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ようやく解放されました!

「本当ですよ」


生徒達の間を割ってレオナルドとユーリアスが近づいてきた。後ろにはフィリアもいる。三人とも息が乱れており、慌ててやってきた様子だった。

もしかしてフィリアが呼びにいってくれたのかもしれない。


「テディ・モルガン。まずは手を放しなさい」

「で、ですが」

「放しなさい!!」


食堂が一瞬で静まり返った。それほど強い口調だった。レオナルドの常にない厳しい口調と表情に、テディは慌ててセラフィーナの手を放す。

掴まれていた部分が紫色の痣になっているのを見たレオナルドは、ぐっと息を飲みセラフィーナに近づいた。


「大丈夫ですか?」


眉間にしわを寄せ心配そうに覗き込むレオナルドを見て、セラフィーナはホッと息を吐いた。

もう大丈夫だ。レオナルドがきてくれた。もう安心していい。


セラフィーナは強張っていた体の緊張を解いた。


「はい、大丈夫です」

「ユーリアス」


レオナルドがセラフィーナに視線を向けたまま、ユーリアスの名を静かに呼ぶ。意図を汲んだユーリアスがさっとセラフィーナのもとに近付きふわりと抱き寄せた。


「セラフィ、こんなになってしまって……」


セラフィーナの手首を見てユーリアスの眉間にしわが寄る。

レオナルドはセラフィーナをテディから隠すように立ち塞がった。ユーリアスも厳しい表情でテディを睨み付ける。


二人の姿にテディがひるんだ。

それに構わずレオナルドは怒りが混じった鋭い視線をテディにぶつけ、温度のない声で話し出す。


「テディ・モルガン。君はそちらのマリエラ・シモニー嬢がセラフィーナ嬢にいじめられたと主張していましたね」

「は、はい!セラフィーナがマリエラのかわいさに嫉妬していじめていたんです!」

「それはいつのことですか」

「一ヶ月前から度々ありました!試験前にはおさまりましたが、セラフィーナは成績だけは悪くないですからね。勉強で忙しかったのでしょう。僕は何度もセラフィーナに注意しようとしましたが、いつ行っても教室にもどこにもいない!だから今日捕まえて白状させようとしたのです!」


鼻息荒く得意気に話すテディに、レオナルドは鋭い視線を向けたまま冷静に返す。


「当たり前でしょう。セラフィーナ嬢は二ヶ月前から王宮で私の仕事を手伝ってもらっています。学園には休学を申し出ています。ですからシモニー嬢をいじめることなどできません」

「そ、そんな!それは嘘じゃ!」

「テディ・モルガン!!口を慎め!!殿下の言葉に偽りがあると言うのか!!」


ユーリアスが怒気を含んで威圧した。これほど強い口調はセラフィーナも初めて見る。


「い、いえ、決してそのようなことでは……」

「え?セラフィーナ様じゃないの?じゃあ誰なのかな?」


呑気な声でマリエラが混ざってきたせいで緊張感が緩む。さすがだ。だからこそテディなんかと一緒にいられるのだろう。レオナルドすらも一瞬固まらせる威力だ。


「……それは調査してみないとお答えできません。ですがセラフィーナ嬢でないことは確かです。モルガン、自分でも言いましたね。セラフィーナ嬢を探してもどこにもいなかったと。学園中の誰に聞いてもこの二ヶ月間、セラフィーナ嬢を見かけた生徒はいないはずです」


セラフィーナの容姿はある意味目立つ。確かにあの姿を見ていないとその場にいた誰もが思った。


「そして婚約破棄ですね。こちらは私が責任を持って処理しましょう。大事な部下の妹を、仕事を懸命に手伝ってくれているセラフィーナ嬢を……怪我まで負わせて侮辱したのですから」


レオナルドの口調は丁寧だが冷気が漏れ出ている。テディ含め周りにいた生徒達も冷や汗が出てきて、近くにいた生徒は一歩後ずさった。


普段穏やかな方だが怒らせると怖い。

誰もがそう思った瞬間だった。


テディは何かを言いかけたが言葉が出なかったようだ。青い顔をして視線をさまよわせ、時折レオナルドに視線をやる。


「モルガン、君は学園内とはいえ、騒ぎを起こしただけではなく怪我を負わせ、冤罪をかぶせて罪に問おうとしましたね。これだけのことを仕出かしておいて、何もないとは思わないことです」


