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第五話 大叔母カエ

ここまでお読みいただきありがとうございます。

今回はラストにカラーの挿絵を添えました。

 ◇◆◇◆◇◆


 総一郎の独白


 あゆ、お前が手にした鈴付きの工芸品、それはカエが大事にしていた遺品だよ……。

 もう五十年くらい昔の話だ。カエはわしの妹でな、たしか昭和六十二年の冬に亡くなったんだよ。


 あゆはもちろん知らない事だが、この家は昔からこの地域では有力者の家系でな、村のまとめ役などを務めていた。終戦後にわしの父、あゆの曾祖父(そうそふ)は事業のために東京にでて、そこに別宅を構えるようになりあまりこの家にはいなかったが、わしと妹はそんな東京で生まれ育った。


 しかし、あれは生まれつき心臓の病気を抱えていて体が弱かった。幼いころから入退院を繰り返していてな、戦後でもあり治療の手段も限られた昔の事で、改善の見込みもなくなり空気が良いことで療養をかねてここへ越したんだよ。そんな三つ違いの妹が不憫で、なにかできないかと思ってその時にわしも一緒にここへ越してきた。


 分校に通うにも登校途中ですぐに息が上がり一度も通学できず、自宅の中でほとんど過ごす始末だった。農家の手伝いをして育った周りの子どもたちとは違い、体力のない色白の妹だった。

 両親も時折訪れてはカエを哀れみつつも人形のようにかわいがり、高価な服や色んなものをなんでも買い与えたし、日当たりのよい部屋が必要だからと家を増築し一階の隅に庭の見える部屋を作った。


 今のあゆの部屋がそうだが、カエは出窓から外を眺めてはいつも寂しそうにしていたのを覚えている。


 もちろん外へ出ることもほとんどなくなり、もともと存在があまり知られていないカエだが、いつしか近所の子どもたちの間で噂になっていた。あの屋敷には女の子の幽霊がいると。


 そして肝試しと称して忍び込んでくることが一時流行った。


 子どもたちは無断で屋敷内に入り、わしや女中が見つけては叱る事もあったし、屋敷の周辺をうろうろしていると、事情を知る近所の大人にさえ怒られることもあったが、いかに屋敷に忍びこみ幽霊をみつけるかということが、子どもたちの最高の遊びになりしばらく続いていたが、なかにはカエを見つけてその様子を知り、仲良くしてくれた子もいたんだが、カエが亡くなるとそんな騒動も静かになったな……。


 当時の葬儀は土葬でな、わしや父も棺を担ぎゆっくりと歩いた。先祖伝来の墓地に数メートルの穴を掘りゆっくりとロープで降ろし、住職の読経がしめやかに響く中で棺に肉親らが代わる代わる土をかけたもんじゃ。


 色白でほんとうにかわいい妹だった……。

 


 ◇◆◇◆◇◆



 おじいちゃんの話の後、お父さんも帰ってきて一家四人で団らん……なんて気分には当然なれず、すぐ部屋にこもっちゃった。畳に寝っ転がって、どこを見るでもなくぼうっとしていた。


 おじいちゃんの一言一言を噛みしめるように聞き、カエはわたしにとっておじいちゃんの妹で大叔母にあたり、わたしより少しだけ年上で若くしてこの世を去った。彼女の病気を抱えた短い生涯は、自分には想像もつかない苦しさや悲しみを抱えながら過ぎていったのかもしれないと思うと胸が苦しくなる。


――事実を知り余計に頭が混乱してきた。なぜ亡くなったカエを感じられたんだろう? この家に越してから今日の神社までのこと、あれはまごうことなく、わたしにとって実際の体験だと思えるから。

 

でも、やっぱり幽霊なのかな?

リュックからガラス玉を取り出して振ってみる。


 付いている鈴が「ちりん」と鳴って、ついつぶやいちゃった。


「カエ……」


「呼んだ?」


 ええっ!!! がばっと起き上がって部屋の中を見渡すと部屋の隅に和服姿の女の子が! 


