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第74話 いよーしっ!!

「私に合わせてよね」


 結局、今年も二人三脚に出場することにしたふたりは、高校から帰ったあと、とりあえず部屋で練習してみることにした。

 美雪はしゃがんで自分の左足首と貴樹の右足をタオルで結ぶ。


「それは良いけどよ。まずは結ばずにタイミング合わせる練習したほうがいいんじゃね?」


「そこから? さすがに大丈夫じゃない?」


「そうかな……」


 美雪は軽く言うが、去年の体育祭のときのことを思い出すと、本当に大丈夫か不安になる。

 とはいえ、今は室内だし心配ないだろうとそれ以上なにも言わないことにした。


 足首を結び終わった美雪が「これでよし」と小さく頷く。

 自分の足に伝わってくる感触からすると、かなりキツめに結ばれているように思えた。


「それじゃ――」


 そう言いながら美雪が立ち上がろうとしたとき。

 いきなりバランスを崩したのか、貴樹の腕を引っ張った。


「おわっ!」


 貴樹としても、ぼーっと立っていただけだったこともあり、いくら軽いとはいえ急に体重を掛けられると支えきれない。

 足を出して踏ん張ろうにも、都合悪くその足はタオルで結ばれていた。


「きゃあっ!」


 結果、貴樹はそのまま美雪に覆いかぶさるように倒れ込んだ。

 なんとか両手を床に付いて支えることには成功したものの、ぶつかると思ってびっくりした美雪の顔は目と鼻の先だ。

 

「び、びっくりした……」


 目を見開いた美雪は呼吸も荒く肩で息をしていたが、ほっとしたのか大きく息を吐いて目を閉じた。


「わりぃ」


「う、ううん。ごめん、急に引っ張って……」


「いや、怪我がないならいいって。……よっと」


 貴樹は体勢を立て直そうと、身体を捻ろうとした。

 しかし、美雪は貴樹のワイシャツの裾をくいくいと引っ張る。


「どうした?」


「……やっぱり先に息を合わせる練習したい。付き合ってよ」


 小さな声で囁くように言った美雪は、両手を伸ばして彼の背中へと回した。


 ◆


『体育祭、なに出るか決めてる?』


 夜、瑞香は優斗にメッセージを送ってみた。

 ちなみに、このたったひと言のメッセージを送るために何度も何度も書き直して、30分ほどかかったのは秘密だ。

 最初はくどくどと長文を書いたりしてみたけれど、読み直してみると必死さが滲み出ていたこともあって、どんどんシンプルにしていって、残ったのがこれだけだった。


 それに、どんなメッセージが返ってくるか、事前にパターンをノートに書き出してシミュレーションまでしていた。


『決めてない』


 自分がそれだけ時間をかけたのに、たった30秒で返信が返ってきたことになんとなく複雑な気分になる。

 しかし、すぐ返ってきたこと自体には頬が緩む。

 もしかして返ってこないかもしれないと思っていたからだ。


 そして、事前にシミュレーションしておいたルートから、次に送るメッセージを手早く打ち込んだ。


『そっか。私、二人三脚に出てみたいけど、一緒に出てくれる友達がいなくて』


『二人三脚か。昼に美雪姉さんから聞いたよ。なんか、人気あるみたい』


 予想していなかった返信が返ってきて、瑞香は手を止めた。

 自分も美雪に教えてもらっていたのだが、いつの間にか優斗にもその話をしていたのか。

 その情報は持っていなかったため、シミュレーションから漏れていたのだ。


 とはいえ、想定から大きく外れている訳でもない。

 素早く頭を回転させ、次のメッセージを打ち込む。さり気なく、シンプルに。


『そうなんだ。だったら、私と出てくれない?』


 自分でも胸が高鳴るのがはっきりと分かる。

 OKがもらえるか、NOと返ってくるか。

 もちろん、これが駄目だったとしても告白したわけでもないから、まだダメージは少ない。

 それでもこれだけ緊張するのだから、とても自分から告白なんてできるはずがない。


 それまでに比べて、なかなか返信が返ってこなかった。

 どちらに転ぶにしても早く返事が知りたかった瑞香は、時計の秒針が進むのが遅く感じて、食い入るようにスマートフォンの画面をじっと見る。


 送ってすぐに既読になっているから、返答を考えているのだろうか。

 となると、迷うようなことなんだろう。

 それとも単に別の用事があって、返信する時間がないのかもしれない。


 そんなことを考えていると、ピポンと着信音が鳴った。

 はやる気持ちを抑えて、震える指先でメッセージを開く。


『別に良いよ。いま美雪姉さんに聞いたら、去年出て楽しかったって言ってたから』


「いよーしっ!!」


 メッセージを見た瞬間、瑞香はついつい声を上げた。

 しっかりと右手を握りしめて。

 計画通りに事が進んだことにも満足だ。


 返信が遅かったのは、その間で美雪にメッセージを送っていたのだろう。


 感慨深く頷きながらしばらく安堵していたが、ふと我に返った瑞香はスマートフォンの画面に視線を落とす。

 彼の気が変わらないうちに、確実なものにしておかねばならない。


『ありがとう。約束だよ』


『わかったよ。それじゃ』


『うん。また明日』


 このメッセージが残っている限り心配はないだろうと思って、瑞香はベッドにバフッと寝転がる。

 優斗は約束を違えるような性格ではないことも知っている。


「美雪さんに送っとこ」


 瑞香は二人三脚に優斗と出場することにしたことを、仲人である美雪に報告するべくメッセージを打ち込んだ。

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