第二話:マイフレンド
第二話
男の牙城、女子生徒たちからは○の穴と呼ばれている生徒会室に少し身長の低い女子生徒が立っていた。
「倉山千穂……」
ついフルネームを口にしてしまう。
「お久しぶりです」
少々、相手も緊張しているようだった。
俺が中学の生徒会長だった頃、千穂は副生徒会長だった。ちなみに中州は書記長である。
俺が黙っていると千穂は首をかしげた。
「もしかして身体の具合でも悪いのですか?」
「そんなわけないだろ。久しぶりにあったから驚いているだけだよ」
「そうですか。それなら問題ないですね。椅子があるので新戸先輩、座ってください」
此処は俺の牙城のはずである…はずなんだけどなぁ。有無言わさない口調だからしょうがない。ここで嫌だとか否定的な態度を取ると面倒な事が起こる。
千穂の対面に座り、俺はため息をついた。
「やはり、高校の生徒会長というものは中学の生徒会長よりも大変なのですね」
「え?」
「ため息が出ていたのでそう思いました」
「あ、ああ……まぁ、そんなもんだ」
まさか千穂がいたから…なんて言えないな。
「それで、お前なんでここにいるんだよ?ああ、もしかしてまだ夏休みだから会いに来てくれたのか?」
「いえ、違います」
もうさ、この時点で鈍くない俺はなんで此処にいるのか気付いていたよ。でも、認めたくないって言う気持ちの方が大きいのよ。
「あ~じゃああれだな。こっちの近くにたまたま寄っただけか?そうなんだろ?」
「いえ、こちらにまた引っ越してきたのです」
ほーらね、やっぱりだ。俺の嫌な予感って言うのは素っ裸で警察署に行ったら捕まるのと同じくらいの確率で当たる。
「あ、あ~……そうなのか」
「ええ、そうです」
「そうか…」
俺の対応に千穂は首をかしげていた。
「……私はこうしてまた新戸先輩や中州先輩に会えたりした事が嬉しいのですが新戸先輩はそうではないのですか?」
「ああいやいや、嬉しいぞ、うん、嬉しいけど気持ちの整理が出来ていないからちょっと驚きの方が大きいだけだ。ところで、家の方はまた前と同じ場所なのか?」
中学校の隣に家があった。夕飯に呼ばれる事も稀にあったが、千穂の親もちょっと相手したくない部類ではある。
「いえ、違います」
「もしかして高校の隣か?」
それならまぁ、千穂らしいと言えるんだけどな…
「いえ、新戸先輩の家の隣です」
もし、俺の家の隣なんて言われた日には…
「あれ、悪い、聞きとれなかったからもう一度教えてくれないか?」
「はい、新戸先輩の家の隣に引っ越してきました」
きっと、俺の前世は神と敵対していたのだろう。だから、神様は俺に対してこうも悪い状況をセッティングしてくるのだ。そういえば昨日の深夜に隣に車が止まったような気がしないでもなかったからなぁ。
「そ、そうか…あ、じゃあとりあえず帰るか?」
「はい」
その日の夕方、俺の家に倉山家が挨拶にやってきた。
「お隣に引っ越してきた倉山です」
「御無沙汰してます」
「こちらに帰っていらしたんですね」
両親が懐かしそうに話しこんでいる中、俺は隣で固まっている愛夏を見てそっと肩に手を置いた。ちなみに、愛夏は俺の妹ではない。親戚で、俺の妹分みたいなものだ。世界一周に両親が旅だった為、こちらに居候している。
「あ、兄貴…倉山って…」
「ああ、お前の想像している通りだ」
「よ、よかったねー、兄貴。お目付役がいなくて寂しかったんじゃないの?」
「ははぁ、俺だけじゃなくてお前のお目付け役って感じもするんだよなぁ」
「風太郎君、久しぶりだね。ちょっと話をしようじゃないか」
「あ、はい」
千穂父に呼ばれて俺は前へと移動する。愛夏はすぐに引っ込んだ。
「今度ぜひ、夕飯を一緒に食べようじゃないか」
「はい……近いうちに必ず…」
「ああ、千穂の事をよろしく頼むよ」
「え、ええそれはもちろんです」
受け答えが面倒だから呼ばれたくないんだけど、いずれまた呼ばれるんだろうな。
でもまぁ、宿命ってやつなのか俺が呼ばれたのは次の日だったりする。