形で手紙を出すことを許してほしいと思います。あの時、貴女が一方的に約束を取り付けて指定した場所へ私は行きませんでした。正確にはいけませんでした。知っての通り、私はあの日階段から足を滑らせて頭を強く打ってしまいました。この手紙を書いている時点でもまだ病院のベッドの中にいる状態です。

 病院の場所は残念ながら教えられません。貴女の事でしょうから教えたらすぐに来てくれるでしょう。退院はすぐに出来ますから安心してください。本音は恥ずかしいだけ、面と向かって会うことが出来ない私を許してください。メールで送ればいい程度の内容ですが、メールだとあっという間に貴女に文が届いてしまいます。それでは何だか味気ないので手紙を送りました。退院したら私はずっとあの場所で待っています。改めて彼女になってほしいって伝えます』

「……こんなもんか」

 大事な勝負事のときにパンツをはいて行くのを忘れるような心境である。あの時、焦って階段から転げ落ちてしまうなんて俺らしくもない……。

「ジュース買ってきたよ、兄貴」

「おう、悪いな。帰るときこの手紙をポストに投函してきてくれ」

 手紙を差し出すと愛夏は妙に嬉しそうな顔をしていた。

「ちゃーんと覚えてたんだね」

「そりゃそうだろ。忘れることなんて出来ねぇよ」

「ふーん…意識戻った時は完全に記憶失ってたじゃん。おばさんとか愛夏、泣いたんだからね?」

「しょうがないだろ」

「ま、兄貴がいつのままでよかったよ。また明日退院する時に来るから」

「おう」

 愛夏もいなくなって静かになる。そろそろ面会時間も終わりを迎えるのだろう。しかし、病院とは本当に退屈なところだ。

「今寝たら夜眠れなくなるもんなぁ」

 枕に頭をのせて真っ白な天井を見上げる。外からは車の通る音が聞こえてきて、廊下の方では人の歩く音が近づいてくる。

 病室と廊下をつなげる引き戸が開けられ、そこには先ほど手紙を出した人物が立っていた。

「……え?どうして分かったんだよ……ああ、そうか、愛夏の奴か……」

 普段気を利かせない癖してこういうときだけはお節介である。来てしまったのは仕方がない。俺は手招きをして座るように促した。

「ま、見ての通り俺は元気だよ」

「……」

 相手は無言のまま手紙の中を開けて最後の一文を指差している。身体が熱くなってきてどうしようもない。心なしか相手の顔も赤かった。

「……えっとだな、俺は……その、彼氏になりたいんだ。何日、何カ月、何年かは分からない。こっぴどく振られるかもしれないけど……俺は……」

 個室だったからよかったものを…俺は病室で思い切り相手の名前を叫んで告白したのだ。一生忘れられない嫌でもあり、嬉しい思い出になる事だろう。)




「だったら……こんな感じだったら俺は大丈夫だと思うんだっ」

 俺は天高く腕を突き上げてそういった。

「保健室で騒ぐんじゃないよ、ボケ」

「…すみません」

 保健室の先生に怒られてしまった。

 そんな俺を呆れた様子でよっつの目が見ていたりする。

「それで風太郎…」

「先輩はどっちに決めたんでしょう?」

 階段から落ちたには落ちた。落ちたけどそんなに重傷じゃなかった。それでも俺の叫び声を紗枝と千穂が聞いたらしく同時にやってきた。そして保健室に連れてきてくれたのだ。

「早く答えてくださいます?」

「待たせないで下さい」

 詰め寄られては逃げることなんて男らしくないから出来ない。そもそも、足が痛いから逃げようとしても逃げられない。



私に翼があったなら、私は飛んで逃げただろう。



「あの、新戸先輩」

 いつものように落ち着き払った千穂がしっかりと目を合わせてくる。

「……大久保紗枝さんは遠いところからこうやって来てくれているんです。だから、先輩がちゃんと答えないとあっちで泣けません」

「千穂さん?それはわたくしの事を風太郎が選ばないと言う言葉に聞こえますわよ?」

「そうです」

「まぁ、あなたの言葉なんて構いませんわ。あちらで泣く必要なんてありませんの。この文化祭が終わったらわたくしはこっちの生徒ですもの」

 高笑いがよく似合うのな。それこそどうでもいいか……。

「風太郎」

「はい、なんでしょうか」

「早く千穂さんにびしっと引導を渡して差し上げて」

「先輩は優柔不断なところがありますから言えませんよ」

 全くその通りである。口をつぐんでついでに耳も閉じている状態だ。しかし、このまま無駄な時間を続けていても仕方がない。俺はこの時がやってきたかと手を叩いた。

「聞いてくれ、決断した」

「……」

「……」

 言い争っていた二人は静かになって俺の方を見た。

 しかしね、世の中には絶対に選んじゃいけない選択肢っていうものがあるようで俺は見事にそれを選んだようだった。選択肢を選んだ三十秒後、俺の両頬には天使の翼のごとき立派な手形が付けられた。

「いやー…いい音したわ。見ていたあたしもすっきりした」

「……やっぱり三人で仲良くしようはまずかったか」

 明日にでも二人に謝ろう。今度言うときはこうやって逃げない様に決めないといけない。手紙で送ったら喜んでくれるだろうか。



~終~


終わりです。ここまで読んでくれてありがとうございました。

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