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問題児ルードリッヒ登場

「やあ、花の香りに誘われてきてみれば、とても美しい蝶達が舞っているね。僕もぜひ仲間に入れてもらいたいな」


やってきたのは淡いピンクの髪色に、合わせたようなド派手な格好をした男性だった。なんだかこちらまで恥ずかしくなるような台詞を吐いている。

エメレーンが金の瞳を光らせて、きつい口調でその男性を咎めた。


「ルードリッヒ、貴様誰の許可を得てここに入った!」


名前を聞いてようやくこの男性が誰かわかった。

レオナルドからも散々警告された、サライエ王国第三王子だ。

近衛騎士の一人が駆けていくのが見えたので、そのうちアレクセイあたりがやってくるだろう。


「やあ、エメレーン。相変わらずとても綺麗だね。その手にキスをしても?」

「いらん。貴様は相変わらず気持ち悪いやつだな」

「ぐっ。やだなぁ、そんなこと本気で思っていないだろう」

「いいや、本気だ。貴様は昔から女々しくて気持ちが悪い。大体なんだ、その格好は。それで格好良いと思っているなら頭がどうかしているぞ。サライエには鏡がないのかと思うぐらいだ」

「………」


散々な言われようにルードリッヒが黙った。少し言い過ぎな気もするが、でもこれぐらいの扱いじゃないと駄目なのだろう。

だって。


「やあ、美しい蝶達。僕はサライエの王子ルードリッヒだ。お名前を伺っても?」


ほら、やっぱり。


口を開きかけたティターニアを目で制し、セラフィーナが答える。


「サライエ王国の第三王子でいらっしゃいましたか。せっかくですが、本来こちらの出入りは禁止されているはずです。警備に不備がみられますので即刻立ち去ってくださいませ。わたくし達も失礼させていただきますわ」


ルードリッヒの後ろにいた緑色の髪をした男性が慌てた。


「ルードリッヒ様、やはりこちらに立ち入るのは問題です。一度引き返しましょう」

「なんだと!僕に意見する気か!お前は静かにしてろ!……やあお嬢さん方、従者が失礼したね。あまり使えないやつなんだ」


セラフィーナはこの愚かな男にテディを思い出した。態度は丁寧にしているつもりだが、傲慢さがまったく隠しきれていない。これで第三王子とは。サライエは大丈夫なのか?


エメレーンと目配せする。エメレーンが防波堤になってくれているうちにティターニアを連れ出すのだ。

エメレーンがまた攻撃を始めた。


「使えないのは貴様だろう。その従者は至極まっとうなことを言っているぞ。ここは貴様の国ではない。そんなことすらわからんとは、」

「どこに行くんだい?せっかくだから僕と庭園を散歩しよう」


立ち去ろうとしたセラフィーナ達の前にルードリッヒは躍り出た。

そしてティターニアの手を取ろうとしたその時。


「何をしている!ルードリッヒ!」


ものすごい剣幕のアレクセイと、眉間にしわを寄せたレオナルドが駆けつけてきた。

アレクセイのあまりの怒りようにルードリッヒは震え上がりながらも、なんとか返事を返す。


「ななな、なんだ。ア、アレクセイか。ぼ、僕には用はないからあっちいけよ」

「貴様誰の手を取ろうとした!」

「だ、だ、だれって!ひぃっ!」


ティターニアの手を取ろうと出していたルードリッヒの腕を、アレクセイは握りつぶす勢いで掴みルードリッヒを引き倒した。


「お前が手を取ろうとした女性は、私の婚約者だ!王太子妃、ひいてはクレイズの王妃となる方だ!」

「え、あ、うう」

「貴様が勝手にしていい相手ではないのだ!わかったか!わかったならさっさとここから立ち去れ!次問題を起こしたら即刻退去してもらう!国同士の問題になってもこちらは一向にかまわんぞ!!」


普段ティターニアにデレデレしている姿をよく見るので忘れがちだが、さすがは王太子。

空気をビリビリさせいつも以上に覇気をまとって殺気すら感じる。これほど怒り狂うアレクセイはまずお目にかかれないだろう。

だが愛するティターニアを守る姿勢はとても素晴らしい。


直接怒りをぶつけられたルードリッヒはたまったものではないだろう。引き倒されて芝の上に転がったまま顔を青くして、震えて立てないようだ。


「兄上、どうかそのあたりで。ルードリッヒ殿、立てますか?」


爽やかな貴公子レオナルドが声をかけると、ルードリッヒはのろのろと顔を上げた。


「あ、ああ。レオナルド殿。ア、アレクセイが……」

「そうですね、兄が大変失礼しました。ですがこちらは立ち入り禁止のはず。警備の隙をついて侵入したとなれば、いくらお客人でも許されません。特に怪我もないようですし、これで済んでよかったです。さあ、立ってください。私が客間に案内しましょう」


そう言いながらも手を貸さないレオナルド。さりげなく怪我がないことを了承させるのも彼らしい。

緑の髪の従者が近くに寄り、無言でルードリッヒを立ち上がらせた。


何か言いたげなルードリッヒだったが、アレクセイがものすごい形相で睨んでいるので結局何も言えず。代わりに従者が無言で頭を下げた。


「さあ、ルードリッヒ殿。行きましょう」


レオナルドはチラッとセラフィーナに視線をやり、ルードリッヒと従者を連れ出した。


その時ふとセラフィーナは違和感を覚えた。だがその正体がわからない。

でも何かが気になった。


セラフィーナが考えているとアレクセイの溜め息が聞こえ、そちらに気を取られた。


「大丈夫か?ティア。何もされていないか?」


先ほどまで怒り心頭だったアレクセイは、今度はおろおろしながらティターニアを心配している。その様子にティターニアはくすっと笑った。


「ええ、大丈夫です。何もされていません。助けてくれてありがとうございます。アレクセイ様、あの、とっても格好良かったです」


少し顔を赤らめて、上目使いで恥ずかしそうにお礼を言うティターニアにセラフィーナは心臓を打たれた。


ああ!なんてかわいらしいのだろう!ティターニアに何もなくてよかった!


だが真正面で直撃されたアレクセイはさらにまずいだろうと思い見ると、やはり顔を真っ赤にさせていた。


「あ、ああ、いや。部屋まで送ろう」

「はい、ありがとうございます。ではエスコートしていただけますか?」

「あ、ああ。どうぞ。お手を」


二人で宮に向かっていくがアレクセイはギクシャクしている。手と足が一緒に出そうだ。その後ろをリンカが邪魔をしないように静かについていく。


あれならさほど問題ないだろうと見送っていると、クスッと笑い声が聞こえた。

見るとエメレーンが笑っている。


「ティアもやるな。あれほど動揺したアレクを見るのは初めてだ。いや、その前の剣幕もだな」

「そうですね。私も初めて目にしました。アレクセイ殿下の殿下節はよく見ますが」

「ん?なんだその“殿下節”というのは?」

「アレクセイ殿下がティア様の良いところを延々と語り継ぐものです」

「ああ!あれか!ははは!殿下節か!そなた面白いことを言うな!気に入ったぞ!」


二人で笑いながら宮に戻った。




だが。


セラフィーナには、エメレーンが泣いているように見えたのだ……


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