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第4話 アリアとの暮らし

 俺が転移魔法で山奥に戻ってくると、旅装を抱えたままのアリアが焚き火の側に立っていた。俺一人なら森の開けたこの場所で野営で良いかもしれないが、元とはいえ聖女にそんな生活を送らせるのは気が引けた。雨風凌げる洞窟を探した方が良いかもしれないと思った。


 彼女の衣装を汚したくないため俺はとりあえず丸太を横たえて仮の椅子を用意した。


「今はこんなものしか用意できないが、それでよければ使ってくれ」

「ありがとうございます」


 お礼を言いながら丸太に腰掛けるアリアを横目で見ながら俺はいつもみたいに地べたに座って焚き火を眺めた。成り行きでライア司教から没収したワンドを火かき棒がわりにして焚き火の火力を調整した。普段魔法使用時にこんなもの使ってこなかったせいか今の時点で宝の持ち腐れになりそうだった。いっそそのうち売り払うか…?


 平静を取り繕っているつもりではいたが内心ではどうしようという思いがぐるぐると渦巻いていた。アリアの同意ありとはいえやったことは側から見ればただの聖女の誘拐だ。しかも最寄りの町の司教ボコボコにしたし…。そのうち国や教会から刃を向けられるかもしれない。


「ちょっとテイムした動物で二人で住める洞窟探すから話せなくなる、流石にここで寝てたらすぐにその衣装が汚れるだろうから」

「いえ、この衣装教会の方で自動洗浄と自動修復の魔法付与してあるみたいですのでどこで寝ても大丈夫ですよ?」


 着ているローブをつまみながら説明するアリア。何そのチート羨ましい…。町の服屋で買った代物は破れたり傷んだりするたびに買い替えていたため出費が嵩んでいたし、魔法学園時代にそんな生活魔法習得してなかったので自力で付与することもできなかった。


「そ、そうか…」

「服にそういった付与魔法がされるのってよくあることじゃないんですか?」

「魔法が使えるやつなんて限られてるしこの国だったら戦争のための攻撃魔法ばっかりで尚更生活魔法なんて習わないんじゃないか?」

「そうですか?私聖女になる前に一通り生活魔法習得してましたので誰でもできるものかと…」

「そうなのか」

「はい、国や教会から祭り上げられるまでは私も村で農作業してたり治癒魔法で村の人を治療してるだけだったんです」

「てっきり生まれた時から教会と関わっていたと思ったら…」

「そうでもないです。女性で幼い頃から治癒魔法に適性があって魔力量が多いかどうかが選考基準みたいです。それらの基準をクリアしたら国と教会から私の意思とは無関係に召集がかかりました」

「治癒魔法使える男が女装してなりすますとかはできないのか?」


 俺がニヤリとしながらそう聞くとアリアは吹き出しながら答えた。


「過去には身分証と名前を偽造して聖女になろうとして鞭打ちになってた男性の歴史を聞いたことがありますよ」

「女がなれて男がなれないって不平等だと考える奴はやっぱりいたんだな」

「残念ながら国と教会のルールですので性別を反転する魔法でもない限り難しいと思います」

「まあ性別変えることができたとしても俺は絶対なりたくないがな」

「ならない方が良いです、経験者目線で言いますけど自由が制限されて結構めんどくさいんですよ?」

「だったら最初から断ってればよかったじゃないか」

「権力者相手にできると思いますか?」

「確かにな」


 そう話し合いながらひとしきり二人で笑い合っていたが、ふいにアリアが表情を変え、俺に尋ねてきた。


「ところでシリウスさん…?真面目な話になりますが、私を連れ出したことは感謝していますが、これからどうするつもりですか?国と教会を敵に回したのと同義ですしおそらくもう指名手配されてるのではないでしょうか?」

「だろうな…。この国で仕事を得て生きていくことは難しいだろう。俺は山から出るつもりは一切ないが」

「ご家族に被害が出るのではありませんか?」

「ずいぶん昔に捨てられた。あいつらのことなんか知らん」

「………」


 そっけない俺の返答にアリアも何か問いかけたそうにしていたがそれ以上は追及してこなかった。彼女がそれ以上聞いてこなかったので俺は話を戻した。


「それよりこんなところでのサバイバル生活になっても本当に大丈夫か?昨日も熊出てきたし、熊じゃなくても魔物とかも出たりするからある程度戦えないと死ぬぞ?」

「身体強化と弓術、体術はそれなりに使えますが…」

「そうか、ならちょっと手合わせ願おうか、その衣装で地べたに転がっても汚れはすぐ落とせるようだし」


 そう言いながら俺は立ち上がって手招きした。アリアも立ち上がり俺についてきた。焚き火から少し離れたところでお互い向かい合い、構えた。


「さて、行くぞ」


 俺は両足に力を込めてアリアに突進し正拳突きを繰り出した。対するアリアは体軸をずらして避けた。俺の攻撃は彼女の後ろ髪をかすめただけだった。そのまま流れるような動きで屈んでアリアは俺の軸足を蹴り飛ばした。蹴撃の風圧で純白のローブがふわりと舞った。


 バランスを崩した俺の首目掛けて手刀を繰り出すアリア。俺は上体を後ろに反らして避け、後ろに跳んで間合いを空けた。


 体勢を整える間もなくアリアの追撃が入り、俺の鳩尾目掛けてアリアの拳が飛んできた。体軸をずらしてそれを避けつつ俺はアリアの腕を両手で掴み、そのまま体を反転してアリアを投げ飛ばした。


 しかし、それも彼女に読まれていたようで、受け身を取られ、彼女はもう片方の手を軸に両脚で俺の足元を掬い上げ、俺の拘束を振り解いて跳躍し、間合いを空けて体勢を整え直した。彼女の体術に呼応するようにふわりと広がる純白のローブがアリアの体術のレベルの高さを物語っていた。


