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遠ざかる距離

バラ園に残された面々は、二人の姿が見えなくなってから息をついた。


「ユーリ、いいのか?」

「無粋な真似はできませんよ」


アレクセイは心配したが、ユーリアスは肩をすくめただけだった。


「それにしてもフィーナ嬢はなかなか地雷を踏むねぇ」


笑うレザールにティターニアが説明する。


「フィーナは自分の感情にも他人からの好意にも鈍感で、レオナルド殿下のお気持ちに気付いていないのです」

「ええ?!あのレオがあれだけ独占欲丸出しなのに?!」

「はい。そしてフィーナの気持ちは一目瞭然です。レオナルド殿下はそれを楽しんでいるようです」

「はぁ、レオがやりそうなことだ」


セラフィーナの鈍感さにびっくりするレザールと、レオナルドの性格の悪さに溜め息をつくアレクセイ。

そこにフィリアも付け足す。


「ジーク・ハワード様はセラフィに好意を抱いていますが、セラフィは子息のことを優しいけど女性好きと評していますわ」

「それはまたなんとも……」


不憫な。

男性陣が苦笑する。


「まあ、お互い想い合っているのなら時間の問題かな。優しく見守ろうか」


レザールの意見に皆笑顔で同意した。

だがその頃二人は……






レオナルドに抱き抱えられたセラフィーナは、自分がなぜこんな状況になっているのかさっぱりわからなかった。

ただ思うのは、レオナルドの腕の中にいることがとても嬉しくとても恥ずかしい。レオナルドの整った顔がいつもよりぐっと近くにあって赤面しそうだ。


前みたいに首に手を回していいのかな、でもそんなこと恥ずかしくて自分からできない…


手を胸の前でもじもじさせていると、地面に降ろされた。バラ園の出口に近づいたため、ここからは第二王子とフィーナに戻る必要がある。


セラフィーナは残念に思いながらも、無言で歩くレオナルドに付き従った。







セラフィーナの自室に着くとレオナルドが扉を開けてセラフィーナを中に入れる。自分もさっさと入り込んでソファにドカッと腰を下ろし、腕と足をそれぞれ組んだ。


その正面にいるセラフィーナはレオナルドの機嫌が悪そうなので、お茶でも入れた方がよいかもしれないと思った。


「あの、お茶を入れますね」

「いや、今はいい。それよりジーク・ハワードについてだ」

「ハワード様?何でしょう?」

「なぜそいつがお前に菓子を渡す?」

「席が隣なのです。だからよく話しかけてきて、それででしょうか?」

「……何を話しかけてくるんだ?」

「そうですね。面白かった本の話とか、勉学の進み具合を心配されたりとか。あといつも放課後、馬車まで一緒に付いてきますね」


よくわからず答えていると、レオナルドははぁと溜め息をついた。


「私は以前言ったことがあるな?男に注意しろと、近づけるなと」

「はい。でも別にハワード様は悪い方ではないですし」


レオナルドの片眉が上がる。


「なぜそう言える?」

「だって普通に優しいですし」

「一見優しい男などどこにでもいるだろう」

「で、でも同じクラスの方ですし」

「ただのクラスメートがなぜお前に菓子を渡す?なぜお前を馬車まで送る必要がある?」

「……それは」

「だからお前はわかっていないんだ」


レオナルドはまた溜め息を吐いた。


セラフィーナはなぜレオナルドがこんな態度をとるのかわからなかった。ただ、自分が悪いことをしているような、責められているような気がして、なんとなく反抗したくなってしまう。


「なぜそんなことを言うのですか?普通におしゃべりしているだけだし。無下にすることもないと思います」

「…お前は本当にそう思うのか?」

「はい。だってハワード様は傲慢なテディ様とは違います。何が悪いのですか?!」

「………」


レオナルドが眉間にしわを寄せたがセラフィーナは止まらなかった。


「そ、それに、そんなこと言ったらレオナルド様だって」

「私がなんだ」

「ア、アリシア様と仲良さそうにしています。きっと皆さん誤解されてます!」

「……私は以前言ったな。第二王子として振る舞うと。それを忘れるなと」


セラフィーナは黙った。

それはもちろん覚えている。でも自分だってアリシアと仲良くしているじゃないか。ジークと話すことの何が悪いのか。


そんな態度にレオナルドは目を閉じた。沈黙の後ゆっくり目を開き、髪を掻き上げる。それと同時に、温度をなくした冷めた視線をセラフィーナに向けた。


その瞳の冷たさにセラフィーナは狼狽える。

なぜと思った矢先にレオナルドが淡々と言った。


「そうか、わかった。私からはもう何も言うことはない。お前の好きに行動すればいい」


さっと立ち上がり、セラフィーナの横をすり抜けていってしまう。バタンという音の後に部屋がしんと静まり返った。


「え………?」


まさか出て行ってしまうとは思わず、セラフィーナは呆然とした。突き放されたように感じた。


「なん…で……」


混乱と動揺の中レオナルドの最後の言葉が甦る。

“私からはもう何も言うことはない。お前の好きに行動すればいい”


そしてあの冷めた瞳。

今まであんな冷たい目で見られたことなんてなかった。感じたのではなく、本当に突き放されたのではないか。


セラフィーナは慌てて扉に向かい、廊下に飛び出るもののレオナルドの影すら見えない。


「なんで……」


なぜ?どうして?

そんな言葉がぐるぐる頭の中を回る。


いつもは頭を撫でてくれるのに。

ついさっきまであの腕の中にいたのに。

温かく包まれているような感覚がずっとあった。からかってくる時でさえずっと。


それが今は放り出されたような、そんな冷たい空気がまとわりついてくる。

遠ざけられたのだと、それが嫌でもわかってしまった。


「レオ、ナルド、さま」


心の痛みとともに、やがてセラフィーナの瞳からポロポロと涙が溢れ始める。



やっと自分の気持ちに気づけたのに。

レオナルドが好きだと。

誰よりもそばにいてほしいと。

やっとわかったのに。



流れる涙をそのままに、セラフィーナはただその場に立ち尽くした。


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