第5話 司教の刺客
アリアとサバイバル生活を始めてからしばらく経過した。彼女を連れ出してから数日と経たずにファウストでは俺の手配書が町中に貼られたためその町で物資の調達は難しくなった。
そこで、少し距離が離れるが別の町や村を転々としながら念には念を入れて変装して必要物資を調達することが多くなった。また、衣装が汚れないといってもアリアをいつまでも雨風凌げない野晒しの場所で休ませたくなかったため住みやすそうな洞窟を見つけてそこに移り住んだ。
俺の手配書が町中に貼られていることを話すとアリアは申し訳なさそうにし、何度も戻ろうかと話してきたが、彼女が今更戻ろうが戻るまいが俺が犯罪者に仕立てられて囚われ次第ろくな目に遭わないことは容易に予想がついたため気にしないようにと彼女には言って聞かせた。代わりに、自由を手にした今何がしたいかじっくりと考えてほしいと念押しした。
彼女は俺にそう言われる度にまだここにいると言ったが、それが本心では無いことはすぐにわかった。偶像になる事を嫌がったのは事実だが、人のいる場所に赴き、命を救うために最善を尽くしたいのだろう。
しかし、彼女の口からそうしたいと言葉が出て来ない限りは俺も余計なことは言わないようにしていた。
そんなある日、俺が山の中を歩いて山菜や茸を採取していると、遠くの方から複数人分の足音が聞こえた。茂みの中に身を潜めてそのまま様子を見ていると、聖騎士と、恨み募る傭兵の混合部隊が山道を歩いてきていた。そのまま様子見をしていると、彼らは俺が元々野営をしていた場所へと辿り着き、野営場所を調べ始めた。
気配を消したまま接近してみると、彼らのぼやき声も聞こえた。
「なあ、本当に聖女誘拐犯はここにいるのか?」
「知らねえよ、司教様がしらみ潰しに探せっていうからこんなとこまで来たけどよ、こんなところ人の住む場所じゃねえだろ」
「俺が聖女様ならこんなとこさっさと逃げ出すぞ?」
「違いねえ」
そんな事を口々に言う聖騎士たちと違って傭兵部隊は考え方が違った。
「あまりあいつを舐めない方が良い、入隊してすぐにほとんどの兵士を倒しやがったんだぞ?」
「どういうことだ?」
元先輩兵士だったクライムが聖騎士達に聞かれて俺の傭兵時代の事を話し始めた。
「あいつは傭兵部隊の厳しい訓練に耐えやがった上魔法まで使いやがる。脱隊時に止めたんだが腕を折られた上徹底的に蹴り飛ばされたんだ…」
「なんでそいつは強いのに傭兵を辞めたんだ?別に成果出してるならそいつも辞める理由がないだろ?」
「それは…あいつの気分的な?」
卑劣漢め…。俺が見ていないとでも思ってるのだろうか?初対面の相手なら誤魔化しが効くとでも思っているのか?
「つまり、そいつは気分次第で聖女を攫うこともしたと?傭兵を脱退したから聖女を攫って身代金で生活するために?」
「あ、ああ…」
「真実を歪めたら容赦はしないと警告したよな?」
「ひ、ひいいい!!」
しどろもどろに誤魔化そうとするクライムの姿を見て我慢しきれなくなった俺は野営地に姿を現した。たちまち抜剣する聖騎士達と傭兵達。
「お前が聖女アリア・スターライト誘拐犯のシリウス・ステラリウムか?」
「司教のクソジジイに何吹き込まれたのか知らないが散々な言われようだな。いいか?情報を正すと、聖女は攫われたんじゃない、自らの意思で俺についてきたんだ。お前達、聖女の本当の気持ちを知ろうとしたことはなかったのか?戦争のための道具として扱われ、死地に出向く兵士や民衆を毎日治療させられ、何人もの死を見届けて心が張り裂けそうになっても笑顔を作ってる彼女の苦悩を。しかも物心ついた頃から自分の意思に関係なくやらされるのはさぞ辛いだろう。自由を制限されて人の死ばっか見させられる苦行をやれと言われてお前達ならやるのか?」
「だ、黙れ!!聖女のことを知った気になるな!!」
「それはこっちのセリフだ。お前たちはただ聖女を守り、祭り上げてヘラヘラしてただけだろう?聖女を崇めれば平和になるならもう何千年も前に世界は平和になっているだろう?だが、現実はそうじゃない。どこもかしこも支配欲に溺れて戦争だ。いつまで国や教会の都合の良い洗脳に浸っていれば気が済むんだ?」
「言わせておけば貴様ぁ…!!教会と王家を愚弄する気かぁっ!!」
「事実を言っただけでそこまで激昂することないだろう?」
「うるさいうるさいうるさい!!黙って聖女を返すなら見逃すつもりだったがそこまで我らを愚弄するなど言語道断!!この場で首を切り落としてやる!!」
隊長格の騎士の言葉を引き金として聖騎士たちが怒涛の如く俺に向かってきた。俺に向かって振り下ろされる幾つもの鉄の刃。普通に考えれば死へのカウントダウンだろう。
そんな光景を目の当たりにしても幾度となく死線を潜ってきた俺にとっては見慣れた光景だった。とはいえ、丸腰で抜剣した何人もの騎士相手に戦うのは魔法が使えたとしても難しそうだった。何か使える武器は無いか…?
