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卒業パーティーで驚かれました

いよいよ卒業記念パーティー当日となった。

この日、セラフィーナはレオナルドの婚約者として紹介される。緊張ももちろんあるが、それよりも別の心配があった。


先日フィリアが笑って教えてくれたのだが、生徒達の間ではとある話題で持ちきりらしい。


その話題とは。


「レオナルドの女の趣味が悪すぎる」


なぜなら学園の生徒達は残念令嬢のセラフィーナしか知らない。まさかアレを婚約者に?!と旋風が巻き起こっているそうだ。


言われてみれば当たり前だ。

先日リリーの前で久しぶりに偽装をしたが、やってる本人ですらどうなのかと思ったのだ。アレと婚約するなど、レオナルドの目が腐っていると思われてもおかしくない。


レオナルドはもちろんその噂を知っていて「今のお前を見たら驚くだろうな」と楽しそうにニヤリと笑っていたが…



「さあ、セラフィ様!できましたよ!」

「素敵です!セラフィ様!」

「ありがとう、ターニャ、マーシャ」


セラフィーナが身につけているのは、レオナルドの髪と瞳の色になる淡いグリーン色に金糸の刺繍が施されているドレスだ。完全に独占欲丸出しである。

髪は複雑に編み込んでアップにし、品のよい髪飾りがアクセントになっている。


ターニャとマーシャは大絶賛だ。出来上がったセラフィーナを見て二人がキャッキャとはしゃいでいる。

そこにノックが聞こえ、支度の整ったレオナルドが入ってきた。セラフィーナを見た瞬間、レオナルドはさっと近づく。


「セラ、とても綺麗だ。これはまずいな。誰にも見せたくない。いっそ今から寝室に行くか」


冗談とも本気ともとれる真顔で、レオナルドはセラフィーナを抱き寄せた。キスをしようとした瞬間「「化粧が崩れます!」」双子に叫ばれ、直前でグッと止まる。


元々綺麗なセラフィーナだったが愛し愛され自信がついたことでさらに美しくなり、表情は輝いている。ほんのり色気まで放つようになっていて、レオナルドの独占欲が悪化するのも無理はない。


「以前約束しただろう、私がダンスに誘うと。今日は私以外とは踊るなよ」

「覚えていてくれたの?」

「当たり前だ。お前が嬉しそうにしていたからな。遅くなったが約束は守る」


セラフィーナが感激しているとレオナルドは笑ってセラフィーナの手を取った。


「「いってらっしゃいませ」」


ターニャとマーシャの息の合った声に、さすが双子だと二人で笑いながら部屋を出た。






その頃会場では。



「おい、殿下の婚約者があのダウナー嬢なんて本当なのか!?」

「らしいぞ。なんでもものすごい才女だとか」

「だからといってあの見た目は…。血迷われたか、もしくは」

「ご趣味が特殊としか言いようがないな」


学園の卒業生と在校生、そのパートナー、家族達が賑わいを見せているが例の話で持ちきりだ。

男性陣からは驚きと落胆。女性陣からは納得できない声が上がっている。


「いくら勉学に優れていてもあのお姿では殿下がお可哀想だわ」

「きっと殿下も仕方なくといったところでは?」

「わたくし殿下にお声をお掛けするわ!」


隙さえあれば割って入ってやろうと意気込む令嬢すらいた。



あちこちでそんな会話をしていると、レオナルドが令嬢を伴って会場入りした。


興味と悪意と様々な感情を乗せて皆がそちらに視線を送る。だが次の瞬間、全員が固まった。

「あれは誰だ?」と。



髪の色だけみれば確かにセラフィーナ・ダウナーだ。あの色を間違えるはずがない。


だが顔はどうだ?そもそもセラフィーナの顔は髪で半分ぐらい隠れていたのでよくわからない。もっさり暗い印象しかない。

だがあの女性は深い青色の瞳がパッチリしていてとても綺麗だ。あれほどの女性が学園にいたら噂になっているはず。


スタイルは?セラフィーナはぽっちゃり寸胴だった。ドレスを作るのに、すべてオーダーメイドで金がかかりそうだと下位貴族は思ったものだ。

だがあの女性は抜群のスタイルだ。ほんのり色気までまとっている。ボリュームのある胸に釘付けになる男性もいる。



婚約者はセラフィーナではなかったのか?!


誰もが驚きを隠せなかった。






学園の生徒達、男女問わず全員が目を見開き、口をポカンと開けている。

レオナルドにエスコートされながら、その視線を一身に集めているセラフィーナは思った。


そりゃそうだよね、と。


このポカン顔、残念令嬢時代に何度か見たなと思っていると、レオナルドが喉を鳴らす。


「ククク。なかなか壮観だな。エサを待つ魚みたいだ」


レオナルドは楽しそうだ。


「もう、レオ様ったら。どうしたらいいかな?」

「放っておけばいいだろう。そのうち元に戻る。さあ行くぞ」


レオナルドが腰に手を回して歩き出すので、まあいいかとセラフィーナも続いた。




二人をポカンと見ていた生徒達だったが、やがて壇上に国王ガイルが現れたことでハッと意識を取り戻し、挨拶に集中する。

卒業を祝う言葉の後、レオナルドと結局誰だかよくわからない女性が前に進み出た。


「此度、第二王子レオナルドとセラフィーナ・ダウナー嬢の婚約が結ばれた。外交官としても一流の知識を持つセラフィーナ嬢を王家に迎えることができたこと、大変嬉しく思う。また二人の婚姻は~~~」


