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素晴らしい助言に決意する

目が合っているのにさすがに無視はできない。


「お久しぶりね、セディ。こんなところで読書をしているの?」

「ああ、誰かと思ったら義姉上か」


セディは一瞬怪訝な顔をしたがすぐにセラフィーナとわかったようで、すくっと立ち上がった。


「義姉上、この度は御愁傷様です。心よりお悔やみ申し上げます」


セディが頭を下げる。

そんな姿にびっくりして、思ったことをそのまま口にした。


「驚いたわ…テディ様は辛気臭いなんて言ったのに。同じ兄弟とは思えないわね」

「あいつと同類とは思われたくないな」


軽く息を吐くセディの顔は、テディと似ているはずなのにずいぶん大人びた表情だ。テディをあいつ呼ばわりしているのも驚く。


セラフィーナはそんなセディともう少し話がしたくなった。気になるのは。


「なぜ義姉上って?」

「あいつにそう呼べって言われたから」

「ああ、そう、そうね。そうなるわよね……。ねえ、となり座っていい?」


セディは頷き、二人でベンチに腰掛けた。


「セディ、こんなこと聞くのもおかしいけど、あなたはテディ様のことをどう思っているの?」


セラフィーナをチラッと見たセディは、正面を向いて答えた。


「傲慢で思慮の足りないバカ」

「まあ、セディ!自分の兄…ふふ……なのに……ふふふふ」


その言いようにセラフィーナは笑いが止まらなくなる。

そのとおりだ!と叫びたくなった。



ようやく笑いが収まったころ、気を許したのかセディは淡々と話し出した。


「うちの両親は良くいえばおおらか。悪くいえば考えが足りなくて特に母上が酷い。母上があいつを甘やかして、父上は母上に甘いから結局何もせずにいて、だからあいつはどんどん増長しているんだ。侯爵家嫡男だというのに先が思いやられる」


冷静に話すセディにセラフィーナは感心した。


「セディ、あなたすごくしっかりしているのね。とても七歳?今は八歳かしら。見えないわね」

「この前八歳になった。あんな兄を見ていたら誰だってこうなると思う」

「そうかしら。兄につられてバカをやる弟だっているはずよ。セディは自分をちゃんと持っていて偉いわ」


見た目は似ているが中身がまったく違う。なぜこんな差ができるのか不思議でしょうがない。


セディは俯いていたが、顔を上げてセラフィーナを見つめた。


「ねえ、義姉上は本当はあいつとの婚約なんてやめたいんじゃないの?」

「……そのとおりよ。でも亡くなったお母様の望みだったの。本当はすぐにでも解消したいの。でも落ち込んでいるお父様にはまだ言えなくて。それにお母様が大好きだったお父様が、私の希望を優先してくれるかは……」


憂鬱になって黙ると、セディが驚きの発言をした。


「それならあいつから婚約破棄するように仕向けたらどうかな?」


セラフィーナはびっくりしてセディの顔を凝視した。


「どういうこと?」

「あいつに嫌われたら、あいつの性格上自分から破棄するって言うと思う」

「それは、そうかも。でも嫌われるってどうやって?テディ様は私に対して横柄だし、すでに嫌われていると思うけど」

「いや、好き嫌い関係なく誰に対しても横柄だから。あいつはプライドがすごく高いんだ。だからあいつより成績がいいのは絶対だ。あと何を言われても冷静にあしらって常識や正論で論破すること。徹底的に拒否すること。無表情でいることも大事かな。遠回しな言葉で愛想笑いを浮かべても、傲慢なあいつは気づかない」


次々出てくる内容に呆気にとられていると、セディは得意気に口の端を上げた。


「すでに僕が実行済みなんだ。おかげでずいぶん距離ができて楽になった」

「……セディも苦労しているのね」


同士だと思った。


「こんなこと言いにくいけど、もう少し地味な装いにしてみるのもありだと思う。外見も大事だよ」

「でも暗い色だと昔からバカにされてきたのよ。テディ様は私の容姿をとっくに嫌っているわ」

「そんなことないよ。確かにこの国じゃ見ない色だけど、義姉上は顔立ちが整っていて綺麗じゃないか。あいつもそこは悪くないってよく言ってる。あいつの“悪くない”は気に入ってるってことだから」


“悪くない”

婚約手続きのときにも言われた言葉だ。

それを思い出したセラフィーナはだんだん腹が立ってきた。


あんなに色が気持ち悪いと貶してくるのに、顔は気に入っているなんて!


