表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

ウタほたるのカケラ〈US〉シリーズ

どうせ捨てちゃうからって(ウタほたるのカケラ〈US〉出張版【サイズM】第1iM片)

作者: 歌川 詩季

 ちょっと、えっちな部分があります。



※noteにも転載しております。

 わたしのバイト先は、手づくりサンドイッチ屋さん。

 平日のこの時間は、冴えないおじさん店長とのふたりシフトだ。

 これから商品の鮮度管理で、消費期限が間近なやつを廃棄するとこなんだけど。

 店長が、なにやらギャルっぽいコにからまれてるみたい。


「てか、どーせ捨てちゃうならいいじゃんか。

 もったいないし。

 食べるから、あたしにちょーだいよ」

 あぁ、いるのよね、こーゆーコ。

 メイクは濃いけど、わりと地顔は整って可愛いコだから、店長もからまれて悪い気はしないのかと思ったら、本気で困ってそう。

 しかたない。ここは助け舟でも()ぎだしてやろうか。


「フードロス防止とか、書いてあるじゃん?

 そのくせ、食べられるやつ、ぽいぽい捨てるわけ?

 おかしくない???」

 消費期限のはやい順番からならべてあるところに、「手前どり」を呼びかけたポップ。そこには、たしかにそう書いてある。

 このコの言いぶんも、100%まちがってるとはわたしだって思わない。

 はじめのうちは、廃棄処分のサンドイッチを捨てるのに、ずいぶん罪悪感があったものだ。

「世界には食べものなくて、飢え死にするひととかいるのに、食べられるもの捨ててるんだよ。

 そのひとたちに悪いとは思わないわけ?

 だから、せめて食べもの無駄にしないように、わたしが食べるって言ってるじゃんねえ。

 わかんないかな?」

 いや、捨てずにこのコが食べてたって、飢え死にするひとはひとりも助からないってば。

 どこから、そんな屁理屈をもってくるんだか。

 あきれたわたしは、屁理屈には屁理屈で返してやろうと試みることにした。


「ねえ、ちょっといいですか?

 あなた、サンドイッチを捨てちゃうのはもったいないから、自分にくれてもいいでしょって言ってるのよね?」

「は?

 なに、お姉さん、店長を説得してくれるの?」

 わたしの突然の介入に、警戒を見せる彼女。

 その気合いの入ったファッションに、頭からつま先まで目を走らせてやる。

「ずいぶん、オシャレですよね。

 このぶんだと、下着も可愛いやつ、つけてるんでしょ?

 くたびれてよれよれのやつなんか、とっとと捨てちゃうことでしょうね」

「……なにが言いたいのよ?」

 じろり、と(にら)みつけてくる彼女にかまわず、わたしはつづける。

「ブラやパンツどうせ、捨てるなら。

 もったいないから、ちょうだいって言われたらどうしますか?」

 そこで、わたしはちらり、と意味あり気に店長へ目をやる。

「たとえば、そこらへんにいるおじさんから」



「いや、ないんだけど、そーゆーの!

 マジでキモい!

 着られなくなって捨てるのと、食べられるのに捨てるのは違うくない?!

 あたしのパンツで何するわけ?!」

「着るんですよ」

 わたしはこともなげに答える。

「女性の下着を好んで身につける男性、わりといるそうですよ? パンツだけじゃなくてブラだって」

 そしてまた、ちらりちらりと店長へ意味深な目線。

「かといって、自分で女性の下書き売り場で買うのは恥ずかしいから。

 どうせ捨てちゃう下着なら、もらってつけたいおじさん、いると思いません?」

「いや、キモい!

 ネットで買えよ!!」

 うん、わたしもそう思う。

 でも、悪いけどこの場では、彼女に同意してやるわけにはいかない。


「ほかのひとには着られても、あなたはもう着られないと判断したから捨てるんでしょう?

 うちの商品も、お客様から食べられると判断されても、うちとしては販売できないって基準があるから処分するんです。

 どっちも、捨てちゃうから。もったいないからって、だれかにあげちゃってかまわないわけじゃあ、ありませんよね」

 わたしの、論破と呼ぶにはあまりにひどい屁理屈に。彼女はしばらくのあいだ「ほんとキモい、ありえない」なんてつぶやいていたが。

 しぶしぶ、たまごサンドとソイラテをお買い上げになって帰っていった。つぎに来店しても、もうごねることはないだろう。


「めんどうなコでしたけど、説得できてよかったですね。

 食べられるものを捨てるのもったいないってきもち、わかるから難しいところですけど」

 廃棄商品の処分がおわって、店長に声をかけたわたしだが、彼はそれにすぐには答えず。

 しばらくたってから、絞り出すようにこう言った。

「下着の件。世の中そうゆう趣味のひともいるだろうけど——ぼくはちがうからね」

 店長はそれきり、その日はあまり口をきいてくれずに。トラブルを解決したわたしを、()めようとしてさえくれなかった。



 ちなみに、あのギャルっぽいコはつぎの日からも、よくサンドイッチを買いに来てくれるようになったが。

 店長より、わたしにレジをうってもらいたがったのは、余計な話だ。

 レディースの服を着るのが好きな男性、多いですけどね。



挿絵(By みてみん)

制作:歌川 詩季


挿絵(By みてみん)

制作:冬野ほたる先生



※ 下↓にリンクがあります

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【出張元・姉妹作】
【ウタほたるのカケラ】〈FH〉
作者:冬野ほたる先生
― 新着の感想 ―
[良い点]  ナイスな返しでしたね。頭ごなしでない分、ギャルっぽいコもあとで冷静になれたのかもしれません。腹立ててしまうと、そのあと来てはくれないでしょうから。  店長さんは……自分でうまく対処でき…
[良い点]  こういった屁理屈?論破?のような頭を使う系は、頭の中がわちゃわちゃしてしまい苦手なので、「わたし」は冷静によく対処したなぁと思います。わかりやすかった。笑  特殊な性癖にされちゃった店長…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