異世界に転生したと思ったら、俺がプレイしてたゲームの世界だった。-それでなんで転生先が、女性キャラなんです?-
「シオン、済まないが回復を頼む!」
「分かりました、無理はしないでくださいね! 『治癒の術』!」
離れた場所で戦う仲間からの呼びかけに、杖を振りかざす。
杖は光を放ちやや生気を失ったように感じた仲間の表情が、再び活力のみなぎるものへと変わっていった。
「すまない、助かった! さてもうひと頑張りといこうか!」
傷が癒えた彼の活躍により、敵陣は乱れ私達は目的の場所を占領することができた……今回の戦いはこちらの勝利だ。
そう……この世界は今、大きな戦乱の最中だった。
小さな小競り合い程度の争いはやがて国と国との大きな争いに発展し、次第に大陸中の人々を巻き込んだ。
大陸に存在する3つの国家が巻き起こすこの戦いは、終りが見えないまま混迷を迎えていた……。
……というのが今『俺』が住んでいるこの世界の現在の状況である。
俺の本当の名前は佐藤志遠、日本に住むどこにでもいるような平凡な学生だった。だが幼い頃からの難病が悪化し、病院で死亡してしまう。
そして気がつけば俺は『シオン』としてこの世界へと転生していた。……もっとも、前世の俺の記憶が戻ったのは、少し前に起きた戦いのショックによるものだが。
前世の記憶が戻り気がついたのだが俺が今いるこの世界の現状、なんと病室で俺がプレイしていたSRPG『フレイムサーガ(通称:フレサガ)』の世界と瓜二つなのだ。
そして俺が転生したシオンはこのゲームに登場する『女性』キャラの一人だ……俺は女性となっていたのだ……前世は男だったのに。
(男キャラじゃなく女キャラってなんでだよ……あっ、もしかして名前繋がりか?)
突如としてシオンの中に眠る俺の記憶が目覚めた時、俺は呆然としていた。
シオン……正式な名前はシオン=フォン=ピクト。3つのルートのうちの一つアーティア共和国のルートを選んだ場合に仲間となるキャクターで、アーティアルートでは唯一の序盤から育成できる女性ヒーラーだった。
美しい銀髪と褐色の肌にルビーのような赤き瞳を持ち、マイナの伝統衣装である落ち着いた雰囲気の青い衣装を身に纏う清楚な雰囲気の17歳の少女である。
アーティアの大貴族ピクト家の令嬢であった母と大陸に住む少数民族マイナの族長であった父を持つ彼女は、癒やしの力を持つ里の巫女としてマイナで暮らしていた。
だが里を巻き込んだ戦いにより両親が死亡し同胞の人々も僅かな生き残りを残すのみとなったため、母の実家の有力貴族に引き取られたのだ。
その生い立ちとデザインの秀逸さ、そして健気に仲間を支え続ける姿勢から人気キャラクターの一人となり俺も愛用していたキャラであった。
というわけでゲームキャラとしてはお気に入りのキャラだったのは間違いないし愛着もあるのだが、彼女として生きろと言われると話は別である。
そしてなによりシオンには俺が何よりも頭を抱える事情が存在した。
(ペアエンド……どうなるのかなぁ)
このゲームには絆イベントというシステムがある。
段階ごとにキャラクター同士の特別な会話が見れるシステムで、戦場での行動でポイントがあがり絆ランクが上がっていくというものだ。
各キャラクターごとに決まった組み合わせのものが用意されていて、基本的に最高ランクのAまで上がるキャラとはエピローグでペアエンドと呼ばれている特別な後日談が用意される。
ランクが足りなかったり内部で累積される絆ポイントが他の成立ペアに負けていればソロエンドになるのだが、シオンはヒーラーなので癒やしの杖を使うだけでポイントがどんどん溜まっていく。
そのためゲームにおいてもこのアーティアルートを通る場合は特殊な縛りでもしない限りは、ほぼ確実にペアエンドを迎えてしまうのだ。
(会話の流れ的にペアエンドあってもいい子複数いたのになあ……)
そしてシオンにも女性キャラとの縁会話は用意されていたが、Aまで上がるキャラは男しかいないのだ……どういうことだよスタッフさん。