頭の中でそう考えながら後ろに少し飛んで初撃を避けた。斬撃が躱されたと気付いた騎士たちによる刺突での追撃が迫る。攻撃を受けると串刺しになるだろう。かといって後ろは大木があってこれ以上は下がれない。
そうこうしてる間にも迫る鉄の刃。「口ほどにも無い奴め!!」という嘲りの言葉が聞こえた。俺は騎士たちの攻撃をギリギリまで引きつけてからそいつらの後ろに転移した。
騎士たちの剣は大木に深々と突き刺さり、簡単には抜けなくなった。間合いをとった後俺は収納魔法の中にライア司教から奪い取った火かき棒…じゃなくてワンドがあったことを思い出したためワンドを引っ張り出して構えた。
「口ほどにも無い奴は果たしてどっちだろうな?」
「貴様っ!!偉大なる司教様の法具なんか使いやがって!!何たる冒涜!!この背教者が!!」
「いやいや、あんな他人を蹴落として地位を得てるゲスのどこに敬う要素あるんだ?」
「馬鹿も休み休み言え!!司教様は任務を忠実にこなした者たちの立場を保証してくれるのだ!!」
「都合の良いイエスマンの間違いじゃないのか?」
「黙れ!!司教様に仇成す貴様の言葉など聞けるか!!」
剣が抜けないためほとんどの騎士たちが肉弾戦を挑んできた。俺はワンドの中央部分を握りしめ、両端を振り回せる形で構えた。剣が使えなければ持ってる武器がワンドとはいえ圧倒的に有利なのは俺だった。騎士たちの足元を隙を見て掬っては地面に倒れたところで魔法で身動きを封じるだけの作業だった。
騎士たちの制圧が完了すると俺はかつて俺を虐げた元先輩兵士達に目を向けた。そして静かに告げた。
「事実を歪曲したり俺と敵対したら容赦しないと言ったはずだよな?」
「ひ…ひい!!許してくれ、ください!!あれはほんの言葉の綾で!!」
「こんなところに俺がいないと思って平然と嘘をつく、それがお前の本性だとよく分かったよ。脱退した日に息の根を止めておくべきだった。まあ、それくらい今からでもできるか…」
「か…体が動かな…」
「騎士達と同じ拘束魔法をかけた。貴様のようなクズにこんなのを使うのは勿体無い気がするが、もう二度と俺に刃向かえないようにするならこのくらいは必要かもしれないな…」
そう言うと俺はクライムたちの周りの地面にワンドで円を描いていった。
「な、何をする気だシリウス!!やめろ、やめてくれ!!許してくれ!!」
何か言ってるが聞くつもりはない。円を描き終えると円の外側に立ち、俺は長めの攻撃用儀式魔法の呪文を詠唱し始めた。一言一言唱えるたびに地面に描いた円が光を放ち始めた。
「審判の時来たれり。
冥府の門は開かれり。
炎は咎人を誅する裁きにて、浄化を担う慈悲なり。
汝よ懺悔せよ、後悔せよ、骸になれど罪は消えじ。
冥界を彷徨い、己が咎と向き合うべし。
天界の門は閉ざされたり。
嘆けど己が咎は己が身をもって贖うべし。
今、裁きの時、心せよ。
己が罪思い返されよ。
煉獄の炎よ来たれ。
サモンアビス」
俺が詠唱を終えると魔法円の中の地面が急に溶け始め、マグマとなった。空中には炎がゆらめき、次々と現れては膨張、合体して大きな炎へ、やがて火柱となっていった。炎が激しさを増すにつれて魔法円の中心にいたクライム達は業火の中で肉体が燃やされ、骨すらも残らなかった。
しかし、この魔法の怖いところはそこだけではない。炎によって肉体を物理的に消滅させた後魂は冥界へと引き摺り込まれ、痛みを感じる肉体もないのに無限に近い時を罰を受け続ける恐ろしいものだ。
過去に何度も国家間の戦争で使われ、数百人の魔法使いを投入してこの魔法を使い、敵軍に壊滅的な被害を与えることもあったらしい。本来何人もの魔法使いを集めて行う魔法だが、今回使ったのは範囲を絞ることによって単独でも発動できるように俺が改良したミニチュア版だ。
