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第十一話:生徒会長、来たる

第十一話

 上っ面の友達なんて腐るほどいる。普段はあまり話もしない仲、つまりは知り合い程度の関係なのに困った時になったら『友達だろう?』といってすり寄ってくる奴だ。そんな奴とは付き合わないほうがいい。

「風太郎、遊びに来ましたわ」

 そして…その逆もいる。別にこっちはそこまで仲良くない関係だと思っていたら向こうにとっては親友と思っているようなそんな人……俺の思いすごしならいいけどな。

「あの、大久保生徒会長」

「もう…紗枝と呼んでいいと言いましたわ。お忘れになられてしまったの?」

「いやまぁ、周りの生徒の目もありますから」

 誰だ誰だとクラスメートたちが視線を向けてくるので対処に困る。こっちの醜態をさらすのは後の文化祭で十分だろう。

「ふうたろーの友達?」

「そうだ」

 ジュディーがクラスの総意みたいな事を聞いてくる。中州がトイレに行っていたおかげでよかった。あいつは余計な事を言い出すからな。

「大久保紗枝。俺がいま放課後に行っている女子高の生徒会長さんだ」

「はじめまして皆様。大久保紗枝と言いますわ」

 男子からは高嶺の花を見るような視線が、女子からは羨望と嫉妬の入り混じった視線が向けられる。

「それで今日はどうしたんですか?」

「ちょうど近くを通りかかったものでお邪魔しましたの」

「そうですか」

 何だろう…背中に眼なんてないんだけどクラスのみんなに見られている気がする。

「此処じゃ何ですから生徒会室に行きませんか?」

「ええ、いいですわよ」

 彼女がにこっと微笑むだけで卒倒する男子生徒が数人。その中に彼氏がいたようでジェラシー全開の女子生徒が二名。これが大久保紗枝がクラスにもたらした被害である。

 速やかに生徒会室まで案内してお茶を出す。

「粗茶です」

「敬語はやめてくださると助かりますわ」

 これから何を話そうかと話題のタネを頭の中で拾う事にする。まぁ、共通の話題は文化祭のことぐらいしかないかな。

「紗枝のところの文化祭はもうちょっとだな」

 これに確実に乗ってくるだろう。いや、乗って来ないはずがないと思っていたが駄目だった。

「風太郎」

 不満そうな顔をこちらに向けている。

「何?」

「今日は生徒会長としてこの学校に来たのではありませんわ。風太郎の友人としてこの学校に来たのです。話題を提供してくださるのなら風太郎関係にしてくれると嬉しいですわ」

「俺の事?」

「ええ、わたくしと風太郎は友達と言えどあまりお互いの事を知りませんもの」

 知りませんとか言いつつ盗撮していたりするからな。俺の事は全部知っていてもおかしくないはずだが向こうが望んでいるのならそうすることにしよう。

「いまいちわからないんだけど」

「では普段放課後はどのような事をしていますの?」

「放課後?生徒会の活動以外で?」

「ええ、もちろんですわ」

「そうだなぁ…」

 普段何しているだろう。

「…買い物とかかな」

「買い物?」

「夕飯は俺の担当が多いからその材料を買いに行くんだよ」

 愛夏は芸術を俺に食べさせようとするからな。あれは食べるものではなく現代アートに応募すべき作品である。

 俺の通っている高校には一人暮らしをしている生徒も多いわけでそんな連中(男女問わず)とはタイムセールで闘う事になる。中には人参の貸し借りや豚小間切れのやり取りが行われていたりするのだ。

「風太郎は料理が出来ますの?」

「少しはな。もちろん俺の母さんが作ったほうがうまいんだが…妹分が作るよりも俺のほうがうまいんだよ。紗枝の家はやっぱりあの執事さんみたいな人が作るんだろ?」

「違いますわ。カップ麺を食べていますの」

 およそ想像できない言葉が返ってきた。

「え?」

「以前は確かにお付きの者が料理を作ってくれていましたわ。でもほんの少し前にお母様たちと喧嘩をしてわたくし一人暮らしを始めましたの」

「そう…なのか」

「カップ麺もおいしい物が多いので何も困ってはいませんわ」

「ずっと食べてると身体に悪いんだぜ?」

「それはわかっていますわ。わたくしとて女ですもの。社会は『男女平等』と唱えていますけどやはり料理は人として出来ないといけません。料理のお勉強もしているのですがこれがなかなかどうしてうまくいかないんですの」

 困ったものだとため息をつく紗枝に料理を教えてやりたいもんだ。残念ながら俺はそこまで料理がうまいと言うわけではない。

「じゃあ俺の家に晩御飯食べに来るか?」

「え?」

 冗談で言ったつもりだった。

「いいんですの?」

「あ、ああ…冗談だったんだけどな。来たいんなら来ていいぜ」

「じゃあ今日から来ますわ」

「お嬢様、そろそろお時間です」

 いつの間に現れたのか知らないが生徒会室の扉のところに執事っぽい人が立っていた。

「楽しい時間はすぐに過ぎてしまうのですわ。では今晩風太郎の家に行きますわ。場所は知っていますから安心なさって」

「そうなのか」

「ええ、相手の生徒会長の情報を湯河原に調べさせましたわ。もちろんプライベートについては一切調べていませんから安心していいですの」

 住居はプライベートに当たるのか、当たらないのか考えていると紗枝が生徒会室から出て行こうとしていた。

「じゃあ気を付けてな」

「はい、ではごきげんよう」

 廊下を曲がって姿が見えなくなったようなので振っていた手を下す。紗枝の消えた曲がり角から千穂の姿が見えた。

「大久保生徒会長が来ていたようですがどうかしたのですか?」

「ああ、あんなお嬢様っぽい感じがするのに晩御飯は色々と大変らしいぜ」

「?」

 いまいち千穂はわかっていないようだ。多分、これだけでカップ麺に行きつける人はいないだろう。


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