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セラフィーナのできること

学園に通いだして五日目のその日。


その日もレオナルドとユーリアスは、セラフィーナ達を学園に送り届けてから王宮に戻っていった。


「学園内でそうそう問題が起こるとも思えんが、とにかく気をつけろ。何かあれば専用の談話室で待機しろ。あそこは警備を厚くしてあるからな」


それはレオナルドからよくよく聞かされていた。

だがまさか本当に、何か起こるとは思っていなかった。



まもなく放課後という時間にそれは始まった。


まず食堂の窓ガラスに石が大量に投げ込まれたらしく、大きな音とともに騒ぎになった。

授業を受けていた生徒達は寮に避難するよう指示を受ける。


セラフィーナはティターニアとフィリア、たまたま居合わせたキャサリンとリサの五人で、ティターニアの談話室に逃げ込んだ。談話室にはすでにターニャとリンカが待っていた。


「私達も騎士団から避難指示を出されたのでこちらにまいりました」

「犯人は部外者の可能性が高いと話されていました」


やっぱりそうか。狙いはもちろんティターニアだろう。学園を巻き込むなど、ずいぶん大がかりなことしたものだ。


静かに様子を窺っていると、談話室の警備をしていた騎士達が慌ただしくやってきた。

今度は寮の方で煙が上がっているらしい。そちらに人員を割くため、警備が手薄になること、談話室から出ないことを言い含められた。


セラフィーナは嫌な予感がした。

他に目を向け本懐を遂げる、基本中の基本だ。

騎士達もわかっているだろうが、火の手を放置するわけにはいかない。


ティターニアを見ると、意思の強い眼差しをしている。怯えはみられない。さすがだと思った。


でも……

セラフィーナの鼓動が早くなる。緊張と不安が入り交じる。だがこれが最善だ。

ごくんと唾を飲み込み、覚悟を決める。


「ターニャ、部屋の灯りを少し暗くして。それからティア様。……これをかぶってください」


セラフィーナは自分がつけていた濃茶のかつらをティターニアに差し出した。それを見たティターニアが大きな目をさらに大きくした後、険しい表情になる。


「な、何を言っているの!?フィーナ!」

「これはあくまで念のための措置です。私はアレクセイ殿下からくれぐれもティア様を頼むと言われています。髪の色が暗い私にしか、あなたの代わりはできません」


そう言って自分の髪を手に取った。


「そんな!やめて!あなただって何かあったらレオナルド殿下が悲しむのよ!」

「いいえ、きっとレオ様は褒めてくれます。あなたは未来の王妃となる方です。一介の伯爵令嬢と一緒ではありません」

「フィーナ……」


ティターニアは悲痛の表情を浮かべ、涙を流し始めた。その綺麗な涙に、セラフィーナの緊張感が少しだけ和らいだ。


「さあ、ティア様。フィリア、手伝って」

「セラフィ、あなた……。わかりましたわ。ティア様、失礼いたします」


ティターニアは泣きながらかつらをかぶりメガネをした。ターニャが灯りを暗くしてくれたので、セラフィーナのダークブルーは限りなく黒に近づいた。


まさかこんな形で自分の色が役に立つとは思わなかった。レオナルドがずっと褒めてくれていた色だ。ティターニアの代わりになれることを誇りに思おう。

自分にそう言い聞かせる。


一部始終を見ていたキャサリンとリサは驚愕していた。

フィーナ・ガレントだと思っていたのは別人で、自分達がよく知っているはずのセラフィーナ・ダウナーだということに。しかもセラフィーナの見た目が違いすぎる。


視線を感じ、二人と目が合ったセラフィーナは頭を下げた。


「騙していてごめんなさい。でもお二人とお友達になれてとても嬉しかったです」

「本当に、セラフィーナ様なのですか?」

「はい。私がセラフィーナ・ダウナーです。実は」


説明しようとしたが、外の罵声がここまで聞こえる。いよいよ覚悟を決めなければ。


自分の鼓動がどくどくと脈打つのがわかった。

冷静に、冷静にと言い聞かせる。


「キャサリン様、リサ様、時間切れです。ですがどうかこのことは内密にお願いします。フィリア、後はよろしくね。リンカ、ターニャ、ティア様を頼んだわ!なるべく二人でティア様のお姿が見えないようにして!」

「「はい!」」


扉から一番離れた部屋の隅に固まる。

リンカとターニャは言われたとおり、ティターニアが目立たないようにした。



皆の緊張感が高まったその時。凄まじい音がして三人の男が談話室に雪崩れ込んできた。

三人とも学園の制服を着ているが、あきらかに年齢にそぐわない。


〔おい、どれだ?〕

〔髪が黒い美人だろ!〕

〔でも後ろに濃い髪の色が二人もいるぞ!〕


これはサライエ語だ。やはりルードリッヒが絡んでいることに間違いなさそうだ。


「コクーンから来ているのはその暗い色をした三人だな!お前ら前に出ろ!」


セラフィーナはさっと一歩出て立ち塞がり、凛とした声で威圧するように話した。


「わたくしがコクーン国の第二王女ティターニアです」


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