俺とペアエンドが用意されている男キャラクターは総勢8人だが現在自軍にいるのは4人だ。
(今のとこみんな最初の絆イベントがすでに発生してるんだよな……)
『いけませんフラヴィオ様、私などと関わってはあなたも家中での立場が……』
『シオン、私にとって君も大事な家族だ。たとえ父や母、兄上が何を言おうともね。だから私を頼ってくれ』
一人目はシオンの……俺の従兄弟にあたる人物で、アーティア北部の大貴族ピクト家の次男であるフラヴィオ=フォン=ピクト。
最初から上級職である聖騎士であり強力な専用武器も携えている序盤のエースユニットで、成長率そのものは高いわけではないがそれでも終盤まで問題なく使っていける。
ピクト家において俺は異民族であるマイナの血を引くため冷遇されていたのだが、彼はそんな俺も家族として扱い大事に接してくれる。
貴族としてもその立場に奢らず誰とでも真摯に向き合い、日々その立場と責務に相応しい人物となるよう励んでいる。
ゲーム中のシオンも彼の優しさに次第に心を開き、ペアエンドを迎えると彼に輿入れすることになりピクト家を継いだ彼を公私共に支えることになる。
そして当然のことながらこのキャラ付けだからイケメンである。輝く金髪に俺と同じ赤い目、そして引き締まった肉体……女性ユーザーも多いこのゲームはイケメン・イズ・ジャスティスなのだ。
『おうシオンさん、無理すんなよ。その荷物、オラが持ってやるから』
『すいませんマイク様、私に任された仕事なのに手伝ってもらって……』
『いいっていいって気にするな。あんたの小せえ身体より、オラのでけえ身体のがこういうのは向いてんだ。適材適所だな、うん』
二人目はマイク=ハートランド。アーティアの山奥にある小さな村に住む平民の男性だ。
両親は都に店を構える行商人だったのだが、彼の幼い頃に賊に襲われてなくなってしまい母方の祖母に引き取られた。
幼い妹と祖母の食い扶持を稼ぐためその恵まれた体格を活かし、傭兵としてこのアーティア軍に参加する。
筋骨隆々な肉体にいかつい顔つきと所謂イケメンキャラではないのだが、その人間性の善良さと家族思いな姿にファンも意外と多いナイスガイである。
序盤から参戦しピーキーな能力の伸びを見せるが、うまくハマれば鉄壁の防御に圧倒的な攻撃力とすさまじいユニットとなる。
彼とペアエンドを迎えるとマイクの家族が住む山奥の村で共に生活することとなり、慎まやかだが幸福な家庭を築くという終わりになる。
『クラウス、あなたが無事で本当に良かった……』
『姉さん、ごめん。君を守るのが僕の使命なのに、僕は魔剣の力に飲まれて……』
『いいのクラウス、気にしないで。こうしてあなたとまた一緒にいれるだけで私は嬉しいわ』
3人目のキャラはクラウス=レングナー。彼は俺と同じくマイナの出身であり、里においてその守護者となるべくして鍛えられていた。
俺の絆イベント相手の中では唯一年下であり、幼い頃からまる実の姉弟のように共に過ごした。
里で起こった動乱の中俺と離れ離れになってしまい、己の無力さを呪った彼はこのゲームの中ボスである暗黒騎士より呪われた魔剣を授けられる。
そして主人公達と敵対することになるが、この際にシオンが説得した後に撃破することで生存ルートが発生して仲間になるのだ。
仲間になった彼はその才覚をメキメキと発揮し自軍の戦力の中でも中核を担う……はずだったのだが、バグで成長率がモブ兵士と同じになってしまい全キャラ屈指の弱キャラとなってしまう。
特にダメージに影響する力の期待値が物理職ではない俺とほぼ同一のものとなってしまい、守備の期待値に至ってはこちらの方が高くなってしまうため守護者とは一体……ということになってしまった。
そんな彼だが共にペアエンドを迎えると一緒に里に戻り、生き残った同胞達と里を復興していくことになる。
責任者となったシオンの傍らには、常にクラウスが寄り添っていた……という個人的には結構好きなペアエンドだ。
