どうせ捨てちゃうからって(ウタほたるのカケラ〈US〉出張版【サイズM】第1iM片)
ちょっと、えっちな部分があります。
※noteにも転載しております。
わたしのバイト先は、手づくりサンドイッチ屋さん。
平日のこの時間は、冴えないおじさん店長とのふたりシフトだ。
これから商品の鮮度管理で、消費期限が間近なやつを廃棄するとこなんだけど。
店長が、なにやらギャルっぽいコにからまれてるみたい。
「てか、どーせ捨てちゃうならいいじゃんか。
もったいないし。
食べるから、あたしにちょーだいよ」
あぁ、いるのよね、こーゆーコ。
メイクは濃いけど、わりと地顔は整って可愛いコだから、店長もからまれて悪い気はしないのかと思ったら、本気で困ってそう。
しかたない。ここは助け舟でも漕ぎだしてやろうか。
「フードロス防止とか、書いてあるじゃん?
そのくせ、食べられるやつ、ぽいぽい捨てるわけ?
おかしくない???」
消費期限のはやい順番からならべてあるところに、「手前どり」を呼びかけたポップ。そこには、たしかにそう書いてある。
このコの言いぶんも、100%まちがってるとはわたしだって思わない。
はじめのうちは、廃棄処分のサンドイッチを捨てるのに、ずいぶん罪悪感があったものだ。
「世界には食べものなくて、飢え死にするひととかいるのに、食べられるもの捨ててるんだよ。
そのひとたちに悪いとは思わないわけ?
だから、せめて食べもの無駄にしないように、わたしが食べるって言ってるじゃんねえ。
わかんないかな?」
いや、捨てずにこのコが食べてたって、飢え死にするひとはひとりも助からないってば。
どこから、そんな屁理屈をもってくるんだか。
あきれたわたしは、屁理屈には屁理屈で返してやろうと試みることにした。
「ねえ、ちょっといいですか?
あなた、サンドイッチを捨てちゃうのはもったいないから、自分にくれてもいいでしょって言ってるのよね?」
「は?
なに、お姉さん、店長を説得してくれるの?」
わたしの突然の介入に、警戒を見せる彼女。
その気合いの入ったファッションに、頭からつま先まで目を走らせてやる。
「ずいぶん、オシャレですよね。
このぶんだと、下着も可愛いやつ、つけてるんでしょ?
くたびれてよれよれのやつなんか、とっとと捨てちゃうことでしょうね」
「……なにが言いたいのよ?」
じろり、と睨みつけてくる彼女にかまわず、わたしはつづける。
「ブラやパンツどうせ、捨てるなら。
もったいないから、ちょうだいって言われたらどうしますか?」
そこで、わたしはちらり、と意味あり気に店長へ目をやる。
「たとえば、そこらへんにいるおじさんから」
「いや、ないんだけど、そーゆーの!
マジでキモい!
着られなくなって捨てるのと、食べられるのに捨てるのは違うくない?!
あたしのパンツで何するわけ?!」
「着るんですよ」
わたしはこともなげに答える。
「女性の下着を好んで身につける男性、わりといるそうですよ? パンツだけじゃなくてブラだって」
そしてまた、ちらりちらりと店長へ意味深な目線。
「かといって、自分で女性の下書き売り場で買うのは恥ずかしいから。
どうせ捨てちゃう下着なら、もらってつけたいおじさん、いると思いません?」
「いや、キモい!
ネットで買えよ!!」
うん、わたしもそう思う。
でも、悪いけどこの場では、彼女に同意してやるわけにはいかない。
「ほかのひとには着られても、あなたはもう着られないと判断したから捨てるんでしょう?
うちの商品も、お客様から食べられると判断されても、うちとしては販売できないって基準があるから処分するんです。
どっちも、捨てちゃうから。もったいないからって、だれかにあげちゃってかまわないわけじゃあ、ありませんよね」
わたしの、論破と呼ぶにはあまりにひどい屁理屈に。彼女はしばらくのあいだ「ほんとキモい、ありえない」なんてつぶやいていたが。
しぶしぶ、たまごサンドとソイラテをお買い上げになって帰っていった。つぎに来店しても、もうごねることはないだろう。
「めんどうなコでしたけど、説得できてよかったですね。
食べられるものを捨てるのもったいないってきもち、わかるから難しいところですけど」
廃棄商品の処分がおわって、店長に声をかけたわたしだが、彼はそれにすぐには答えず。
しばらくたってから、絞り出すようにこう言った。
「下着の件。世の中そうゆう趣味のひともいるだろうけど——ぼくはちがうからね」
店長はそれきり、その日はあまり口をきいてくれずに。トラブルを解決したわたしを、褒めようとしてさえくれなかった。
ちなみに、あのギャルっぽいコはつぎの日からも、よくサンドイッチを買いに来てくれるようになったが。
店長より、わたしにレジをうってもらいたがったのは、余計な話だ。