表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/11

第10話 襲われた鉱山村

 翌朝目を覚まして体を起こすと隣のベッドにアリアの姿はなかった。トイレだろうかと思いつつ部屋を見回すと机の上に「少し1人で考えさせてください」と置き手紙があった。


「まあ、そう簡単に納得するはずがないよな…」


 そうポツリとつぶやいた後、俺は窓の外を眺めた。アリアの行き先など見当もつかないが、村に入った時の兵士たちと戦うような真似さえしなければまず大丈夫だろうと考え、1時間瞑想をした後で久しぶりに魔法の研究に明け暮れることにした。


 右手の手のひらを上に向け、深呼吸をする。手のひらから視認できるほど魔力が溢れ出すのを確認した後に魔力に意識を向ける。魔力で魔法円を描画し、その内側に複雑な模様や制御用の術式を追加し、追加で魔力を魔法円の中心に注ぎ込む。炎が手のひらの上に一瞬現れて燃えて消えるのを確認する。

 魔法陣を描かずに起こしたい事象に変換するやり方もあるが魔力をバカ喰いする上制御がしづらいため魔法学校では推奨されない上研究にも不向きだから俺も好まない。


 次に、先ほどと同じように炎を呼び出す魔法陣を描き、剣の形に整形する術式と持ち手を魔力で保護する術式を追加して魔力を注ぐ。現れた炎剣の持ち手を両手で握り、一振り。素振りに合わせて炎剣が描く軌跡を見つめながら満足して魔法を解除する。市販の武器がなくてもこうすると武器には困らないが魔力切れか解除するか術者が死ぬまでは消えないためあまり好き好まない。だが、武器が壊れた時には繋ぎとしては重宝するため魔法を武器に変換する術式は研究のしがいがある。


 行商人の変装して宿を出て兵士や村人たちに見つからない場所まで歩いて行き、研究を再開する。魔法円に地面を武器に変換する術式を追加して地面に手をつく。周囲の地面が変質し、地面に一振りの剣が現れた。引き抜いて近くの木を切り倒してみようとする。切る事はできたが鍛治師が鍛えた刀身ではないためすぐに刃がボロボロになったり折れたりした。地面など既にある物を武器に変えるのも一つの戦い方だが、生成した武器の耐久性に難ありでこれも実用的とは言えない。鋼の鍛え方とか経験することでもあれば魔法発動時にその工程を追加してより強靭な刃を魔法だけで作れるかもしれないがその経験がない以上はどうしようもなかった。刃こぼれを起こした剣を地面に突き立て、元素の配列を変えて土に戻した。


 次に、既存の魔法の威力を高める研究を始める。まず、水を呼び出す魔法陣を描き、水を空中に留める。これを相手に向かって飛ばせば初級魔法ウォーターボールになるが、ここにさらに術式を追加する。かつて熊と戦っていたときのように周辺の気圧を0にする。液体だった水が氷となり、温度が低下するにつれ結晶構造が密になっていく。絶対零度近くまで冷やした氷に初級雷魔法サンダーをぶつけてみる。氷塊が雷を帯びてバチバチと音を立てた。限界まで水を冷やすと帯電するほど密な結晶構造になり、アイスⅪという状態になるが、やはり魔法というものは便利で、地球ではまず観測する事が困難な事象を実際に確認する事ができる。