……最も将来的に自身がそうなりたいか問われると、言葉に詰まってしまうが。
そして相手候補の最後の一人は……と思ったところで、俺は声をかけられたのでそちらを振り返る。
「シオン、さっきは助かったよ」
振り返った崎には紺色の短く切りそろえられた髪に緑の瞳を持ち、黒を基調とした軽鎧に身を包む精悍な雰囲気の青年がいた。彼がこのゲームの男性主人公であるセシルだ。
男女選択性の主人公であり女性主人公の場合は、紺色の長髪に大きな胸の主張が目立つ体のラインが浮き出る軽装といった格好になる。
そして彼は俺が所属するアーティア軍で軍師として采配を振るいながら、自らも愛剣と共に戦場を駆け巡っていく戦う戦士でもあった。
クラスは軍師で物理と魔法両方の攻撃を高い水準で扱える万能タイプのユニットであり、まさに主人公の面目躍如といった活躍を見せる。
男ならイケメンで女なら美女であり、このゲームの美形・イズ・ジャスティスを体現しているのであった。
そんな彼がセシルという名前以外の記憶を失っている彼がその記憶を取り戻した時、物語は終盤を迎える……もっとも現時点ではまだまだ遠い話だが。
「私は自分の役目を果たしただけですから。でもセシル様のお役に立てたなら嬉しいです」
俺は笑いながら向けてそう答える。ゲーム中でのシオンと同じ行動だ。
どうやらその笑顔を見て照れてたのか、「あ、うん。本当にありがとう」と呟いてセシルは真っ赤になって顔を背ける。
……こうして目の前で行動見せられるとすごくあざといなこの主人公。
「でもあまり無理はなさらないでくださいね? 『治癒の術』も万能ではありませんから……」
そう言って俺は頭一つ分は背の違うセシルを見上げながら、心配そうにそう述べた。
ヒールが万能ではないというのはその通りで、既に死亡していたり致命傷を追った人物には効果はない。……里が襲われた時に、俺の中のシオンの記憶はそのことを実感している。
ちなみに俺の話す時の口調だがシオンとして過ごした記憶が存在するのと、フレサガをプレイした記憶があるため自然と彼女そのままのものとなる。
立ち振舞も当然彼女のこれまで培ってきたものとなるのだが、さも当然のごとくそれを行う自分の体に恐怖を感じなくもない。
……『俺』としての前世の記憶戻らないほうが変な悩み抱えずに済んだのではないだろうか?などと思ってしまうが戻ってしまったのは仕方ないだろう。
「大丈夫、そのあたりは弁えているよ。ところでシオン、話は変わるんだが」
「……なんでしょうか?」
セシルは気まずそうな表情を見せながら、突然こちらに頭を下げてきた。
「先日の一件、本当に済まなかった……!」
「えっ!? あ、あれは私も不注意でしたから謝らなくても……!」
「しかし女性の入浴の途中に乱入してしまうなんて、男として一生の不覚だ……謝らせてくれ……!」
そう先日の一件……それは俺がお風呂に入っている時に、セシルが乱入してきたという話だ。
(こうして見ると、俺本当にシオンになっちゃったんだな……)
あの事件の時、俺は戦いを終え疲れた身体を癒そうと湯船に浸かっていた。
戦い続きでこうしてゆっくりと汗を流すこともなかったので、改めて自身の体をまじまじと眺めシオンの身体であるということを実感していた。
(……ゲームだと裸なんて見ることなかったし、こうしてじっくり見るとなんだか恥ずかしいな)
このゲームは年齢制限の緩いゲームであったため、こうした肌の露出の描写は当然抑えめだった、
だが今はその世界にいる人間として実際に目の当たりにしているのだ。
その事を意識してしまうとなんだか落ち着かない……そんな風に感じたその時だった。
『ふうっ、久々の風呂だ。助かるなぁ』
ガラガラという音と共に扉を開けて入ってきたのは、セシルその人だった。
『セ、セシル様!? 何故ここに!?』
今は女湯の時間だから男が入ってくるなんてありえないはずだ。
一体何をしてるんだこいつは!?