「カエ⁉」

「やっと呼んでくれたね、嬉しいよ。再従姉妹(はとこ)ちゃん」


 不意をついた返答に心臓が飛び出しそうになっていたけど、彼女は更に言葉をつづけた。


「おやおや、呼んでおいて驚くなんてかわいいかわいい。うふふふ」


 ひゃあ~、現実に目の前にして言葉まで聞いてしまうと、カエに会ってみたいという気持ちとは裏腹に、脇や首筋にへんな汗が噴き出しているのを感じちゃう。でも、自分で望んでいた事だから、お話を続けずにはいられなかった。


「ほんとにカエなの? ……もしかして幽霊なの?」

「幽霊とは失礼ね。私はそうね……、俗にいうところの座敷童なんだ。これでも頑張って、君に見えるようにしているんだけどな」

「ほんとにいたんだね。急なことでびっくりしてごめんなさい。でも心臓が止まるかと思った」

「あら、それじゃ私と一緒になっちゃうよ」


 カエは視線をわたしに向けて座っていた。でも、はっきりとした感じではなく少し影が薄いというか透けている感じがする。腰上まですらりと伸びた黒髪に白い肌、目はぱっちりとして、断然わたしより可愛い。


 (あい)色の着物を着て上には白い(かみしも)というかなんていうのかな、よくわからないけど、お巫女さんより格式があるというかなんというか……そんな身なりでした。


「あっこの上着のこと? これは(かく)()というもんらしいよ。最近いつのまにか着ていたから私もよくわからないんだ。あはは」

「背格好や年齢はわたしとそんなに変わらないけど、どこか話し方に威厳があるような……」

「そりゃそうでしょうよ。いい事、私は生まれてもう七十年をとうに過ぎているんだから。ちょっとは良い恰好をしないとね。ねえっ、判ったおちびちゃん」


「おちびとは失礼な! あなただって同じぐらいじゃない。それにわたしにはあゆって名前があるの!」いきなり現れたカエとけんか腰になるわたしでした……。


「ははぁ、怒った顔も可愛いよ。そう、あゆだった。いい名前だ」

「そうよ、ちゃんとした名前があるんだからね。お父さんにもらった名前が」

「ん~、若鮎のようにかな、元気がありそうでいいんじゃない?」

「そう思うなら、そう呼んでよ」

「おちびちゃん」

「また、そう呼ぶ!」

「はは、ごめんごめん。今日は嬉しくてね、ちょっと色々と軽率だったかも。……あゆ、改めて今日は本当にありがとう。ハルにやっと会えた。それというのもあゆ達が、この家に帰って来てくれたおかげだよ」


「それって、どういうことなの?」カエの唐突な話に困惑した。


「あ~っ、そうね。少し私の事を話しましょうか……これからの事もあるし……」

「うん、聞きたい。とっても聞きたい。なぜあなたが見えて、お話までできるのかも……」


「わかったわ」


 カエはそう言うとわたしの傍に歩み寄って座り込んだ。途中の歩く姿は、すっと整いきれいだった。そんな姿にわたしも自然と正座になっている。電灯に照らされても影がない。ほんと幽霊って感じだけど。


 もう(さわ)れるかどうかの近さだよ。すごくドキドキする。さわってもいいのかな? いや触れないのか? 近い距離で見るカエの顔、本当にきれい。そのきらめき見据えるような瞳に吸い込まれそうだった。わたしと違って美少女ってやつだ。


「さっき兄いさんに聞いたでしょう、総一郎じいさんに。まあこう呼んでもいいでしょ、年齢も私とだいたい一緒だし。……確かに、私は五十年ほど前にこの家で死んでいる」


 カエは長い髪をたくし上げながら微笑み、語りはじめたのでした。



挿絵(By みてみん)

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