生徒達は黙って聞いていたが後半は耳に入ってこなかった。


別人かと思いきや、あれはセラフィーナらしい。とても信じられない。痩せると人はあんなに変わるものなのか。それならまた太ったらああなるのか。なんてもったいないんだ。


そんなことを考えていたので、ガイルの挨拶が終わっても会場が静まり返っていた。すると最初にティターニアが二人に向けて拍手を送る。隣のアレクセイが続き、さらに王妃が、王弟が。公爵家であるレーベン家、ウィンストン家の面々がセラフィーナに対して惜しみない拍手を送りだした。


生徒達は再度ハッとして、慌てて手を叩いた。

セラフィーナがこれほど王族に迎え入れられているとは思ってもみなかった。

これは空気を読んで、素直に祝福するべきだろう。

大半の貴族達が強く手を叩いた。



「では音楽を!」




最初のダンスは卒業生のみで行われる。


セラフィーナはレオナルドにエスコートされ、フロアの真ん中に立った。二人初めてのダンスだ。嬉しくて仕方がない。

にこにこしているセラフィーナの耳元でレオナルドが囁く。


「そんなに嬉しいのか?」

「だってレオ様との初ダンスだもの」

「お前は本当にかわいいな。ここでキスしてしまいそうだ」


セラフィーナが顔を赤くし、上目づかいでレオナルドを睨む。それを見てクスクス笑うレオナルド。

二人は続けて三曲踊った。レオナルドとの距離が近い気もするが、セラフィーナは気にしなかった。それよりもリードのうまいレオナルドに胸を高鳴らせた。



皆が二人のダンスに注目していた。

だがいちゃついているようにしか見えなかった。


納得できなかった令嬢達も諦めるしかなかった。レオナルドの表情が違う。そもそもセラフィーナがあんなにスタイルのよい美人だと思っていなかった。しかも誰もが納得の才女。

事件で消えたクリスティナ・マケドニーや、アリシア・ペドラのようになりたくない。


割って入ろうと思う者もいなくなり、驚きも徐々に収まり、ようやく会場の雰囲気も落ち着いていった。






ダンスを終えたセラフィーナ達は脇に下がった。そこへ笑顔のフィリアがロイズとともにやってくる。


「レオナルド殿下、セラフィ、この度はご卒業おめでとうございます。並びにご婚約、おめでとうございます」


祝いの言葉をもらい、セラフィーナは照れた。


「ありがとう、フィリア」

「セラフィが幸せそうでわたくしも嬉しいですわ。在学されるティア様のことは安心なさって」

「ええ、お願いね」


セラフィーナとフィリアの会話に聞き耳を立てていた周りの令嬢達が寄ってきた。


「あの、大変失礼ですが。本当にセラフィーナ様でいらっしゃいますか?」

「はい、そうです。皆様が驚かれるのも無理はありません。恥ずかしながら、学園にいたころの私はとても貴族令嬢とはいえないものでしたし」


卑下するわけでもなく、笑顔で話すセラフィーナに令嬢達も微笑んだ。


「ですが今はとてもお綺麗ですわ」

「ええ、見違えましたもの。レオナルド殿下もお喜びでしょう」


隣にいるレオナルドが会話を引き継ぐ。


「確かにセラフィーナは美しくなりましたね。ですが彼女の良さは外見だけではありません。セラフィーナは非常に勤勉で、常に前を向き精進する、一途で素晴らしい女性です。私はそんな彼女だからこそ惹かれたのですから」


レオナルドは腰を引き寄せセラフィーナににっこり笑いかけた。爽やかな貴公子で褒められるのは新鮮で、セラフィーナはポッと顔を赤らめる。


そんな二人に令嬢達は「キャーッ」と悶え、二人のなれ初めを聞きたがった。

どうしようかと思ったがレオナルドが適当に話をでっち上げ、場を盛り上げた。そういうところは腹黒なんだなと思いながらもなんとか話を合わせる。

そのおかげか「ご婚約おめでとうございます!」と声をかけられるようになった。


人に言われると実感が湧いて、セラフィーナは嬉しさが隠しきれず笑顔を振り撒いた。





ある程度の挨拶が終わり、一旦レオナルドと離れたセラフィーナは、フィリアとともにキャサリンとリサに合流することにする。


二人は隅のほうで飲み物を口にしており、セラフィーナが現れると二人とも目を潤ませた。


「セラフィーナ様、お久しぶりです」

「お元気そうで安心しました」

「はい、お陰さまで。ご心配おかけしました」


二人とは学園襲撃事件以来だ。手紙は送っていたしフィリアからも話してもらっていたが、賊に連れ去られるセラフィーナに気を揉んだに違いない。


積もる話もあるからと、四人でガーデンテラスに移動した。人はまばらで、ここならゆっくり話せるだろうとベンチに腰を下ろす。


事情を知っている二人はセラフィーナの容姿をただただ褒め称えた。そしてレオナルドとの馴れ初めを聞きたがった。

照れながら話すセラフィーナにキャサリンとリサは目を輝かせる。


「「ご婚約おめでとうございます!」」


その言葉にセラフィーナがさらに照れ、四人で盛り上がっているとガサリと音が聞こえた。



「こんなところにいたのか!セラフィーナ!」


その怒鳴り声は、とっくに忘れ去った過去に舞い戻ったかのようだった。

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