表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/6

須田きとらは文芸をメインに創作して

#3

 須田(すだ)きとらは文芸をメインに創作して音楽も絵もこなし、芸術思想にきわめて詳しく、学校では俺のうしろの席だが、とある春の日、前触れなく、昼休みが始まるやいなや俺の肩にちょんちょんと触れ、

黒之瀬(くろのせ)くん、お願い……ゲームセンター、連れてって……」

 と言い出したものだから驚愕した。

 どういう経緯でそう思った?


 特定のゲーセンが目当てなのは察した。

 高校から徒歩五分、駅の東口にある昔ながらの世紀末魔窟。

 または宇宙人のたまり場。

 俺がたまに行くときとらに話したことがあった。


 彼女はうつむいて多くを語らず、

「ひとりは心配だから、いっしょに……」

 と繰り返した。


 ゲーセンに限らず、あの騒がしい界隈はぶっちゃけ治安が悪いので、箱入り娘(?)をつれていくのは忍びなく、最初は断った。


 すると五・六限のあいだじゅう背後から失意の波動を浴びつづけることになった。

 ふりむいてみると、それはもう持ち家を借金で取られた人みたいにわかりやすくうなだれている。

 ヤバげな詩がノートの上で完成しているおまけつきだ。



  イタコと墨をめりこませ

  とりもあえずに竿竹吊るし

  諦観susugaに吐き気の捨てる側溝……



 これを放置すればオシラサマとかケツァルコアトルとかに祟られそうだ。


 授業が終わってすぐ、「やっぱり行こう」と告げた。


「……!」


 目を丸くして血色を蒼白から桃色にしていくきとらだった。




 地理を説明しておこう。

 この学校があるあたりは、三つの駅に五つの路線が交わって、昭和の頃から栄えている。

 放課後は食うとこ・遊ぶとこに困らない。

 そのため堕落した赤点パーソンを量産する。

 そして大人の酒飲みにとっては二十四時間どこでも飲めて騒げて天国だとか(俺たちにはまだ関係ない、はず……)。


 逆にいうと、静かに暮らしたい子育て世帯や金持ちは寄りつかない。

 住みたい町ランキングでは必ず下から数えてすぐ見つかる。


 そんな地域に登校してくる須田きとらは、まさに「掃き溜めに鶴」じゃないだろうか?

 聞けば、高級住宅地のT山(ランク最上位)から電車を乗り継いでくるという。

 頭も環境も悪いこんな高校をどうして選んだ?

 わけがわからん。


 そんな彼女を連れた下校ルート。

 繁華な国道沿いを歩き、鉄道高架をくぐり、人だらけの横断歩道を渡る。


 カラオケ屋の横の小道からせせこましい界隈に入った。

 路上駐輪が多く、老若男女がガヤガヤうるさい。

 台湾風とかいう唐揚げの店がパチパチと鶏肉を揚げている。

 ラーメン屋の換気扇からはとんこつの風が乱舞。

 おおっ、タピオカミルクティーの店、まだ潰れてないのか!


 ゲーセンはよく目立つ場所にある。

 デカいパチンコ屋の隣だ。


 会いたくないやつが来てないか先に確かめたかった。


「ちょっと待ってて」


 きとらを入口前に残して中へ。


 奥の奥にある、格ゲーコーナーを覗く。

 見ない顔ばかり座っていて、やつはいない。

 よし!


 店の前にもどると早速きとらがチャラ男にナンパされ手を握られていた。

 これが我が地元の低モラルだ。

 山道でトラックに出くわした鹿みたいに固まっていた彼女を、俺はすばやくチャラ男から引き剥がし、ゲーセンに連れ込んだのだった。




 きとらがナンパのショックからハッと我に返る。

 この場のうるささとタバコ臭さで正気に戻されたのだろう。

 いつものオドオド顔になり俺の背中にかくれた。


 今どきはショッピングモールとかのゲーセンなら禁煙で音量おさえめなのだが、一方こちらは魔窟だから配慮なんてない。

 神経の細いヒョロガリは来るなという主義だ。


 暗く狭いフロアに置けるだけ置いたみたいなゲーム筐体の画面の輝き。

 プライドをかけて戦う猛者たちの熱気。

 きとらは歩きながらそれらをしげしげと見る。

 お嬢さんの興味対象はよくわからんわ。


「ねえ、黒之瀬くん」と、きとら。


「?」


「黒之瀬くんが遊んでいるところ、見てみたいっ」


 騒音で聞こえないふりをすりゃ良かったものを、まあいいや肩慣らしでやっとくかと考えたのがミスだった。


 格ゲーコーナーへ歩いていく。

 

 そこで、テカテカの青いジャケットを着たやつが両替しているのを見つけてしまった。

 その男は髪を七三で固め、財布はブラックカードを覗かせる。

 ジャケットと革靴はイタリア・ミラノの現地でご注文(ウン十万円)。

 親に任されたマンション経営の儲けをゲーセンにぶっこむ二十六歳独身男性・藪下(やぶした)だ。


 俺に気づくや、大熱波のような笑顔になって言った。


「黒之瀬! ドバイ大会来いよ!」


「……前も言ったでしょ、もっとガチの奴と組みゃいいって」


「僕はいつでもガチれる。でもお前には世界の雰囲気を感じてレベルアップしてほしい。早く顔を売っとけばプロゲーマーとしてスポンサーもつきやすいぞ」


「俺は実家の八十八種類の料理と四十九種類の酒のプロにならにゃならんのです」


「鍛えていけばお前は世界とやりあえる。絶対に保証する」


「そこまでゲーム好きちゃうし」


「家業はあとでも継げるだろう。ゲーマーの旬は反射神経が落ちてからではキツいぞ? なあ来いよ! 旅費は主催者持ちだぞ! 楽しいぞ!」


「めんどくせぇ人……」


 直前まで、店の裏口を出たところの自販機でメロンソーダを飲んでいて、今もどってきたのだという。

 藪下がいると知ってりゃ、こんなコーナー来ないでUFOゲームとかで平和に過ごせたのに。


 はーあ。

 なにがドバイじゃ。

 俺は嫌いなんだよ、飛行機が!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