そんな事を考えながら俺は体を見られないよう両腕で胸を抱え込み、身をかがめる。
『えぇっ、シ、シオン!? 何故君が!? まて、これはそういうあれじゃないぞ!』
俺が先客として入っていたことに気づいたセシルが慌てて釈明を始める。
だが当然何一つ身につけていない状態だったため、彼の立派な槍が盛大に揺れているのが視界の端にちらりと見えた。
……やめろ、そんな物を見せるんじゃない! いや前は俺にもついていたものだが!
『そ、そんなことはいいから早く出ていってください!』
『わ、分かった。すまない!』
俺の言葉を受けセシルはそそくさと退出する。
気恥ずかしさで自分の顔が真っ赤になっているのを感じながら、俺は思い出す。
……セシルと女性キャラの最初の絆イベントは、彼が風呂に入ろうとして入浴中の女性キャラに遭遇するものになるのだったと。
「でも元はと言えば私が時間を間違えていたのが原因ですから……」
そう原因はこちら側にあった。なんてことはない、入浴時間を1時間程遅れて勘違いしていたのだ。
セシルからすれば風呂場が空いていると思ったのは当然で、この件に関しては完全に俺に非がある。
「だが婚前の女性の裸を見るなど、あってはならないことだ。責任を取らせてくれ!」
「せ、責任と言われても……」
真面目で誠実なところは彼の美点だとは思うが、流石にここまでされると困惑してしまう。
どうしようかなと少し考えて、俺は口を開く。
「だったら次の戦いが終わったら、こうしてまたお話をしましょう?」
「えっ、そんなことでいいのか?」
「はい。だって二人でこうしてお話できることが今は何よりも素敵なことですから」
……うん、我ながらいい感じの提案を出来たんじゃないだろうか。
このあたりゲームでどのような会話をしていたか忘れてしまったので、即興で考えてみたのだがすごくよくまとまった気がする。
それにこの戦火の中でこうして会話をできることが、何よりも素敵なことというのも本心の一つなのは間違いない。
……でもこの会話の流れセシルとの絆イベント1段目の後半にあった気がするな。
「そうか、シオンがそう言うのなら約束しよう。次の戦いの後もこうして二人で無事語り合おうとな」
「はい。私も楽しみにしていますね、セシル様」
そして一週間後、俺達は再び戦っていた。今回の相手はアーティア以外の国々ではなく、大陸中で暗躍する謎の集団だった。
俺は応戦した仲間たちを後方から援護し、戦局は一進一退となっていた……その時だった。
「姉さん、危ない! 伏せて!」
「……っ!」
クラウスの声に私は身を伏せると、その頭上を大剣の刃が横切った。
「ほほう、あれを避けたか。やはり奇襲などという無粋な真似はするべきではないな」
「あ、あなたは……暗黒騎士!?」
立ち上がった俺の眼前にいたのは巨大な黒馬に跨って全身を漆黒の鎧で纏い、強大な闇のオーラを背負った男。
……あいつの名前は暗黒騎士、かつてクラウスに呪われた魔剣を渡し魔の道に引きずり込み俺達と度々相まみえている謎の人物だ。
「クックックッ、貴様の支援を断ち切れば前線の連中も消耗していく一方になるだけよ。その生命、ここで刈り取らせてもらうぞ!」
「……くっ、やらせません! 『火球』!」
俺は初級の攻撃魔法である炎の魔法をつかい、奴を攻撃する。
魔術師が本職ではない俺だがゲームの仕様通りなら俺の魔力の伸びはかなりいいし、奴の魔法防御は物理のそれに比べ弱いはずだ。
倒せないにしても結構なダメージにはなる……そう確信していたのだが。
「このような子供の火遊びで我を倒すつもりか?」
「そっ、そんな……! 『火球』が……かき消された!?」
暗黒騎士は俺の予想外の行動を取る……大剣を一振りするだけで、俺の放った魔法をかき消したのだ。