ミニチュア版でこの威力だからこそ本物ならどうなるか…いや、考えないようにしよう。
跡形もなく消滅した元先輩達と共に俺の魔法は効果を失い、魔法の余波で円形に溶岩の池が残るだけになった。
「シリウスさんっ!!大丈夫ですかっ!?」
魔法の発動に伴い派手に火柱が上がったためか心配したアリアが俺が戦っていた元野営地へと走ってきた。彼女には洞窟の入り口で料理をしてもらっていたのだが、いきなりすぐ近くで火柱が上がったからか俺の身を案じてくれたのだろう。
しかし、アリアが騎士達の前に姿を見せたことでおとなしく拘束されていた騎士達は気合いで俺の拘束魔法を解いて立ち上がった。
「アリア様、探しましたよっ!!ライア司教がお待ちです、すぐに我々と共に戻って来てください!!そこの誘拐犯は我々が捕らえます!!」
「この男に何を言われたのかは存じませんがこいつの言ってることは全て嘘です、耳を傾けないでください!!」
「民衆は貴方を必要としているのです!!」
口々に叫ぶ騎士達をアリアは少し困った表情で見ていた。
少しの間騎士達を見た後アリアは目を伏せてゆっくりと首を横に振った。
「申し訳ありませんが、それはできません。私は、私の意思でシリウスさんについていくことを決めました。私は、自分の治癒能力が人々のためになるなら、私が身を捧げることで世界が平和になるならと偶像になることを承諾しました。しかし、どれだけたくさんの人々を癒しても、傷ついた人々を治しても、私のためにと死地へ行き命を落とす人々が減ることはありませんでした」
「そんなの当たり前ではないですか!!聖女様こそ救済の象徴、神の使いを崇めない者など人ではありません!!だから我々は聖女様を崇めない国を蹂躙する必要があるのです!!」
「それが耐えられないから地位を捨てて逃げることを決意したんです。この国の人々も相手の国の人々も帰りを待っている家族がいます。なのに権力者達の勝手な都合で戦わされ、命を奪い合い、無駄な血を流しています。私が消息を断つことで戦争に歯止めがかかるなら聖女の地位なんていりません」
「しかし、聖女様がお役目を放棄したら他の候補者から再度選ばれるだけですよ?」
「なりたい人が他にいるなら尚更私が聖女である必要などないのではありませんか?」
「ですが、アリア様は稀代の天才と言われるほど強力な治癒魔法の使い手です!!例え聖女様が望まなかったとしても相応しい能力を持っているならば甘んじるべきです!!嫌と言っても我々は聖女様を連れて行きます!!」
そう話しながらアリアを連れて行こうとする聖騎士達。そんな彼らの前に俺は立ちはだかった。
「聞き捨てならないな。嫌がるアリアを無理やり連れていくなんて、人攫いはどっちだ?」
「黙れ背教者め!!聖女様はこの国の希望だ!!貴様の思い通りにはさせん!!」
「そうか、ならもう一度お前達のエゴが成就しないことをわからせてやろう」
俺がワンドを構えるとその手は何者かによって下げられた。手の主を目で追うと、俺の手を下ろしたのはアリアだった。そのままアリアは静かに俺の前へと出た。
「シリウスさん、ここは私に任せてください。こんなこと本当はしたくないのですが、私が聖女だったから招いた事態ですので私自身の手で片をつけます」
どうやらアリアは自らの手で騎士達を倒して追い払うつもりのようだった。そうなると俺が出しゃばるのも無粋か…。彼女の意思を尊重するためにも俺は一歩退いた。しかし、相手が剣が木に刺さってて使えないとしても4人もの騎士相手に身一つで太刀打ちできるのだろうか?
