神さまのおくりもの「エリザベス」
むかしむかし、霧の谷にひっそりとたたずむ小さな町に、パン職人の老夫婦が住んでいました。ある日、川で小麦を洗っていると、銀に光る小さな棺のような箱が流れてきました。ふたを開けると、中にはひとりの赤ん坊。青い目の女の子が、静かに微笑んでいたのです。
「これはきっと、神さまのおくりものだわ」
そうして老夫婦はその子をエリザベスと名づけ、大切に育てました。
やがてエリザベスは、明るくたくましく育ちました。ある日、町に不穏な知らせが届きます。西の島に現れた黒い城から、魔物たちが村々を荒らしているというのです。
王都の兵士たちは手を出せず、町の人々は震えていました。けれど、エリザベスは静かに立ち上がりました。
「私が行くわ。理由はわからないけれど、この鍵がきっと導いてくれる」
彼女が首にかけていたのは、あの銀の箱の中にあった不思議な鍵。それが今、ほんのりと光っていたのです。
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旅の途中で出会ったのは——
1.黒猫の騎士・フィン
行き倒れていたところを助けたら、実は魔法にかけられた古の騎士だった。
2.言葉を話す風の妖精・ティラ
魔物に森を奪われ、行き場を失っていたが、エリザベスの心に希望を見た。
3.不気味な見た目の巨鳥・グライム
見た目で恐れられていたが、塔の外壁を飛び越える唯一の存在だった。
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彼らとともに、エリザベスは黒い城へと向かいます。
塔の最上階で待っていたのは、仮面をつけた魔術師。
その正体は――エリザベスと同じ箱で生まれた、もうひとりの子でした。
「選ばれなかった僕は、闇に引き取られた。それがすべてだ」
魔術師は語り、城の魔力を解き放とうとします。
けれど、エリザベスは首から銀の鍵を外すと、そっと魔術師に差し出しました。
「この鍵は、私だけのものじゃなかった。あなたと、私。どちらが欠けても開かない扉があるのよ」
その瞬間、鍵が光り、塔全体がやわらかな風に包まれました。
魔術師の仮面は静かに割れ、彼は涙を流しながら崩れ落ちました。
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塔は消え、魔物は姿を消しました。
王国には静かな朝が戻り、エリザベスは再び町のパン屋に戻りました。
あの日の鍵はもう光りません。けれど、彼女の中にはずっと残っています。
——誰かの心の扉を開く、小さな勇気の物語として。