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友人ができました!

入学から一ヶ月が経ち、学園生活にも慣れてきた。


初めて見る生徒にはあいかわらずギョッとされるし、ドン引きされたクラスでは遠巻きにされている。とはいえ入学当初はヒソヒソクスクスされていたが今はチラチラ程度になった。

フィリアの存在があるからだ。


現在学園には第三学年に第二王子レオナルドが在籍しているが、その次に身分が高いのは公爵令嬢のフィリアだ。

そのフィリアがわざわざセラフィーナを教室まで迎えにくる。


「セラフィ、ランチに行きましょう」


優雅に微笑むフィリアに、教室内が静まり返る。


なぜ公爵令嬢がもっさりしているセラフィーナと?!と皆の心の声が聞こえてくるようだ。


セラフィーナ達が教室を出た瞬間、ザワザワした声が教室から漏れてきて、二人でクスクス笑った。


フィリアはこうしてセラフィーナの盾になってくれているのだ。嬉しくてお礼を言うと「わたくしの立場がセラフィのお役に立ててよかったですわ」と言ってくれる。


とはいえクラスが違うのでずっと一緒は難しい。そういうときセラフィーナは一人で図書館に籠って異国の本を読み漁る。


その日も一人で図書室に向かっていると、後ろから怒鳴り声が聞こえた。


「おい、セラフィーナ!」


来たな。


セラフィーナは一気に戦闘態勢に入る。冷静にと言い聞かせ、無表情を作り、声のした方へ振り向いた。

視線の先にはテディとそのとりまき達が見下した表情でセラフィーナを嘲笑っている。


「相変わらず辛気臭いやつだな!皆もそう思うだろう?!」

「本当に。みっともない容姿をして、あれで貴族令嬢とは」


いやな笑みを浮かべて同意しているのは侯爵家次男のアレン・リドリー。

リドリー家は当主も跡継ぎも実直で評判も良い家なのだが、なぜかこのアレンだけは違う。子供の頃からテディと一緒にいたせいか、気づいたときにはテディ二世のようになっていたらしい。リドリー侯爵は更正を試みているようだが、あまり成果はみられない。

学園でセラフィーナをみつけるといつもバカにしたように鼻で笑うアレンだが、セラフィーナは相手にしていない。


テディのとりまきをしている他の子息や令嬢達もクスクス笑ってテディに同意した。


「テディ様のような方にはとても似合わないですわ。早く婚約を解消されたらよろしいのに」

「そうですわ。あれではテディ様に失礼ですわ」

「僕もそう思っている。だが母上がこいつを気に入っている。まあいずれこんなやつとは解消だ」


いずれではなく今すぐしてくれ。

セラフィーナは喉まででかかった言葉をぐっと飲み込んだ。


ここまでは、この一ヶ月毎回のように繰り返されるやりとりだ。


侯爵家嫡男で見た目もそれなりに整っているテディは入学してすぐ女子生徒の人気が上がり、令嬢達を侍らすようになった。彼女達もセラフィーナの後釜を狙っているようで、会う度に不服を唱えてくる。セラフィーナにしてみればいつでも譲る気満々なのに。


むしろテディこそ、気に入った女性が現れたら婚約破棄だと言ったのだから、その中からさっさと選べばいいのにと常々思っている。

だが余裕があるせいか、テディはただ引き連れて歩いているだけだった。そして時々、こうしてセラフィーナに文句や嫌みを言いにくる。


前々回は休日にモルガン家を訪問しろと言われ、予定があると断った。侯爵家の自分を優先しろと言うので、公爵家との約束を後回しにしろというならテディが話をつけてくれと言うと、怒って去っていった。