テディは青い顔で目を見開いた。王族をここまで怒らせたのだ。周りの生徒は冷たい視線をテディに向ける。


「あ、あの」

「さあ、行きましょう。セラフィーナ嬢の怪我が心配です」


何か言いかけたテディを無視して、レオナルドはセラフィーナ達を連れてその場から離れた。






廊下に出たレオナルドはユーリアスに小声で命令する。


「ユーリ、馬車を回せ。セラフィーナの怪我を診てからダウナー邸に連れていく。あれを準備しておけ」

「かしこまりました。セラフィをお願いします」


ユーリアスは軽く一礼して駆けて行った。


「フィリア嬢、学園長に報告を。私はセラフィーナを送り届けてから戻ると伝えてくれ」

「はい。殿下の御心のままに」


レオナルドは一緒についてきてくれたフィリアにも指示を出した。だが急に立ち止まり、フィリアを直視する。


「それから。知らせてくれたこと、礼を言う」


フィリアは驚いた顔をしたがすぐ笑顔になった。


「わたくしの大切な友人のためですもの。殿下のお役に立ちましたこと光栄ですわ」

「やっぱりフィリアがレオナルド様に知らせてくれたのね。ありがとう」

「いいえ、セラフィ。とても痛かったでしょう。きちんと手当していただくのよ。ではわたくしはこちらで失礼いたします」


フィリアはセラフィーナの手首を見て辛そうな表情になったが、さっとカーテシーをして離れて行った。


レオナルドと二人で医務室に行き手当をしてもらう。よほど強く掴まれていたようで、一週間から十日ほどは痛みや痣が残るだろうと言われた。レオナルドは黙って聞いていたが、眉間にしわが寄っている。

その後はレオナルドの馬車に乗り、三人でダウナー邸に向かった。






馬車の中、セラフィーナは心が踊っていた。

もうこれで本当に婚約解消になる。何年も嫌だと思い続けた婚約が今日終わる。手首の痛みも忘れて踊りだしたい気分だ。


だが馬車の中の空気が重い。レオナルドが怒っているからだ。でもお礼は言いたい。


「レオナルド様、ありがとうございます」


ずっと黙り込んでいたレオナルドが静かに口を開いた。


「またお前に怪我を負わせてしまったな。…悪かった」


セラフィーナはびっくりして目を丸くした。


「そんな!レオナルド様が謝ることなんて何もありませんよ!」

「だが、これで二度目だ」

「それはテディ様とリドリー様のせいであって、レオナルド様のせいではないです。むしろ前回も今回も助けてくれたじゃないですか!テディ様は昔から話を聞かない方です。今日も同じです。本当言うと手首も痛いし言葉も通じないし辛かったです。でもレオナルド様がきてくれて安心したんです。もう大丈夫だって!」

「そうか」

「はい!だからありがとうございます!今も馬車まで出してくれて。レオナルド様が来てくれなければ、私は今もテディ様に掴まれたままだと思います!っいた!」


腕を上げようとしたのだが、手首が痛くて上げられなかった。


「おい!無理するな!」

「はい、すみません。ふふふ」


笑い出したセラフィーナにレオナルドは怪訝な表情をする。


「なぜ笑う?」

「ふふ。だってレオナルド様が焦っているところなんて初めてみました。心配してくれるの嬉しくて。ふふ。それにやっと婚約解消できます。念願だったのです!やっと自由になれます!やっと!やっとです!」

「そうだな。よかったな」


レオナルドがセラフィーナの頭を撫でてくれる。


嬉しい!嬉しい!やっとテディから解放される!どれだけこの日を待ちわびたか!


満面の笑みではしゃぐセラフィーナを見て、レオナルドとユーリアスは顔を合わせて苦笑した。





セラフィーナは久しぶりにダウナー邸に帰ってきた。送ってくれるだけかと思っていたレオナルドは、一緒にローレンに会ってくれるという。

レオナルドを連れて急に戻ってきたユーリアスとセラフィーナに、使用人達が驚きながらも出迎える。


「父上はどこにいる?」

「執務室におられるかと」

「ではそちらに向かう」


三人でローレンの執務室に向かった。


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