第一話:一陣の風
第一話
俺の名前は新戸風太郎。羽津高校に通う高校二年生である。実年齢と彼女いない歴が一緒という世間一般的な男子生徒だと自分では思うわけだ。いや、もしかしたら全校生徒中の約半数が心のどこかで俺の事を好きかもしれないと言う確率は無きにしも非ず……まぁ、こんな情けない感じだが、一応生徒会長をしているのだ。
今日から高校二年生二学期が始まる。中だるみにならないようにしろとのお達しが夏休み前に先生から出ていたものだが、勉強合宿やらなんやらで俺の夏休みは一カ月もなかった。
「おっかしいなぁ」
いつもポストに入っているはずの手紙が今日は来ていなかった。他の郵便物は来ているから郵便配達のおっさんが遅れていると言うわけでもないはずである。まぁ、目的の物が入っていないのならそれはそれで構わない。文通相手への返事が面倒だからである。
ちょっと心配になりつつも、俺は学校へと行くことにした。
二学期一発目という事もあり半日で学校は終了。生徒会も明日からだし、今日は遊んで帰ろうかしらと下駄箱を乱暴に開けてみた。
「あん?」
靴の上に一通の手紙が置かれている。
『拝啓、新戸風太郎様。本日の放課後、生徒会室にて待っています。』
女の子らしい文字、俺は念のため鼻を近づける。
「くんくん……女の子の匂いだな。きっと俺の事を生まれる前から好きだったに違いない。男の匂いは一切しないしクラスの連中の仕業でもなさそうだ」
俺にもね、好きな人の一人や二人はいるものさ。でもなぁ、一人はこの高校にいるとばかり思っていたら海外に行って行方知れずだし、もう一人は転校してしまったんだよ。思いも伝えられないへたれ野郎と罵るがいいさ。
さて、それはそれ、これはこれである。女の子を待たせるのは古来より悪いものだと俺は親父に教わっている。近くの男子トイレへ入って寝癖を一生懸命押しつける。第一印象がいいように身だしなみチェックを怠ってはいけない。
「………寝癖があるのはぐっすり眠れたって事だ」
去年から使用している生徒会室へと足を向ける。『男の園』と呼ばれし俺の牙城はその名の通り全員男子生徒(イケメン、体育会系、文系、理系、なんちゃってチャラ男等)で構成されている為副生徒会長、あるいは書記長の女子と淡い恋物語を想像していた俺はショックだ。
「あ、あの、生徒会長……私、生徒会長の事が好きで生徒会に入ったんです。副生徒会長、がんばりますっ」
しつこいが、こんな甘い展開は一切ない。副生徒会長も友人の男子生徒でがっかりである。
もう少しで生徒会室と言うところで副生徒会長に出会った。
「新戸君ではないですか。遅かったですね」
眼鏡の秀才、中州秀作が俺を見上げるようにして首をかしげる。
「中州、お前まだ帰ってなかったのか?」
「ええ、ちょうど新戸君を呼びに行ってから帰るつもりでした」
「俺を呼ぶ?先生か?校長か?はたまた写真撮っていたのがばれたソフト部の部長にか?」
いい尻だった。今度はテニス部にカメラを持って行こうかなと思う。
「いえ、手紙を渡していると言っていたのですがもらっていないのですか?」
「ああ、手紙ならもらった」
俺がそう言って手紙を見せる。それに触ろうとしたものだから歯をむき出して威嚇すると意外そうな顔をして手を引っ込めた。その後、中州は一度頷いて手を振ってくる。
「それなら話は早いですね。僕はもう会ってきましたから失礼します」
「気を付けて帰れよ」
「ええ、気を付けて帰ります」
中州が廊下の角に消えてそこで首をかしげてしまった。
「ん?あってきた……ってどういうことだ?」
まさか、俺にラブレターを渡してくれた相手は中州の方にも同じようなラブレターを?いや、しかし、中州には許嫁という古臭くも一度はあこがれるような相手(母親に確認したところ、俺には許嫁はいなかった)がいるから大丈夫だろう。
いや、待てよ?そういえば今日の朝、手紙が来てなかったな。そして、放課後手紙が来た。
改めて手紙を見てみる。
「………まさか、な」
頭の中にぽっくり浮かんでいた一つの可能性を即座に打ち消し、それでも時間を確認する。
「……あたっていたとしたらそろそろ許容範囲ぎりぎりか」
時間にうるさい相手の為廊下を走り、急いで生徒会室前へ。その前で俺はもう一度身だしなみをチェックしてオーケーを出す。
軽く扉を開けると、当然ながら生徒会委員は一人もいない。
だが、一人の比較的小さな女子生徒が立って俺を迎えてくれた。
「新戸生徒会長、お久しぶりです」
きっと、今の俺の顔を見たら誰もが『まるでアヒルだった』と言ってくれるだろう。そうさ、俺はいつだって醜いアヒルの子。
チャック全開ですよ、とはまた違う話です。続編じゃないですね、はい。本来は一つの作品にまとめられるべき話だったのですが、諸事情によりあちらは生徒会長の話でまとめた(つもり)ということになっています。前作が微妙だったのでこちらはそれなりに頑張ろうと思います。