前回は婚約者らしくとりまきに加われと言うので「無理です」ときっぱり言って立ち去ってやった。


さあ、今日はどのぐらいで撃退できるかと気合いを入れる。


「本日は何のご用でしょうか」

「お前の試験結果だ!あんなのはおかしいだろう!」


やっぱりその件か。


学園では定期的に行われる試験があり、成績優秀者は掲示板に張り出される。入学してから初めての試験で、セラフィーナは努力のかいあり学年二位の成績をとることができた。

絶対テディは絡んでくるだろうと思っていたが、予想どおりだ。


「おかしいと言われましても。私は入学前から勉学に励んでまいりましたのでその結果かと思います」

「嘘だ!お前が何かしたんだろう!僕はわかっているんだ!」


試験結果に関してはとりまき達は何も言うことがないようで、だんまりを決め込んでいる。さすがに言い掛かりだとわかっているのだろう。


「では教師のもとへ一緒に行きましょう」

「は?何を言っているんだ!」

「テディ様は私が不正したと仰りたいのでしょう。試験中は監督官もいらっしゃいます。不正が行われたとなれば、その方々の怠慢でもありますからね」

「い、いや、別にそこまでは言っていない!」


セラフィーナは糸目にしている目をさらに細めた。


「何が仰りたいのかわかりませんが。ともかく教師に今のことを伝える方が早いです。皆様もご一緒にどうぞ」


とりまき達は慌ててテディから一歩引いた。


「僕達は何も!」

「わ、私達だって別に何も……」

「そうですか。ではテディ様、どうぞ」


セラフィーナは教職員の部屋を指し示し、テディに先を歩くよう促した。

案の定テディは怒りに顔を赤くさせて目をつり上げる。


「もういい!お前と話すのは時間の無駄だ!皆、行くぞ!」


言い捨ててその場から慌てたように去って行った。

意外に早く終わったことに一息つき、テディの背中に向かってぼそっと呟く。


「こんなことに難癖つけるなんて。バカすぎる」



今回もテディを苛つかせることができたし冷静で無表情を徹底している。テディの周りからもセラフィーナの評判は悪く、順調に嫌われているはずだ。


この積み重ねが大事だとわかっている。

いるのだがとても疲れる。


本当はテディから逃げ回りたいが嫌われるためには会話しなくてはならない。ジレンマとはこういうことだ。


読書する気もなくなってしまい、もう図書室に行くのはやめようと踵を返したところで声を掛けられた。


「あ、あの」


同じクラスの女子生徒二人がいる。伯爵令嬢のキャサリンと子爵令嬢のリサだ。

話しかけられたのはもちろん今回が初めて。


「こちらのハンカチはセラフィーナ様のものではありませんか?」


ポケットを探るとあったはずのハンカチがない。どうやら落としてしまったようだ。


「そのようです。わざわざありがとうございます」


差し出されたハンカチを受け取って頭を下げると、二人はおずおずと質問してきた。


「そちらはもしかしてダウナー商会から出されているハンカチシリーズの新作ですか?」

「実は私達、ハンカチシリーズのファンなのです」


ハンカチシリーズとは草花で染めた色のついたハンカチで、染め方を少しずつ変えているので全く同じ色柄はないが、草花の種類に合わせてシリーズ化している。


国内ではドレスの色の邪魔をしないよう白いハンカチが一般的だが、複雑なレースを施された絹のハンカチは値が張る。

高価な物を持つのが難しい下位貴族のおしゃれになればと、セラフィーナが仕入れたもので密かに人気がある。


キャサリンは伯爵家ながらあまり裕福とはいえず、手頃な価格で購入できるハンカチシリーズの新作を楽しみにしているらしい。


「気に入っていただいてありがとうございます。ですがこちらは色が濃いので敬遠される方も多いかと、保留にしている品なのです」


二人は同時に目を見開き、同時に声を上げた。


「そんなことありません!これほど鮮やかなお色ですもの!」

「ええ!確かに淡い色を好まれる方も多いですが、私はどちらかといえば濃い色が好きです」

「私もです!あの……実は私達、セラフィーナ様のお髪の色もとても魅力的だと思っていまして」

「そうなのです。深い青色がとても素敵で。本当は前々からお声をおかけしたかったのです」


二人は途中から恥ずかしそうに誉めだすので、これにはセラフィーナもびっくりした。


この髪が魅力的だなんて。

フィリアもよく誉めてくれるが他にもいるとは思わなかった。

本当いうと瞳も同じ色なのだが、糸目にしている上に髪を被せているので、何色だかよくわからないのだろう。


「あの…ありがとうございます」


嬉しくてお礼をいうと、二人は微笑んでくれた。


「それにしてもモルガン様はセラフィーナ様に言い方が強すぎます」

「ええ、ええ。こちらまで萎縮してしまうほどです」


絡まれていたのを見ていたようだ。二人の心配顔がセラフィーナには嬉しい。


「心配してくださってありがとうございます。でも大丈夫ですよ!冷静で論理的にやり込めればすぐいなくなりますから!」

「まあ!ふふふ!」

「セラフィーナ様ったら!」


三人は顔を見合わせて笑った。

その後はセラフィーナの顔色の悪さに、きちんと寝た方がよいとさらに心配されてしまった。


見た目はこんなだが話せば快活なセラフィーナに、キャサリンとリサはすぐに打ち解けた。

クラスでも話しかけてくれるようになり、時々フィリアと四人でランチをしたり放課後お茶をしたりするようになった。



セラフィーナは入学する際、孤独な学園生活を覚悟していた。

自分にとっては惚れ惚れするような残念ぶりだが、周りにとってそんなわけはない。さらにこの色だ、悪目立ちするはず。


それが今や友人達とランチをしている。楽しくないはずがない。


テディのことは別にして、セラフィーナの学園生活は充実していった。


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