第十六話:アドバイスの結果
第十六話
千穂が生徒会室に相談しにやってきて数時間後、俺はぼーっとしている事を教師に咎められて生徒会室で微妙にへこんでいた。前髪を自分でちょっと切っていたら切りすぎちゃった時ぐらいにへこんでいた。
「はぁ…」
「新戸君元気がないですねぇ。もしかして千穂さんが告白されて動揺されているんですか?」
ぐるぐる眼鏡を人差し指で軽く押し上げる中州に首をすくめる。
「いや、別にそんなわけないぞ」
「じゃあふうたろーはなんで元気ないの?」
中州の後ろからジュディーが出てくる。隠れていたつもりのようだが中州より身長が高いし、髪の毛も見え見えだ。忍者のようなコスプレをしているが、忍者はちょんまげのかつらをかぶって行動しないと思うぞ。
「千穂にアドバイスしただろ?」
「していましたね」
「あれでよかったのだろうかって思ってたんだよ」
「へぇ、告白された事のないふうたろーがねぇ」
ちらっと頭の中に黒髪のお嬢様が右から左へと移動していった。今頃何しているだろうか。
「ジュディー、言いすぎです。新戸君は大久保生徒会長に逃げられたんですから傷心中なのですよ」
「ああ、そういえばふうたろーの事を好きになった奇特な生徒会長もいたねぇ~」
言いたい事をズバッと言えるこの二人ならきっとこれから先もいいコンビのままなんだろうな。
「失礼しまーす。兄貴ー、一緒に帰ろうよー」
生徒会室に愛夏が入ってきた。
「あれ?中州先輩にジュディー先輩まで残ってるの?」
「これから世紀のふうたろー残念顔を見る事が出来るの」
目を輝かせているジュディー…友達として酷くないだろうか。いや、別に俺は残念顔なんてしないけどな。
「今日のお昼、千穂さんが告白されたことに対してどうすればいいのか新戸君に相談しに来たんですよ」
いまいち理解していないような愛夏に中州が説明している。
「ふーんなるほどぉ」
「ま、俺としてはあのアドバイスが役に立ったかどうか知りたいだけだ。そういう理由でこうやって生徒会室から校舎裏を監視している」
校舎裏には千穂が一人たたずんでいる。
「アドバイスってどういう事したの?」
「新戸君は『嫌なら断れ、嫌じゃないなら受け入れろ。はっきりしないのが一番駄目だ』って偉そうに言ってました」
「それアドバイスかなぁ」
「ふうたろーそれ違うと思うけど」
「新戸君なりのアドバイスだと思います。千穂さんはやたら納得していたようでしたから」
ここで俺の堪忍袋の緒が切れた。
「さっきからうるさいなぁ……もうとっくに帰っていい時間だろ?さっさと帰っていちゃいちゃでもしてろよ」
「えー兄貴がいないと出来ないよ」
「いやーん、秀作~助けてー」
「いつもだったら寛大な心の新戸君が怒っていますからね。きっと千穂さんが告白されたのがよほど腹に据え兼ねたのでしょう」
「よかった、すぐに運命の人に出会えて……ああはなりたくないわ」
「新戸君には悪いけど僕もです」
「秀作っ」
「ジュディーっ」
二人で抱きしめ会っている光景なんざ見たくないので校舎裏へと視線を戻す。愛夏も両手を広げて寄ってきたので威嚇しておいた。
「お」
ちょうど男子生徒が現れてスタンバイしていた千穂が相手の方へと移動し、頭を下げた。どんな表情をしているのかここからは見えないが、相手の顔を見ることはできる。
「……おや、千穂さんは頭を下げましたね」
「相手の子は四つん這いになってるよ」
「土下座までしちゃったよ……」
千穂は一礼して去って行った。相手の男子生徒はどうやら泣いているようである。
「振っちゃったようですね」
「惜しい、ここで千穂ちゃんが頷いたらふうたろーがどんな表情したのか興味あったのにっ」
「……さーて、見るもんみたし、帰るか。今日は機嫌いいから帰りにたこ焼きでもどうだ?」
「おーいいねぇ」
「愛夏も食べる―」
見ていて実に静かな戦いだった。でもなぁ、まさか見ていたなんて千穂は知らないだろうしアドバイスの結果をわざわざ聞くのも考えものである。