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第19話 かわいー

 ケーキバイキングに行けなくなったと言う亜希に、もっと重大なことかと思っていた美雪は、ほっとして軽い調子で返す。


「なんだ、そのくらい。全然いいよ。また別の日に行こうよ」

「そうなんだけど、予約もうキャンセルできないみたいで。……勿体無いし、美雪ちゃん、誰かと行ってきてよ。……ほら、貴樹クンとか誘ってさ?」

「え……」


 単に日程を再設定するだけだと思っていた美雪は、亜希の提案に固まった。

 ただ、確かに彼と行けるなら、それはありがたい提案にも思える。

 そんな美雪を他所に、陽太と話をしていた貴樹に声をかけた。


「――貴樹クン! ちょっといーい?」

「あん、なんだ?」


 陽太と2人で近くに来た貴樹に、亜希が提案する。


「あのねー、明日美雪ちゃんとケーキバイキング行く予定だったんだけど、バイトで行けなくなっちゃって。アタシの代わりに貴樹クン行ってくれない?」

「明日ねぇ……。俺、別の用があって……」


 陽太と約束しているのを覚えていた貴樹は、陽太の顔を見ながら答えた。


「ああ、別に構わないよ。僕の方は大した用じゃないし。そっち行ってあげなよ」

「そっか。わかったよ……」


 元々陽太に頼まれて空けていた予定だったこともあり、貴樹は二つ返事で亜希の提案に頷いた。

 そのとき、亜希と陽太がちらっと目配せしたのには、気づかずに。


「――でね、チケットこれなんだけど。見てよ」


 亜希は貴樹にケーキバイキングのチケットを見せながら言う。


「ほら、ここ」

「ん、えっと……?」


 そこには、『カップル限定! レストランのSNSに写真掲載で更に20%割引!』と書かれていた。


「アタシと美雪ちゃんじゃダメだけど、貴樹クンとなら大丈夫でしょ? どうよー?」

「うーん……」


 貴樹は腕を組んで考えた。

 自分は今更美雪と写真を載せられようが、別に気にすることはないけれど……。

 元々高価なバイキングのようだから、20%オフはかなり大きく思えた。


「ね、美雪ちゃんはどう?」

「――え⁉︎ わ、わたし⁉︎ 私は……別に良いけど、貴樹が……」


 急に振られて美雪は戸惑いながらも答えた。


「そうなんだー。貴樹クンは美雪ちゃんの頼みなら大丈夫だよね?」

「ま、まぁ……美雪がいいなら……」

「やったぁ。ふふ、2人の写真、見るの楽しみだよー。――ちゃーんとカップルらしく、ピッタリくっついて撮ってもらわないとダメだよ?」


 顔を見合わせる美雪と貴樹を他所に、ひとり盛り上がっている亜希がふたりに釘を刺す。


「え……? そ、それは……」

「ダメー。チケットあげるんだから、そのくらいはやってもらわないとっ!」


 そう言われると、美雪は首を横には振れなくなってしまった。


「う、うん……。わかったよ……」


 話が終わり、そわそわしながら自席に戻る美雪を見ながら、「計画通り!」と亜希はにんまりと笑みを浮かべた。

 キャンセルができなくなる前日まで、貴樹の予定を空けておくために一芝居打たされていた陽太は、そんな亜希を見て苦笑いを浮かべた。


 ◆


 放課後――。


「貴樹、ごめんね。こんなことになっちゃって」


 自分が約束していたことがきっかけで、こうなってしまったことを、美雪は素直に謝った。


「なんだ、美雪にしてはしおらしいな」

「むむ、なによそれ……」


 貴樹が軽口を叩くと美雪は口を尖らせるが、気にせず続けた。


「はは。……にしても、亜希のヤツも強引だよなぁ」

「だよねぇ。……貴樹は本当に良かったの? 私なんかとSNSに載っちゃうんだよ?」


 その言葉を聞いて貴樹は呆れた顔をした。

 美雪は『私なんか』と言ったが、そもそも彼女より可愛い同級生なんて数少ないのだから。


「何言ってんだ。……今更そんなの気にしてたら、一緒に帰ったりしてねーよ」

「……そっか。良かった」


 そう呟いたものの、美雪はほんの少しがっかりする。

 一緒にいることに抵抗がないのは幼馴染の延長だからであって、女の子としては見てくれていないのだと。


 その美雪の想いに気づいたのか気づいてはいないのか。

 不意に目を逸らして貴樹が言った。


「……美雪は可愛くて人気あるし、俺嫉妬されるかもな」

「え……」


 驚いて貴樹の顔を見る。

 ただ、少し照れているような様子で、目を合わせてはくれなかった。


(――今、『可愛い』って……? 私を?)


 真意はわからないけど、少なくともそう思ってくれていることだけはわかった。

 そのことだけでも今は嬉しくて、途端に笑顔になった美雪は言った。


「あはは、そんな心配しなくても大丈夫だよ」


 ◆


「おっはよー!」


 翌朝、いつもの平日よりは少しだけ遅めの時間。

 美雪はお出かけスタイルで貴樹の部屋に入るなり、まだ寝ている彼のベッド脇にドスンと座った。


「おおぅ!」


 慌てて飛び起きた貴樹を見て、美雪が笑う。


「あっはは! そんなに慌てちゃって。かわいー」


 貴樹は目の前に背中を向けて座る美雪を、不機嫌そうな顔で見る。

 いつものダッフルコートに、先日一緒に買い物に行ったときに新しく買った、チェック柄のミニスカート。

 強引に起こされて少しイラッとはしたものの、彼女の笑顔が可愛くて、すぐに怒りが引いていくのがわかった。


「今日は外寒いよー」


 下はタイツ姿とはいえ、ミニスカートが少し寒そうに見える。


「スカート寒くね?」

「学校行く時はもっと寒いから大丈夫だって」

「あぁ、そりゃそっか」


 言われてみればその通りだと思う。


「ほらほら、私が起こしに来たんだから、早く起きるっ!」

「へーい」


 そして、いつものように眠い目をこすりながら、貴樹は顔を洗おうと部屋を出た。

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