 ただ、アイスXIを作ってもこれといった使い方を思いつかなかった。相手を攻撃するならこんなまどろっこしいことしなくても初級魔法を連打する方が圧倒的に手数が多い。


「おい、貴様!!そこで何をしている!!」


 乱暴な足音を立てながら何人もの兵士たちが俺のところに近づいてきた。おかしい、見つからないようにこの村外れまで来たはずなのに…。


「私は貴という名前ではないですよ?」

「黙れ愚民が!!誰が言葉遊びをしていいと言った!?誤魔化してないでここで何をしてたか答えろ!!」

「初級魔法の練習ですよ、皆様こそどうしてここに?」


 努めて自然な笑顔を装いながら穏やかな声色で問いかけるとリーダー格の兵士が俺を睨みつけた。


「しらばっくれるな!!村外れから何かが倒れる物音がしたと報告があったから来てみれば…!!初級魔法でそんな物音出るはずないだろう!!何を企んでる!?」


 そうか、さっきの地面から召喚した剣の試し切りで木を切り倒したのが聞かれてたか…証拠となる剣はもう消したものの俺も迂闊だったかもしれない。


「企んでるも何も、行商人が自分の積荷を自分で守るために体を鍛えるのはよくあることですよ?妻にいつも頼るわけにはいきませんからね?」

「ちっ、昨日俺に狼藉を働いた白い外套に狐の変な面被ってた女の事か?主人なら嫁の教育くらいしっかりしたらどうなんだ?それとも、卑しい貧乏行商の妻になるやつはあんなにも品がないのか?」


 変な面とは失礼な…、アリアに買い与えた狐面お稲荷様みたいな神秘性があると思って密かに良いと思ってたのに…。異世界だと感性がこうも違うのか…。それ以上に侮辱や蔑みには慣れてたはずなのにアリアの悪口を言われただけで無性に目の前の男の顔面を殴りたくてしょうがなかった。

 とはいえ、目の前の兵士長に俺とアリアが夫婦で行商をしているシナリオはまだ通じるようでごまかしは効きそうだった。我慢さえしてればここはやり過ごせるかもしれない。


「おっしゃる通りです、妻には改めて言い聞かせます。ですので、どうか穏便にお願いします」

「今度俺たちに手を出そうものなら貴様も貴様の嫁も首を切り落としてやるからな…肝に銘じておけよ?」


 吐き捨てるようにそう言うと兵士達は去っていった。ステラ国の兵士達が民衆に対して横柄な態度を取るのは今に始まった事ではないが、あのような態度を何度も見ているとあれじゃあ民衆からも煙たがられるよなと改めて思った。守ってやってるんだから感謝されて当然、あるいは自分たちが国から選ばれたエリートだという選民思想が透けて見えた。

 命をかけて人々を守る事に誇りを感じてそうなりたい人も中にはいるだろうけれどこの国の場合はそれが当てはまる人はほとんどいない。大体は国からの高待遇を目当てに志願する。だから、民衆に対しては横柄な態度を取っていても何かあった時には民衆を置いて逃げ出すという悪い噂も絶えなかった。

 転生前の世界では勉強して良い大学に行き良い会社に入り結婚して家と車を持つことが普通だと教育され、そのレールから外れると負け組のレッテルを貼られることもあったが、ステラ国の場合も勝ち組の定義が軍隊か宮廷魔法師になるだけでそうなるためだけに蹴落とし合いも陰湿な嫌がらせもざらにあり、優秀な人や世界に貢献するためにそうなろうとしている志の高い人が潰されることもよくある話だ。

 世界が変われど社会の闇を目の当たりにすると辟易せずにはいられなかった。


 兵士たちが立ち去った後再び宿に向かって歩いて行こうとしていたところすぐ近くでアリアの声が聞こえた。


「皆様はこのままで良いと思っているのですか?」

「良いわけないだろ?けど、相手は国だぞ?どうしろと?」


 声のした方を見ると、工房の一角で食事休憩中の鍛治職人が数人と、初日に村で出会った鍛治師ゲルダがいた。


「この惨状を宮廷に知らせるんです。兵士の方々のしている事は背任行為ですよ?提訴する事由としては十分なんです」

「そんなことは長老のあたしが何度もやったんだよ、そして、訴状が認められ、監視役の兵士たちが不適切と認められると兵士たちは王命で去るもののその度に送り込まれてきた代わりの兵士たちは何も変わらなかった。

 顔と名前が変わるだけで激務を強要して異常なノルマを要求するだけだった。兵士たちが考えているのは民衆の事じゃないんだよ、自分たちの出世のために民衆を利用することしか考えていない」