唯一の攻撃手段である『火球』が通用しない以上、俺には対抗する手段はない。
だが奴の攻撃から逃げようにも、馬を駆る奴と徒歩の俺では間違いなく分が悪かった、
「姉さん! くそっ、こいつら邪魔を……!」
俺の元に向かおうとするクラウスだが、暗黒騎士の配下達に足止めされている。
……まずい、このままじゃ俺は確実に死ぬ。
フレサガにはロストというシステムがあり、主人公セシル以外のユニットはHPが0になった時点で死を迎える。
そしてその瞬間が目の前に来ていることを俺は感じていた。
「下らん、あれが唯一の抵抗だったようだな。あの小僧共々刈り取ってやろう!」
眼前に奴の大剣が迫る。もう終わりかと目を瞑り、最後の瞬間に備えた俺だがその瞬間は訪れなかった。
恐る恐る目を開けると、セシルが自らの剣で奴の大剣を受け止めていた。
「セシル様……!?」
「悪いね、暗黒騎士。彼女には僕との先約があるんだ……!」
「ふふふ、待ちわびたぞ我が好敵手セシルよ!」
大剣を受け止められた暗黒騎士は数度剣を打ち合うと一度距離を取り、再びこちらに向けて大剣を構える。
セシルは俺を庇うように前に立つ……彼の背中がとても頼もしく思えて俺は思わずその姿に見惚れてしまった。
「シオン、君は下がって」
「でもあの暗黒騎士相手に一人じゃ……!」
「大丈夫。我に秘策あり……ってね」
そう言ってこちらに微笑みかけるセシルの表情に、俺は不思議と安心感を覚える。
彼がそう言うのならきっとなんとかしてくれる……そんな気がしていた。
「いくら貴様といえど単身で我に挑めば結果は見えていよう?」
「どうかな? 勝負は時の運って言うだろ?」
「勝負けに不思議の負けは無いとも言うがな……はぁっ!」
大剣を手に馬でセシルに向け突撃する暗黒騎士。
だが彼はその攻撃をいなしつつ、時に反撃を試みようとするがうまく行かない。
「くくく、息が上がってきたのではないか? そのような状況でいつまでも耐えきれるかな?」
「やってみせるさ」
セシルの息遣いが荒くなっていく。いつまでも暗黒騎士の攻撃をいなしつづけるのは到底不可能だろう。
一体どうするというのだろうか。
そして数度暗黒騎士の攻撃を避け続けたその時だった。
「今だ、フラヴィオさん! マイク!」
「やり遂げてみせよう!」
「よっしゃ、任されたぜ!」
「むうっ!?」
セシルの掛け声と共に、身を潜めていたフラヴィオとマイクが暗黒騎士に襲いかかる、
咄嗟の攻撃を防ぎきった暗黒騎士だが、奴の持つ大剣にはヒビが入っていた。
「くっ、武器が破損したか。この状況では戦えん……勝負は預けるぞ!」
そう言うと暗黒騎士は呪文を唱え、自らの愛馬とともに消え去った。
クラウスを相手にしていた奴の配下も、後から来た仲間たちと共にクラウスが打ち倒したようだ。
「姉さん、無事で良かった!」
「クラウス、あなたも無事だったのね」
俺の姿を確認したクラウスが、走ってこちらへ駆け寄ってくる。
お互いに無事を確認しあい、俺はほっと一息つく、
「セシル様、ありがとうございました」
「礼なんて必要ないさ。大事な仲間を助けるのに理由なんていらないし、みんなで生き残る道を指し示すのが俺の役割だからね」
笑顔でそう答えるセシルは、なんだかとても眩しく見えた。
……なんだかゲームの作中で、どのキャラクターも彼に絶対の信頼を寄せる理由が分かった気がする。
「それに君との約束をちゃんと果たさないといけないしね」
「ええ、そうですね。楽しみにしています」
セシルからの言葉に俺は笑顔でそう答えた。
……約束どおりに二人で話せることを、本心から心待ちにする自分を感じる。
これは少しまずい兆候なのではという考えが脳裏をよぎるが、ひとまずはこの高揚感に身を任せようと俺は決めるのであった。