アリアがどうしてもついてくる気が無いと分かってもなお騎士達はアリアを説得しようとした。
「おやめください聖女様!!我々は貴方のお美しい体に傷をつけたくありません!!貴方を屈服させて無理やり連れ帰ったなんて知られたら我々も司教様もどうなることか…!!」
「貴方達が私を倒せるとお思いですか?」
「当然です!!我々は厳しい戦闘訓練を積んできたんです、貴方を拘束するなど容易いんですよ!?」
「では、試してみたらいかがですか?聖女と戦って負けたと言えば司教も諦めがつくのではないですか?」
「ああ、もう、言っても聞かないなら力ずくで連れて行きますからね!?」
我慢の限界だったようで騎士達はアリアを倒すために間合いを詰めてきた。無理やりにでもアリアを連れていくために殴るか投げ飛ばすかして気絶させるのが目的だろう。
隊長格の男がまずアリアのローブの胸ぐらを掴み、地面に投げ飛ばそうとしたが、逆にアリアに腕を掴まれ、投げ飛ばされた。
間髪入れずに他の騎士が後ろから足払いをかけたが、アリアは足払いをかけた男の足を踏み台にして後方宙返りをして後ろに着地して足払いをかけた騎士に足払いをやり返した。
その間に3人目が横方向からアリアの頭部目掛けて正拳突きを繰り出してきたが、アリアは上体を後ろに逸らしてそれを交わした後左手で騎士の腕を、右手で騎士の胸元を掴み、投げ飛ばした。この世界に柔道はないはずなのにアリアがかけた技は背負い投げそのものだった。
最後の4人目がしてきたことは後ろからアリアの後頭部を殴り、3人がかりでできたアリアの隙をつくことだった。3人目を投げ飛ばした直後のアリアには大きな隙ができていたからこそ騎士達にとっては彼女を気絶させるチャンスだっただろう。そのチャンスは功を奏したようで、鈍い音と共に男の拳はアリアの後頭部に命中した。
誤算だったのは鍛えられた騎士の一撃をもらってもアリアが気絶しなかったことだった。アリアは攻撃を受けた後わざと吹っ飛び、地面を転がることによって受け身をとることで衝撃を分散し、殴られた後頭部への被害を最小化した。
気絶しなかったのを見て騎士が追撃をかけたが頭を殴られてもなおアリアの戦闘能力が低下するわけでもなく、追撃で繰り出された拳はアリアの手によって受け止められ、どころかその攻撃力を利用されてアリアに投げ飛ばされた。俺との組み手で俺がアリアを倒したやり方をあの一戦でアリアは学習し、実戦に活かしたようだった。
「シリウスさんと手合わせしておいたのは正解だったみたいですね…」
そう呟きながらアリアは体勢を整えた。もちろん、一度投げ飛ばされただけで騎士達が諦めるはずもなく、騎士達はあの手この手を使ってアリアに攻撃を仕掛けては、アリアに返り討ちにされていた。
騎士達とアリアとの戦闘はおよそ1時間もの間続き、どんな手段を使ってもアリアには有効打にならず、投げ飛ばされて終わりのため騎士達のプライドはボロボロになっていた。
「この獣女!!舐めた真似しやがって!!」
戦闘が始まる前は聖女様と崇め敬語を使っていた隊長の口からはとうとう乱暴な暴言が出るようになり、大木に突き刺さっていた剣を無理やりにでも回収してアリアに対峙した。
丸腰のアリアと剣を持った隊長では明らかに不公平な戦況だ。相手の卑怯ぶりにむかついた俺はアリアに加勢しようかとも思ったが、その意図がアリアに読まれてしまったのか目の前に剣を持った男がいるのにアリアは俺の方を振り向いて穏やかに微笑んだ。心配するなと言わんばかりに。
そんなアリア目掛けて振り下ろされる剣。もはやここまで来ると聖女の生け捕りとかの話ではなくなっていた。組み手で散々負かされた騎士の腹いせみたいな状態だった。
対するアリアは斬撃の軌道を予測して躱した。続く斬撃も、連続で繰り出される斬撃も、全て。激昂して見境がなくなっている剣を持った騎士隊長を目の前にしても斬撃を全て見切って躱せるその度胸と動体視力や体捌きは並外れており、俺はアリアの潜在能力は計り知れないと思わざるを得なかった。
「もう、諦めませんか?」
スタミナ切れで剣を振り回す体力のなくなった隊長に向けてアリアは優しく語りかけた。
「ふざ…けるな…!!聖女に騎士4人がかりで負けたなんてそんな恥ずかしい話あってたまるか…!!絶対に諦めないぞ…!!」