 強い、聖女とは思えないほど戦い慣れている…。彼女の身のこなしは現役の兵士と言っても通用するだろう…。普段の他者を慈しむ目からは考えられないくらい戦闘中のアリアは眼光が鋭く、少しでも油断すれば確実に仕留められてしまいそうだった。


「聖女と聞いてたから軟弱かと思ってたけどやるじゃないか」

「……」


 俺が称賛している間にもアリアは無言で間合いを詰め、俺の首筋目掛けて左足でハイキックを繰り出してきた。ローブがめくれてオレンジと緑のレギンスに包まれた足が見えた。


 大技を繰り出してきたなら軸足は隙だらけだと判断して今度は俺がアリアの右足を掬おうとしたら、アリアはハイキックで回転蹴りをした時の遠心力を維持したまま右足で跳躍し、空中で体を捻りながら全体重をかけて右足で踵落としをしてきた。


 しかし、俺も伊達に訓練してきたわけではない。戦いにおいて、相手の力すら時には利用することもある。まともに受けたらただじゃ済まない攻撃だが、俺は上空から迫り来るアリアの右足をそっと軽く掴み、攻撃のベクトルを斜め方向にずらし、アリアの右足を掴んだまま体を一回転させてアリアの攻撃力を奪い、地面に投げ飛ばした。


 今度は受け身が取れなかったようで、アリアは地面に大の字になった。


「…私の負けです」

「いいや、それだけ戦えるならここでサバイバルをしたとしても猛獣や魔物相手でもやりあえるぞ?」


 手加減したのでダメージはないはずだが、しばらくアリアは起き上がらなかった。


「手加減したはずだがどこか怪我したか?」

「いえ、あのような倒され方を想定してませんでしたので先ほどの手合わせを反芻してました」


 そう話しながらようやくアリアは体を起こして立ち上がり、ローブについた土埃を魔法で落とした。


「聖女とは思えないほど戦い慣れてる気がしたが、どこかで戦闘訓練でも受けてたのか?」

「たまたま赴いた町で司祭でありながら武術に優れた方がいまして、その方に手解きしてもらったんですよ。今の教会のあり方に疑念を持ってらっしゃる方でして、聖女といえど過保護に守り過度に崇めるのではなく、自分の身は自分で守るべき、力を正しく使うべきと考えているみたいでした」

「教会にもまともな奴はいるもんだな…」

「残念なことにそうやって正論を主張する方は往々にして潰されてしまうんですけどね…」

「否定はしないな…」

「シリウスさんこそそこまで立ち回れるなんてどこで習ったんですか?」

「俺は元々傭兵やってたからだよ」

「勝てないわけですね…」


 どんな組織に所属したって欲深で人を蹴落とす卑怯者が成功することを体感してきたせいかこの世界に何の希望も持てていなかったが、現状を見つめて自分の願った通りに人生を切り開くなら何ができるかのマインドセットをアリアを通じて教えてもらえた気がした。まだこの世界に対して働きかけたいことは思い浮かばないが、いつか願いが生まれた時にそうしたマインドセットで動いても良い気がした。


「とりあえずご飯にしようか…」

「手伝いましょうか?」

「料理できるのか?」

「はい、戦場の近くの町や村で炊き出しを作ることもあったんです」

「そうか、ならお願いするよ」


 俺は異空間にしまっておいた食材と調味料を取り出してはアリアに渡していった。その他、調理器具や盛り付け用の器を取り出した。渡した食材の中に解体した熊の肉が入っていたからか、アリアは珍しそうな目をして熊肉を眺めていた。


「教会では熊肉出なかったのか?」

「はい、牛や豚、鶏が出てくることはあってもそれ以外の肉は見たことがありませんでした」

「じゃあ調理法は知らないか?」

「塩胡椒を振って焼けば良いかと思っていたんですが違うんですか?」


 昨日の俺のズボラ飯…。


「牛、豚、鶏と比較すると臭みがあったりするんだ。もちろん、その調理法でも食べることはできるが昨日食べてて臭みが気になってな…。美味しく食べたいならハーブで臭みを消すか鍋で煮込むのが良いと思う。ただ、この辺にハーブが自生してないから採集できなくて鍋一択になると思う」

「わかりました、では食べやすい大きさに食材切り分けて煮込みますね♪味付けは私の方で調整してもいいですか?」

「ああ」


 俺が承諾するとアリアは手際よく食材を刻み出した。案外エプロン付けさせたら似合いそうだった。俺が焚き火の火力を調節して鍋に湯を沸かしている間にも下処理を終わらせて食材を鍋に投下していった。


 灰汁取りをしながらしばらくして煮たってきたところでアリアは鍋に塩を入れ、味の調整を始めた。前世でネットで見た熊鍋のレシピではニンニクや生姜で臭みを消したり味噌で味付けするが、今手元にないものはどうしようもなかった。


 臭みのある食材の塩だけでの味付けとなるとアリアもあまり経験がないせいか塩を少しずつ加えて器にとって味見してを繰り返して納得のいくまで調整をしていた。


 そして味付けに納得できたのか器に出汁をとって俺にも味見するようにと差し出してきた。試しに飲んでみると、塩だけの味付けにしては臭みがほとんど感じられず、いくらでも食べられる気がした。


「うまい」

「よかったです♪」


 俺が美味しそうに食べる度に笑顔を見せるアリア。将来彼女と結ばれる相手は幸せだろうなと思いながら俺はアリアの料理を堪能していった。


 一緒に暮らし始めて早々にアリアが想像以上に万能であることを知ることができた気がした。

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