人の気持ちもわからず勝手なことばかり言うテディの傲慢さに、心底嫌気が差すし怒りすら湧き上がってくる。


テディから逃げ回り、そのうちローレンを説得できればと考えていたが、セディの提案に一理あると思った。

今日だってセラフィーナを貶してきたテディだ。このまま何もせずにいるなんて自分が耐えられそうにない。


ムカムカする怒りを力に変えて、勢いよく立ち上がって宣言する。


「セディ!私はテディ様に嫌われて婚約破棄してもらうわ!」


声の大きさにビクッとなったセディだが、セラフィーナがやる気に満ちているので先を促す。


「う、うん。そうだね。どうするつもり?」


セラフィーナは強気に答える。


「セディがやってきたことを私も真似するわ!無表情で冷たくあしらうようにして、テディ様に負けないように勉強も頑張る!あとは外見ね。顔が気に入っているなんて言われてもちっとも嬉しくないわ!むしろとても嫌な気分よ!メガネをかけたり地味な装いにしたり……ここはまだ検討が必要ね。外見も駄目、性格も生意気と思われれば、あなたの言ったようにテディ様は婚約を嫌がるはずだわ!」

「でも本当に婚約が破棄されて大丈夫なの?体裁が悪いよ」

「大丈夫よ。私にはダウナー商会があるから無理に結婚する必要はないわ。それにできたらずっと異国を見て回りたいの。だから婚約がなくなれば身軽になれるし良いこと尽くしだわ!」


ふふふと楽しそうに笑うセラフィーナにセディは納得した。


「それなら僕は義姉上を応援するよ」

「ありがとう。でもその義姉上っていうのやめない?テディ様がチラつくの。セラフィでいいわ」

「兄の婚約者を愛称で呼ぶのはまずいよ。それに僕は四つも年下なんだし」

「ならセラフィ姉さんはどう?商会に奉公にきている領地の子供達が私のことをそう呼ぶの。弟ができたみたいで嬉しいわ!」

「セラフィ姉さん……」


侯爵子息が伯爵令嬢相手に、それはどうなのかとセディは思ったが、セラフィーナが楽しそうなので何も言わずにおいた。


「セディ!私達テディ様に負けないようにお互い頑張りましょう!婚約破棄に向けてあなたにも情報提供してもらいたいし、これからも仲良くしてね!」


そう言って元気よく右手を差し出す笑顔のセラフィーナに、セディは今日初めて年相応の笑顔を見せた。


「こちらこそ、セラフィ姉さん」







それからセラフィーナは学園入学までにできるだけのことをと奮起し、さらに猛勉強をした。セディに言われたように成績優秀になり、テディの自尊心をへし折るためだ。

ガーレンについて異国巡りも続けており、将来婚約が解消されたときを夢見てこちらの勉強も続ける。

かなりハードスケジュールだったが、セラフィーナは意に介さなかった。


学園に入学してしまったユーリアスとなかなか会えないのが寂しかったが、思いを伝えると“頑張れ”と頭を撫でてくれた。

子供のころから絶対的な味方でいてくれるユーリアスの存在が、とても心強い。


テディとは徹底的に会うのを避けた。

訪問しろと手紙がくるが、ほぼ無視した。侯爵夫人からもお誘いがあったが、商会を理由に丁寧ながらもすべて断った。


セディからの手紙にはテディが苛立っている様子が書いてあり、順調に嫌われているようで喜んだ。


ローレンには何度も婚約解消をお願いした。だがその度に難色を示されただけだった。“メイリーの望みだから”と。

わかってくれないローレンに哀しみと虚しさを覚えるが、その感情を押し殺した。



そして一番の難関だった見た目だが、こちらは強力な味方を得て劇的に変化を遂げることができた。

鏡の前で、これならテディに嫌われるだろうとセラフィーナは手応えを感じる。


自分でどうにかするしかない。

学園に入学してからが勝負だ。


そう思い、日々精進した。


お読みいただきありがとうございます!

次話より第二章学園編です!

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