「では、環境が改善されるまでは就労を拒否するのはいかがですか?」

「やったやつは殺されたぜ?見せしめにな」

「兵士たちを追い払うのは?」

「人数面で不利だ。その上素人の俺たちと違ってあっちは戦闘訓練を毎日してるんだぜ?勝てるわけないだろう?」

「あたし達のことを思ってあんたがそう言ってくれている気持ちだけはありがたく受け取っておくよ。でも、あたし達も現状を変えるための努力をしてきた上で何も変わらないことを知って諦めたんだ。あんたは村のものじゃないから兵士たちも干渉はしてこないけれどもあたし達に関われば部外者ではなくなってしまう。村に来た時に警告した通り、下手に関わらないで用が済んだらさっさと村を出て行った方がいい」

「……」


 アリアは自らが考えていた解決策が悉く通用しないと理解して何も言葉を返せなくなっていた。無理もない。幼い頃に聖女に祭り上げられ、言われるがままに治癒をしたら人から感謝される生き方だけしか経験してこなかったため、それまで知ることのなかった社会の闇を目の当たりにしても村人達を助け出すための知恵を提供することができなかったのだ。この問題の本質はステラ国の軍隊の腐敗そのものにある。故に、本当に国民のためを思って命をかけることのできる人材が集まるような抜本的な改革を国が行わない限りはいつまでも解決するはずがないのだ。正義だけで何事も解決するというのは理想論。正論だけでは勝てないから綿密な計画と行動を要求される。


「では、代案として私が…」

「そこまでだ」


 そう言いながらアリアが仮面に手をかけ外そうとしたところで俺はアリアの全身にバインドをかけ、アリアを行動不能にした。俺はゲルダ達に頭を下げ、お詫びすることにした。


「妻がご迷惑をおかけしたようで申し訳ありませんでした。皆様の貴重な休憩時間だったでしょうに」

「いいや、別に気にしてねえからいいぜ?」

「その子だってあたし達のことを思って工房まで説得しに来たんだろう?咎めることじゃないさ」

「それよりも奥さんの安全のためにも村を出ていくのは早めにした方がいいぜ?」

「おっしゃる通りです、旅程を早めることを検討いたします。本当にすみませんでした」


 俺は頭を下げつつ行動不能状態のアリアを担ぎ上げ、工房を後にした。仮面の下から邪魔されたことに対する怒りが感じられ、仮面の下からでも俺を睨みつけているんだろうなと容易に予測できた。


「シリウスさん!!どうして私の邪魔をしたんですか!?」


 防音の効いた宿の寝室でバインドを解除してやるなりアリアの怒声が響いた。やはりアリアは怒っていたようで、村人達の説得を邪魔されたことに納得がいっていないようだった。


「代案として何をするつもりだったんだ?仮面を外して自分が聖女だと暴露するつもりだったのか?」

「そうに決まってるじゃないですか!!聖女の勅命でしたら王命と同等の影響力があります!!兵士たちの行動を強制的にやめさせることはできるんですよ!?」

「やめさせてどうするんだ?アリアの目があるうちはあいつらはそうするだろう。だが、いなくなった途端元の木阿弥になる」

「ですから、状況が改善されるまで滞在期間を伸ばして…!!」

「長期滞在しているうちに教会のお偉いさんがやってきて教会に連れ戻すだろうな」

「っ……!!」

「第一、聖女とばらして付け焼き刃な対策して、せっかく手に入れた自由を手放す事に意味はあるのか?今アリアが自由でいられるのは聖女である事がばれていないからだぞ?手に入れた自由をみすみす手放してまで村人たちを救いたいのか?」

「ですが…!!」


 ドーン…、ガラガラガラ……!!


「「!?」」


 轟音と何かが崩れる音が外から流れ込んできた。窓の外を見てみると、鉱山に面した区画が黒煙を上げながら燃えていた。逃げ惑う人々の後ろで咆哮を上げているのは巨大なワイバーンだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