こんな状況でも諦めない不屈の精神については流石騎士だと思えた。
「そうですか、では仕方ありませんね…」
そう話しながらアリアが瞑目して祈るように手を組むと隊長も、戦う気力の無くなっていた騎士達も白目を向いた後で地面に倒れ伏した。
「シリウスさん、彼らが猛獣や魔物に襲われないようにすることはできませんか?」
「構わないがそいつらに何をしたんだ?」
「強い睡眠作用を施す催眠魔法をかけました。大人しく帰ってくれれば良かったのですが帰ってくれなそうでしたのでこうせざるを得ませんでした。目が覚める頃には私と戦った際の疲労も解消されていると思います」
「どうせまた生け捕りにしようと追いかけてくるんだから放っておいたっていいんじゃないか?」
「それはしたくありません。彼らは司教に命令されて職務に動いただけですから」
「でも、最後は逆上して殺そうとまでしただろう?」
「任務が全うできない焦りと私に一方的に倒される屈辱から生じた殺意でしょう、殺されかけたことには残念な思いはありますが彼らを恨んではいません。どうか彼らにシリウスさんからも慈悲を与えていただけませんか?」
「防御結界張っておくだけで後は知らないからな?」
「はい、それだけで良いです、ありがとうございます」
敵に情けをかけるなんてとは思ったが、相手の立場になり、そうならざるを得なかったから仕方なかったのだと捉えるのは俺には全くない考え方だった。そんな思考が働くのもアリアが聖女だからなのか、それとも持って生まれた天性の優しさからか…。前世では知ることのない尊い考え方を今目の前にいるアリアから学んでいる気がした。
騎士達を結界で保護した後俺とアリアは棲家にしている洞窟へと戻って今後のことを話し合うことにした。このままここにいてもすぐに別の騎士なり兵士が送られてくると分かってなおここに留まるメリットを感じられなかったからだ。
「この森に引き篭もるのももうできないな…結構気に入ってたのに」
「そうですね、また追っ手が送り込まれるでしょうね…」
「俺はこのまま国外にでも出てしまおうかと思ってるんだがアリアはどうする?」
俺が問いかけるとアリアは難しい顔をした。
「国や教会から逃げ出した以上私もまた破戒僧の烙印を押されるのは時間の問題です、シリウスさんと一緒に国を出ていくのが身のためでしょうね…。ですが、幼い頃に聖女に祭り上げられて以来会わせてもらえなかった両親に会いたいです…」
「そんなことすらさせてくれなかったのか?」
「聖女に選ばれた者は国と教会に全てを捧げなければならない決まりでした。なるからには家族とのやりとりなど以ての外らしいです」
「よく親はそんなこと承諾したな…」
「国や教会に背いて生きていくなどこの国で生きる以上困難ですから仕方のないことです」
「じゃあ聖女をやめたら親にも実害は出るんじゃないか?俺に攫われたという体裁だったらまだしも騎士達をボコボコにしてしまっただろう?」
「その心配はいりません。彼らの中から私に負けたという記憶は睡眠魔法がかかった際に一緒に消えています。任務でこの森に来たことから先のことはもう覚えていないはずです」
「記憶を改竄したのか?」
「治癒魔法の一種です。怒りが生じるのは、何かしら怒りが発生する事象が発生したから。であれば、その記憶がなくなっていればそもそも怒る必要もありません」
「けれど、司教の記憶は改竄していないだろう?そこから情報が漏れたらどうするんだ?」
「私が聖女を自らの意思で辞めたと報告しても、誘拐されたと報告しても、教会は厳罰を課すのではないかと思います。私を配下に戻せないと分かった時点で逃げ出すのではないかと思います」
アリアは予想以上に賢かった。ここまで相手の心理を読み取って行動予測ができたからこそ騎士4人相手に戦っても倒されなかったのかもしれない。
「それならアリアの故郷に立ち寄ってから俺は国外へと逃げようと思う。故郷に寄った後どうしたいかはその時に決めてくれ」
「ありがとうございます、私のわがままを聞いていただきすみません」
「気にすることはないさ」
方針が決まったところで俺とアリアは棲家にしていた洞窟を片付け、アリアの故郷へと向かうことにした。




