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第十三話:文化祭

第十三話

 紗枝の学校の文化祭当日は土曜日(俺たちの学校は何故か金曜)だったりする。以前は二日間にわたってやっていたそうだ。今では一日限りと言う事で一般のお客さん(特に男性客)も多いらしい。

 補足としてだが、数年前にナンパが原因で一年生の子と客の間で色々と問題が起きた為に声かけ等は学校側から禁止されている。そう言った行為に及んだ者は問答無用で警備員から締め出されるのである。

「会長っ、生徒に手を出す輩を閉めだしてきてやったっす」

「会長、こっちにもいましたから同じく締め出してやりましたっす」

「まさか本番当日に警備の仕事を担当させられるとは思わなかったな」

 開始二時間前に俺たちは呼び出されて警備の仕事を担当させられたのである。制服支給とか(恐ろしい事に個々に手渡された制服はピッタリのサイズだった)最初から言ってくれればよかったのに……多分、昨日言おうとしていた事は警備の事だったに違いない。

 一応警備員の人たちも別にいるにはいるが、やはり人は多いほうがいいだろう。俺の仕事は作戦本部、この学校の生徒会室にて今回の手伝いについての意見感想をまとめ上げることだったりする。千穂がいたら代わりに書いてくれたかもしれないけど生憎彼女は愛夏や友人と一緒に文化祭を楽しんでいる事だろう。

 入れ替わり立ち替わり入ってくる生徒(警備員)の報告を受けたり、紗枝を求めてやってくる女子生徒達の相手をしなくてはいけない。どうやら紗枝はこの学校のアイドルのようなものでもあるそうだ。やってきた一人の少女の話しによると一緒に思い出の写真を撮るとか何とか……俺も複数の女子生徒のカメラに収められたりする。

「だるいなー」

 時計を見ると既にお昼時。なるほど、だから校内が静かになっていたのか……みんな腹ごしらえに向かったと言う事だろう。

 この生徒会室は作戦本部と言いながら警備員の生徒たちが向かう場所は可愛い生徒たちがいる模擬店だ。誰も人がいないこの場所に来る人等稀だ。あちらの生徒会の人が来ても俺の顔を見て『失礼しましたっ』といって出て行ってしまう。

 どこで食べようかともらったパンフレットを確認していると紗枝が生徒会室に入ってきた。

「風太郎、書き終わりましたの?」

「ん~まぁ、それなりに」

「歯切れが悪いですわね」

「もうちょっとで終わる。これは間違いない」

 俺が妥協したら終着駅である。清書は家でやればいいし、とりあえず昼飯を食べることにしよう。

「紗枝はもうお昼済ませてきたのか?」

 俺の問いかけに対して答えとばかりに二つのコンビニ袋のようなものを見せてくる。いい匂いがしてくるところを見ると出来たてのようだ。

「それがお昼か?」

「ええ、風太郎と一緒に食べようと思いましたの」

「そっか、じゃあ片方もらっていいんだよな?」

「構いませんわ。さ、どうぞ」

「ありがてぇ、金は?」

「結構ですわ」

「そっか、じゃあありがたく頂戴するぜ」

 差し出されたほうの袋を覗く。たこ焼きとたい焼き、ホットドックが入っていた……たい焼きはお昼としてどうだろうか。

 とりあえず紗枝の隣に腰掛けてホットドックに食らいつく。

「久しぶりですわ」

「何が?」

「こうやって誰かと一緒にお昼を食べること……ですわ」

 紗枝の方は幕の内弁当だった。そっちの方が良かった……

「一緒にお昼食べる事って……普段一人で食べてるのかよ?」

「ええ、特別授業で少し遅れてしまいますの。教室に戻った時は皆さん既に食べ終わっていますわ……必然的にわたくしは一人、ですから生徒会室で一人で食べていますの」

「そこはやっぱり『一人で食べて大変なんだな』って言ったほうがいいのか?」

「そうですわね…いっその事風太郎がこちらに来てくれればこうやって毎日一緒に食べてくれるんでしょうけど……残念ですわ」

 冗談で言ったつもり…だよなぁ。だってこの学校女子高だし、俺が転校しなくてはいけない時あれを切断しないといけなくなるんだろ?

「しかし風太郎も残念ですわね」

「何が?」

「こうやって部屋にこもっていては文化祭を楽しめないですわ……生徒会長だった事を後悔してはいませんの?」

 そういう質問をするという事は生徒会長だと言う事が嫌なのだろうか……

「紗枝は生徒会長嫌だったのか?」

「少しだけ嫌ですわ」

「そっかそっか」

 きっと俺の顔は今頃にやけていることだろう。一つ、意地悪な質問を思いついたのだ。

「紗枝は俺と知り合いになったことも嫌だったのか」

「そうですわね」

 思いっきりパンツで……いや、パンチで殴られた気分だぜ。

「え、ま、マジで?」

「冗談ですわ」

「冗談かよ…」

「ええ、風太郎が意地悪な事しようとしたお返しですわ……お見通しですの」

「やれやれ」

 たい焼きもさっさと口にする。残りはたこ焼きだけになった。

「あんまり知り合って長いってわけじゃないけどまさかここまで話せるようになるとは思えなかったぜ」

「わたくしもですわ」

 夕飯一緒に食べたりしたのも大きいかもしれないな。結構付き合いやすい性格してるし、おかしいのは口調だけっていうのも大きい。

 しかし、持ってきてくれたたい焼きかなりおいしかったな。

「一つ、風太郎に申し上げなくてはいけない事がありますわ」

「ん?」

 たこ焼きをさっさと口に放り込む。八つ入っていて残りは五個といったところか……残り少なくなってくると慎重に食べ始めちまうからな。

「わたくし、あさってには転校しますの」

「悪い、聞いてなかった何だって?」

「……今度、転校しますの」

 持っていたたこ焼きを落としそうになった。だが安心して欲しい、寸でのところでしっかりと守って見せたから。

「じゃ、じゃあこっちの文化祭協力はないって事になるのか?」

「わたくしのポストには湯河原が付きますから安心して欲しいですわ」

 顔は伏せたまま、決して俺の事を見ようとはしていなかったりする。

「こっちの文化祭には来てくれないってことかよ……というか、いつから転校するってわかっていたんだよっ」

 肩を掴んで揺さぶった俺は紗枝の表情を見る事が出来た。

「ぷっ……あはははっ、冗談ですわ」

「はぁ?」

 何と言われたのかいまいちわからなかった。

「冗談かよ」

「どのような反応をしていただけるのか気になりましたの……嬉しいですわ、そこまで入れ込んでいただけているとは思いませんでしたわ」

 そのまま認めるのも何だか嫌なので一応言い返そうとしたが残念ながら放送が流れ始めた。

『大久保紗枝生徒会長、至急生徒会室まで来てください…繰り返します…』

「呼び出しですのでこれで失礼しますわ」

「ああ、行ってらっしゃい」

「風太郎、戻ってきたら一緒に文化祭周りますわよ」

「わかった」

 それまでには多分俺の仕事も終わっているはずだ。ま、すぐに帰ってくるかもしれないから準備だけしておくとしよう。


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